夜に朝で、ことばのおべんきょう ーライナーノーツ編ー
まえがき
そもそもライナーノーツってなにそれ。
私がアルバムを聴いて感じたこと?
そんな他人の感想なんて聞いたってしょうがないじゃないか。
だってこれは、私の耳に届いた瞬間に私のものになるのだから。
こういう一方的な考えで、いつからか音楽雑誌を盲目的に買い漁るのはやめていた。
好きになればなるほど、アーティストへのインタビューなのに、偉そうにこの新譜はああだこうだ解説みたいなことをしている(ように感じる)ライターを、苦手に感じるようになっていった。
もちろんこの人の客観的な感じが好きだな、とか、この人の文字なら多少主観が入っていても読みやすいな、とかもあるから、一概に嫌い!とも言えないけれど、まあとにかく、クリープハイプがライナーノーツを募集?余計なことしないでよ、みたいな気持ちは少なからず存在していた。
じゃあなんで私が通勤時間という名の睡眠時間を削ってまで言葉をこねくり回しているかと言えば、あろうことか言葉を武器にする尾崎世界観の、言葉をください、という言葉があったからだ。
それに加えてお手本のライナーノーツ。
あっ、なんだ、こんな感じでいいんだ、と思った。
これなら私も書けそう!とかそういう軽い気持ちではないし、言葉のプロを舐めてかかっているとかでもなく、こうやって思いっきり ※個人の感想です みたいなことでもいいんだ、と。
すとんと納得した自分がいた。
私がこのアルバムを聴いて、私が感じて、私がいいと思ったことを、私の言葉で表現する。
なんだかやってみたい気持ちになった。
よし、やってやるぞ。
とはいえ、あまりにファン(※太客)目線になっても仕方がないから、冷静に行こうと思う。あとで恥ずかしくなっちゃいそうなものは書きたくないし。
あとがきみたいなまえがきですが、あくまで※個人の見解 ですので、優しい目で見守ってください。
1、料理
あ〜〜〜!!情熱大陸のやつだ〜〜!!最高です!!!!ありがとうございます!!!!
失礼しました。取り乱しました。
冷静に、なんてまえがきがどうでもよくなってしまうくらい、一気に引き込まれる曲。
イントロを聴いただけで、アルバムの一曲目はこれしかないだろ、と思ってしまう。
料理ってタイトルだから、生活感のある可愛い曲なのかなって。
そしたら、いきなり愛と平和を煮しめてしまう。なにそれ。最高。
恋よりももっと濃い、愛よりももっと重いものって、苦しいけど信じられないくらい幸せだよなあ。
たけど、苦しいくらいに大好きな人にも見せたくない苦いところはもちろんあるはずで。
でもその焦げも含めてそばにいてくれる。
そりゃ腹も膨れますよ。濃い時間、隣にいてくれたら恋もするしお腹も満たされる。
キャッチーなフレーズやリズムで、いい意味で軽く聴けてしまうけれど、歌詞を読めば読むほど、胃にズシリと刺さる。
ああ、尾崎世界観だ。
ああ、クリープハイプだ、と言う曲。
2、ポリコ
気になりだすと、そのことしか考えられなくなる。
そこ、まだ汚れてるよ。
そこ、君の悪い癖だよ。
そこ、悪口聞こえてるよ。
気づいたから言っただけなのに、自分が悪いことしたみたいな気分になるのは何故なんだろう。
なんで私が気を遣わなきゃならないのかな。
周りが気になってしまう自分が気になってしまう曲。
掃除って好きだけど嫌い。
ゴシゴシ擦って汚れを落とすのは気分がいいけれど、こびりついた汚れにも情が湧いてしまう自分もいる。
どんなに汚くても、私から生まれた汚れは、私の生きた証みたいに考えてしまう。
そう思うと、汚れがない人ってそれはそれでなんか物足りないな。
もっと汚れて汚れて汚れて、それを私が少しずつ綺麗にしたい。
それでも綺麗にならない場所は、私が愛して愛して愛してあげたい。
