ギリシャ神話の話9 テセウスの話 外伝 マラトンのケモノ前編

王子来国

俺ことアテナイ王アイゲウスは頭を抱えていた。
我が愛するアテナイはいってもギリシャ諸国の中では大国と言える。
先祖代々の歴代の王祖が積み重ねてきた確かな統治と、住民が持つ明るい国民性によって歩んできた成果といえるだろう。
しかし一見順風満帆に見えるが、どんなときでも目の上のたん瘤は存在すると言える。
そう例えばクレタどもだ。
クレタはアテナイから海路を南に進むとある国だが、陸続きの我が国と比べても島国のクレタ王国は我が国よりひとまわりもふたまわりも強い国だ。
クレタは木材産業と小アジアからの中継で盛り上がった国だ。
目上の国として朝貢外交させられるのは仕方ない。今は仕方ない。経済力も軍事力も今は敵いそうにない。
私の代ではせめてアテナイをつぶされないように頭を下げるしかない。

そんな中クレタの王子アンドロゲオスが我が国に来国した。
話を聞くに我が国のパナテナイア祭に参加するために遊びに来たとのことだが、本当の目的は別にあると見てる。
もしかしたらついに我が国を含むギリシャ諸国を属国として併合するために視察に来たのでは?という思考がちらつく。
今戦ったとしてギリシャ諸国が協力すれば一矢報いることはできるのだろうか、一矢報いたとしてもそのあとは亡国の道だ。クレタとは底力が違う。
来てしまったものは仕方ない、あくまでも『遊びに来た』として当たり障りなく帰ってもらうしかない。

パナテナイア祭の八百長

「我、競技会に参加しようかな。どう思うアテナイ王よ」
祭りに遊びに来たアンドロゲオスが上機嫌で聞いてくる。
何度も言うがアテナイはギリシャ諸国の中では大国だ。人口も多い。
当然パナテナイア祭の競技会に参加するものはその中でも殊更優秀な者たちだ。
いくらクレタが大国とはいえ王子が参加し五体無事の無傷で終わるとは思えない。
しかしクレタの王子には出来る限り機嫌よく帰ってもらいたい。
出来る限り自然に笑顔を捻りだし「それは素晴らしいお考えで。是非とも遊んでやってください」と返してやった。
部下が眉を八の字にさせこちらを見ているが、そう言うしかないだろう。
「では手続きがあるので、一足先に配下に伝えますね」
部下に目配せし軽く頷く。これで伝わるはずだ。決してクレタの王子にケガは負わせないと。

終わってみればあっけなく、無事クレタの王子が全ての参加者に勝利した。
アンドロゲオスは何も知らずに自身の力で栄光を掴んだと大手を振って喜んでいる。
これでいい、これでいいんだと自身に言い聞かせるが今だけ言わせてくれ「国民よ、すまぬ・・・」俺の呟きは誰にも届くことはないだろう。
いつかはクレタへのリベンジを・・・そうあくまで心の中だけで誓い、勝利の美酒に酔いしれるアンドロゲオスへ祝福の言葉を届けに行こう。

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