今がチャンス! 厄介な親知らずを抜歯した体験レポ
ついに、その時が来た。
歯茎に埋まっている親知らずと向き合う時が。
私は一度親知らずが原因で酷い歯痛に悩まされたことがある。
その時は、何をしていても痛い。痛くてそのことしか考えられない。
どこかで聞いたが歯の痛みの苦痛レベルは、他の痛みと比べてもトップレベルと言う。
実際に「歯が痛くて」と検索しようとすると、その次のワードの候補として一番上に「死にそう」と出てくるほどだ。
そう。歯痛は死にそうなレベルでつらいのだ。
その時は近くの開業医の歯医者で抜ける生え方だったので、すぐに抜いてもらい歯痛は治った。
しかし、残り3本は歯茎に埋まっていると言われ、まだ痛みはないが、いつ痛みの爆発があるかわからない。時限爆弾のようだった。
私は、この3本の時限爆弾を抱えてそれから数年過ごしてきた。
そして、遂に時限爆弾が動き出した。
奥歯が少し痛い。
今度は以前のように死にそうに痛いものではなく、幸いすごくやんわり痛む程度であった。
早速、歯科矯正で通っている歯医者に行くと、3本のうち1本は親知らずの頭がほんの少しだけ出てきていた。
他はまだ埋まっており、痛みの原因は正直ハッキリしなかった。虫歯ではないとのこと。
しかし、どちらにせよ歯科矯正も終わりに近づいており、歯茎に埋まっている親知らずの向きが悪いので、将来親知らずが生えてきて歯並びが崩れぬよう今のうちに抜いておいた方が良いという。
そして、大学病院での抜歯の紹介状を渡された。
ついにきたか。
時限爆弾の処理に向き合う時が。
しかも今回はわざわざ大学病院で、歯茎を切開して、歯を分割して抜くとのことだ。
想像するだけでぞっとする。
ただ、高いお金を払って歯科矯正をしたのだ。歯並びが将来崩れるリスクは排除しておくに越したことはない。
それに、女性は妊娠中に歯が痛くなった場合、麻酔を使用した抜歯や痛み止めの服用等適切な処置ができないため、歯の治療は早めに行っておく方が良いと聞いていた。
決心して、大学病院を受診した。
相談の結果、まずは特に問題のある左の上下2本を抜くこととなった。
そして、先生から「抜いた後は絶対腫れるよ」と言われた。
この世に「絶対」なんてないと言うが、まさかの先生が「絶対」を使うのである。
その言葉を聞いて、抜歯日は翌日が仕事休みである金曜日の午後にした。
予約が多くて抜歯できるのが1ヶ月後だったのは予想外だった。
死にそうな程痛くなる前に向き合って良かった。
そして、とうとう抜歯当日。
「麻酔が効くから、全く痛くないはず。大丈夫」
と自分に言い聞かせる。
診察台に座り、先生から再度説明と軽い診察を受ける。
準備が進められ、ついに診察台が後ろにゆっくりと倒れていく。
まるでジェットコースターがゆっくりと頂上にのぼっていくような緊張感だ。
「やっぱりやめます!」と言いたいくらいの気持ちだが、もう後には戻れない。
腹をくくるしかないのだ。
そして、麻酔が打たれる。
この麻酔はちょっとだけ痛いが、全然我慢できるレベルである。
麻酔が無事効いて、左下の抜歯作業が開始された。
なんだかすごい音がする。
「痛くない?」と時折先生が聞いてくれる。有り難い。
しかし、口を開け、施術がされている中で、口が動かせないのでどう答えればいいというのか。
とりあえず、痛みもなく全く問題無いので「はい」という意味を込めた言葉にならないような声を毎回出して無事を知らせた。
そうこうしているうちに、「終わりましたよー」と言われた。
「え? ? ? もう?」
5分もかからずにあっという間に抜けて、本当に驚いた。
思わず「全然大丈夫でした。本当にありがとうございます」と先生にお礼を言うと
「まだもう1本あるからね」と、ごもっともなことを言われた。
そして、上の歯の抜歯が開始された。
心の中で「大丈夫、大丈夫」と唱えはじめた矢先、
「抜けましたよー!」と言われた。
「え? ? ? もう?」
今度はなんと1~2分で抜け、さっきよりも早くて仰天した。
「本当によかった。先生ありがとう。神様ありがとう」心からいろんなものに感謝した。
安堵しながら帰りの電車に乗った。
しかし本当に大変なのはここからだった。
電車の中で、目のあたりまで感覚のなかった顔が、だんだんと感覚を取り戻してくる。
これは、麻酔が切れはじめている……。
先生から、麻酔がきれる前に早めに痛み止めの薬を飲んでくださいと言われていたが、
あいにく水が手元になかったし、一度口の中に滲む血も吐き出さなければ到底薬が飲めない。
安易に、ちょうどよく来た電車にすぐに乗ってしまったことを心底後悔した。
なんとか麻酔が完全に切れる前に駅についた。
すぐさまトイレで軽く口をすすぎ、水を買って痛み止めを飲んだ。
家につくちょうどその頃、麻酔が切れたようだ。
痛みが襲ってくる。めちゃくちゃ痛い。しかしそのうち先ほどの痛み止めが効いてきた。
親知らずの抜歯は、麻酔が切れる前に痛み止めを飲むことと、なるべく早く家に帰ること。
これは、これから親知らずを抜く全ての方に伝えたい。
それから、どんどん、どんどん左頬が腫れた。
先生の言う「絶対腫れます」は裏切らなかった。
翌日は、昔話のこぶ取り爺さんを彷彿とさせるくらい腫れた。
そのまま3日間くらいは腫れがひどかった。そしてまさに死にそうなくらい痛かった。
痛み止めが無かったら本当にどうなっていたかわからない。
普通は1週間くらいで痛みは収まるというが、私の場合は抜いた箇所が炎症を起こし、2週間くらい痛みが続いた。
時限爆弾の処理はなかなか手強かったが、1カ月経った今は何事も無かったかのように平和が訪れている。
そして何より私はこのタイミングで親知らずを抜いて本当によかったと感じている。
理由は3つある。
まず1つ目は、マスク生活の現在、腫れをマスクで隠しながら仕事ができるからである。
私は営業職だが、コロナ禍以前は社内でマスクをすることはあっても、営業先でお客様の前にマスクで出ることは非常識だった。それが、むしろ今はマスクをしないと非常識である。
仕事中に限らずどういう場面でも、マスクが当たり前である今は腫れてもそれが堂々と隠せるのだ。
2つ目は、抜歯後は飲食が満足にできないことにある。
痛くて流動食が基本となるのだ。私は抜歯後5日間、ゼリー・お粥・雑炊・茶碗蒸し・スープ・グラタンのローテーションで過ごした。お酒も痛み止めや化膿止めを服用するため飲まない方がいい。
しかし、コロナ禍の現在、外食や飲み会は制限されているので、どうせ我慢するなら今はちょうど良い。
3つ目は、心配毎の1つが減ったことだ。
思い切って親知らずに向き合った自分を褒めたい。
時限爆弾に、もう怯えなくて良いのだ。
心にも身体にも平和が訪れ、なんだか軽やかだ。
コロナもワクチン接種が開始され、いよいよアフターコロナへの希望が見えてきた。
皆さんも、そんな今だからこそ、やり残したことはないだろうか。