3、二人の間
このタイトルが、絶妙だと思った。
2人の「ま」って読めば、お笑いやお芝居でいう、間のことだなって分かるし、2人の「あいだ」って読めば、間柄とか、関係とか、そういう意味でとれる。
ダイアンに提供したこの曲は、津田さんとユースケさんのちょうどいい「ま」も「あいだ」も表現されていて、聴いてて心地いい。
もちろん、リスナーである私と、私の彼との曲にだってなるし、大好きな友達同士の曲にだってなる。この曲を聴いた人が、聴いてパッと思い浮かべた人との間の曲になるのがすごい。
言葉数自体は少ないけれど、そういう親しい間柄の人との会話って、そんなもんだよね。
一緒にいるから言葉にしなくても伝わることもあるし、一緒にいるから言葉にならなくても伝わることがある。
そのままでいることの愛おしさともどかしさを感じる曲。
4、四季
四曲目が四季なのいいな。
四季だもんね。
春の歌、夏の歌、秋の歌、冬の歌。
それぞれの歌はあっても、一曲でその全部を味わえるのはあんまりない気がする。
クリープハイプは夏にエロい曲をリリースする、みたいなイメージだったけど、本当は春こそがエロいんだね。
たしかにピンク色だしね。
四季は歩いているときに聴くとワクワクする。
今の時期は、夕暮れの帰り道に冬のパートを聴くとワクワクする。
どちらかというと冬は好きじゃない。どこもかしこもキラキラしていてムカつくし、鼻に流れ込む冷たい空気でくしゃみをしそうになるから。
でも千切れそうなほどに冷えた耳から四季が体に伝わってくると、なんだか冬もいいもんだなって思えてきてしまう。
こんなふうに嫌になる毎日も四季といれば、春も、夏も、秋も、きっとちょっぴり好きになる。
これから、この曲と一緒に一年を過ごせるのが嬉しい。
5、愛す
愛すって書いてぶすって読むなんて考えたの誰ですか?普通思いつかないでしょ…と、いい意味でちょっと引いた曲。
これは本当に、聞けば聴くほどいい曲。
そして、聞けば聴くほどたくさんの言葉遊びがある。
「君」と「黄身」。「側」と「蕎麦」。「ブス」「バス」「愛す」。
言葉が重なれば重なるほど、本当の気持ちを恥ずかしがって誤魔化そうとしているのがわかる。
でも、そうやって誤魔かして素直になれなくて、結局拗れが直らなくて離れてしまう。
ヨリを戻すって言うけれど、絡まって捻れて無理に戻そうとして千切れてしまうこともある。
そういう不器用な不細工なところが馬鹿だなって思うし、けれど、とてつもなく愛おしいなって思う。
6、しょうもな
正直に言うと、MVがあまり好きじゃなくて、アルバム発売までに聴いた回数は2回とかだと思う。
理由はどうあれ、そんな苦手意識のある曲だったけど、ごめんなさい。
いまはめちゃくちゃに好きです。
というのも、アルバムの中でしょうもなが愛すの次の曲だからっていうのが大きいと思う。
これまで散々素直になれなくて、ブスだの蕎麦のことだの誤魔化してきて、そしてしょうもなで愛情の裏返しが流行らないからやめてって。
つくづく馬鹿だなって思ってしまう。
でも、そんなもんなんだよね。
何が伝わって伝わらないかなんて言ってみなきゃ分からないし、そもそも意味なんてなかったかもしれなくて、でもただひとつ伝わるのは、私のための歌だということで。
目まぐるしいスピードで進んでいく社会の中で、私がクリープハイプに出会えたことは奇跡みたいなことだし、私があなたに出会えたことは奇跡みたいなことだし。
だから私だけに届くように歌ってるんだと、強く強く感じた曲。
と、いいながら世間様に届きます様に、で終わらせているところが、何も変わらなくてしょうもなくて愛おしくて、大好きなんだ。
7、一生に一度愛してるよ
アルバムの七曲目。クリープハイプにとって、というかファンにとって、ちょっと期待してしまう位置。
私はきっとこのアルバムで1番好きな曲は何?って聞かれたらこの曲を答えるだろう。
クリープハイプの曲に出てくる、「一生」って言葉が好き。
約束したってことが嬉しいのと似てて、一生って言葉を使える間柄なのが可愛くて嬉しくなる。
この人とは一生の付き合いになるのかなって、相手がそう思ってくれるのが嬉しい。
私からバンドへのラブレターだし、私からあなたへのラブレターなこの曲は、聞けば聴くほど、バンドから私へのラブレターな気がして仕方がない。
そりゃみんな、ずっとずっと1番でいたいし、一生愛されてたいよね。
不安になることもあるけれど、こんなに素直な君のこと、嫌いになるわけないよ。
信じていたのに嘘だったんだ、なんて言わせない。
行き止まりの愛にはさせないよ。
8、ニガツノナミダ
これ、ずっとフルで聴きたかった曲。
短期間だけのタイアップなんて勿体なさすぎるよソフトバンクさん。
速度制限、SNS、Wi-Fiスポット聞きなれない言葉を、聴き慣れた声で歌われるのはなんか不思議な気持ち。
でも、軽快なメロディーでそんな言葉たちもすんなり聴けちゃう。
けれど、CMで使われなかったCメロからはクリープハイプ節炸裂。
「魂売りやがったって」の自虐が、クリープハイプであることに縛られていて、縛られるな、のキャッチフレーズに縛られちゃう、そこでまたクリープハイプっぽさを感じる。
でもそれはそれで悪くないからっていって、ここはどこ、から、ここはここ、にたどり着く。
最高にかっこいい。
短いのに、全部詰まってる曲。
9、ナイトオンザプラネット
はじめてこの曲を聴いたとき、尾崎世界観がクリープハイプに帰ってきた、と思った。
それも、何倍にも強くなって。
小説の執筆、芥川賞ノミネート、ラジオのパーソナリティ、愛すのremix、テレビ出演、落語家との対バン、チプルソとの曲。
他にもたくさん、こんなことやっちゃうんだ!って思っていたこと全てがこの曲に還元されて詰まってる。
バンドに持って帰ってくるってこういうことだったのか。
頑張りすぎなんじゃないか、バンドから離れちゃうんじゃないか、きっとファンからそう思われてるんじゃないかって思ってるんじゃないかってちょっと不安だった自分もいた。
そんな気持ちを全部取っ払ってしまうくらい大きな曲。
愛とヘイトバイト、クリープハイプの全てなんじゃないか。
間違いなくアルバムを遠くへ連れて行ってくれる曲だ。
10、しらす
この曲を初めて聴いたのは、尾崎世界観の日のゲストとして歌ってくれたときかな。
カオナシさんの曲って、ちょっと不安で、どこかノスタルジーを感じる。
しらすは特にそう。
小さい頃、夕方の「みんなのうた」で聴いたような、初めて聴くはずなのに懐かしい気持ちになる。
食べることと生きることは隣同士で、生き物と自分のいのちは隣同士。
しらすもごはんも、一粒一粒が小さないのちで、それを食べて生きる彼らより身体の大きな私たちは大きないのちなの?それとも、ちっぽけないのちなの?
眠れなくなるほどの大きな疑問。
大人になってもたまに考えちゃう。
空に浮かぶ天の川の中でぷかぷか浮かんでいれば、私の不安なんてちっちゃすぎて笑えちゃうことかもしれないけれど、広い広い宇宙の中にある小さな地球の、これまたさらに小さな小さな自分にとって、やっぱりこれは大きな大きな不安。
旅の終わりの、お空の向こうで、食べたいのちに謝りに行こう。
私の不安を聞いて、隣で優しく、そうやって誘ってくれるこの曲が好きだ。
11、なんかでてきちゃってる
はじめて聴いたとき、笑ってしまった。
何だこの変な曲〜って。
歌詞カードをみて唖然とする。
ほんとにネジが緩んじゃったのか??
でもアルバムを全部聴き終わった後に、口ずさんでたのもこの曲。
小説?一人芝居?落語?とにかく、物語を見てるみたいだった。
頭の中で自問自答してる時ってああなるよね。
答えなんて分かりきってるのに、言い訳してもしょうがないのに、ぐるぐるとひとりごとが止まらない。
でもこれはもっと近い距離で、自分の脳と尾崎世界観とで会話してる感じ。
この脳内で膨らむ妄想みたいなところを、音楽として表現してしまう。
すごいな。
気持ち悪いな。
これ、ライブがめちゃめちゃ楽しみ。
ネジが緩んじゃったところ、見せて欲しいです。
12、キケンナアソビ
気持ちいいことのあとに虚しくなるところって夕焼け小焼けのチャイムと似てる。
帰らなきゃいけないけれど、帰りたくないし、でも帰らないと怒られちゃうし、夜は怖いし。
クリープハイプの表現する、「エロ」の中にある愛しさと切なさ(と心強さ)が好き。
地上波では扱いづらい「エロ」だから、ライトな層からは面白おかしく捉えられがちだけれど、そういうんじゃないよなって思ってる。
体と体は繋がるのに、心が繋がっていないとか、心が追いつかないとか、そんな簡単に言い表せない思いが短調のメロディーにのせられて、やるせない情けない気分になる。
それに、キケンナアソビってそこまで直接的な表現じゃないのもいいな。
何のことか言ってないのに、なんとなく意味が分かって、勝手に恥ずかしくなる。そこもまたエロい。あとPVもエロいし。
13、モノマネ
ボーイズendガールズの続編。
10年以上前のあの曲の続き。
そう考えると、どうしても胸が苦しくなる。
エンド、ってそうか。アンドじゃなくてエンド。
あの2人なら大丈夫って思ってたけど。そっか。
元カノ元カレって、簡単な言葉では表せない2人の関係。
あー、苦しい。苦しいよ。
一緒に生活して、同じ匂いになって、同じ番組を見て笑って、そんな経験してたら、何か理由があって2人でいるのが辛くなって別れたはずなのに、楽しかったことばかりよぎってしまう。
未練はないから!って言ってる時点で未練しかないのかな。
失ってから気づく系の曲ですね。
そういう曲、他にもあるけれど、きちんと生活を描いているからか、よけいに悲しいんだよ。
だから、いま笑いあえてることが幸せだって思うし、そんな毎日が続いて欲しいって思う。
モノマネの2人が本当の2人になれるように。
14、幽霊失格
イントロの緊張感がたまらない。
これまでの曲って、生活の続きというか、そこにある確かのものを表現してるものが多かったけれど、幽霊っていう不確かなものを題材にしているのが新鮮な気がする。
でも、「そんな夜」から始まる幽霊との日々は確かにそこにあったもので、そういうところを表現していくのがやっぱりクリープハイプだなって思った。
幽霊なのに、幽霊とは思えないほどの存在感。
幽霊なのに、ずっとここにいて欲しいって思えるほどの愛おしさ。
忘れられて消えちゃうくらいなら、嫌っても恨んでてもいいから。
幽霊でもいいからそばにいて欲しい、そう思わせちゃう君は、結構悪い幽霊なんだね。
15、こんなに悲しいのに腹が減る
この曲は1曲目の料理と近いところにある気がする。
悲しくて辛くて、ご飯なんか食べたくないって思っていても、お腹は間抜けな音を立てて余計に虚しくなるし、じゃあ食べてみたらそれはそれで、もう何も考えたくないって思ってた頭が「あー、お腹いっぱい」なり「食べすぎて苦しいな」なり、自分の体のことを考えてだしてしまう。
君のこと以外考えたくなくても、食欲を前にしたら自分のことを考えてしまう。
そんな人間の単純なところとか、間抜けなところって、結局嫌いになれないんだよな。
やってられないことがあってもムカついてウザくてイライラしても、食べることは生きることだし、生きることは食べること。
どんな優しいありきたりな言葉より、とにかく食べて生きるしかないんだって、そんな曲の方が、ずっとずっと勇気がでる。
あとがき
本当はこんなにギリギリの投稿になるつもりはなかった。
あとがきも書きたくなかったけどまえがきだけあってあとがきがないのも、上下間の上だけみたいな、そんな感じがしたから、歌詞を勝手に借りながら、めちゃくちゃに書いている。
私の言葉で私の思ったことを!なんて威勢のいいことを言っておいて、いざ始めてみたら聞けば聴くほど、書けば書くほど、私の言葉だと伝えきれないしむしろ悪くなってしまうんじゃないかって思って、何度も何度もやめようと思った。
でも、私がやめようと思うタイミングで尾崎世界観がブログを更新したり、新たなライナーノーツが生み出されたりして、結局ここまで無理やりに到着してしまった。
してしまった、なんて被害者ヅラしておいて、本当はちょっと嬉しかったりもするけれど。
それでも、やっぱり言葉の偉大さに打ちひしがれている。
悔しいなあ。
もっと、言いたいこと言える様になりたいなあ。
クリープハイプすごいなあ。
あの音で、あの歌詞だから、十五曲もあっという間で、これからの曲もきっとあっという間だ。
そんなふうにあっという間に聴けてしまう曲たちを生み出すために、クリープハイプはずっとずっと言葉と音と戦っているんだなと思った。
気づけて良かった。
私の言葉を生み出すために、彼らの言葉をたくさん聴けて良かった。
ライナーノーツなんて!って言っていた私だけれど、ライナーノーツのおかげでクリープハイプがもっとずっと大好きになれた。
よし、もっと聴くぞ。もっと書くぞ。
もっと、ずっと、生きてやるぞ。
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