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第七話 羿射九日異聞 羿と四羽の争い 後編

「またどうせインチキしたんデスよね?」
師匠から炭酸水をもらい、一息ついた僕は呆れながら師匠に問いかけた。
師匠は両腕を汲み「フッフッフ」と不敵に笑う。いやなに新キャラだしてるんデスか。
大物キャラのポーズを崩さず師匠はビシッと音が聞こえるほど勢いよく僕の方に向け指をさす。
え、僕がまたなにかやっちゃったんデスか?
「秘密はソレだ」
「それ?」
師匠の指の先を見れば、僕には違いないがさらにその手元を指してるようにも見える。つまり
「どういうことデスか?」
僕はますます疑念が深まり理解出来ずにいる。
そんな中、僕と同様に師匠から炭酸水をもらって飲んでいた庚は「なるほどそういうことか」と手元の炭酸水が入った器に目を落とす。
ん?炭酸水?それが何か関係あるのか?
「師匠、ギブです。答えを教えてもらえますか?」
僕は両手を挙げて降参の意を示した。分からんものは分からん。
羿師匠はわざとらしく大きくため息を吐くと僕に向けて
「そうやってすぐ答えを求めるのはお前の悪い癖だぞ逢蒙」
と諭してくる。
うるせーやい。と一瞬憤るが確かに言われてみればそうかもしれないと、ちょっとだけ反省。
ちょっと反省した僕は改めて
「それでそれで?どういうことだったんデスか?」
師匠はお菓子を求める子供を見るような目で僕を見るとこう言った。
「炭酸水から出てる泡って何か知ってる?」

「泡・・・デスか?」
正直今日初体験の不思議飲み物を味わった僕だけど、そんなこと考えたことも無かった。
泡・・・だからブクブクしてる?ブクブクは何か?うーん。
師匠の言葉を聞きうーんと首を捻る僕を見て師匠は続けて
「炭酸水の泡ってな、言ってみりゃ”燃えない空気”だ」
「燃えない空気?」
「物が燃える時ってのは周りの”燃える空気”があるから火が出るんだわ。だが炭酸水の泡は”燃えない空気”で出来てるからそこに火を突っ込んでも火が消えちまうんだよ」
「はー?なるほど?」
何がなるほどなのかわからないまま僕は返事をする。えーっと整理すると、燃えない空気の中に戊が入ったから火の弾が出なかった?あれ、でも最初は燃えてたし。倒れたことの理由にはなってない。
「もうめんどくさいんで全部説明おねデス」
「さっき言った言葉忘れたんか。なんでも答えをすぐ求めるなよ」
師匠は何度目かのため息をつくと、戊の近くまで歩いて行った。
「いいか、ここ。この窪んだあたり。ここの下に実は炭酸泉が湧いてる。泡のシュワシュワ聞こえるだろ?んで、ここまで誘き寄せたらあとは燃える弾を用意させれば、燃える空気が減ってあとは燃えない空気だけが残る。んで倒れる。」
「え、なんで倒れるんですか?」
「だからー燃える空気が減るだろ?」
「はい、減ります」
「そしたら燃えない空気だけになるだろ?」
「はい、なります」
「そしたら倒れる」
「だからなんでデスか!?」
僕がただ憤る師匠とのやり取りがよほど面白かったのか庚はケラケラと笑う。
いや笑われてる。僕は口をへの字に曲げて師匠をにらむ。
「毒、なんじゃろ?その燃えない空気とやらは」
庚のその言葉に師匠はパチンと指を鳴らし「正解!」と言った。

「え、また毒なんデスか?」
「正確には違うけど、それだけ吸ってたら有害なことにはかわりない」
師匠はよいしょよいしょと声をあげ、戊を引きずり壁を背にして座らせる。
「俺らが吸ってる空気ってのは”燃える空気”と”燃えない空気”がバランスよくブレンドされてんのよ。じゃあそのブレンド比率を変えて、燃えない空気が多くなるとどうなるか」
師匠は気絶している戊の方を見て掌を向けるとおどけたポーズで
「こうなる」
「つまり羿、おぬしは炭酸泉で生まれた燃えない空気をそこの窪地に集め、戊をそこに招き、”燃える空気”を燃やさせ”燃えない空気”だらけにしたことで戊を気絶させたと。そういうわけか?」
「ご明察。庚太陽に10ポイント」
そう言い拍手する師匠に庚は「やったー」と子供のように喜ぶ。なるほどでもようやく理解できそう。
「でもよくそんな良い感じに燃えない空気?のみを一か所に集められましたね。目にも見えないものなのに」
僕がぶつけた疑問を師匠はうんうんと頷き「いい質問ですね」とおどけて答えた。
「”燃えない空気”ってな”燃える空気”よりも重たいんだ。目には見えないけどな。だから窪んだところであれば重たい”燃えない空気”を意図して集めることが出来るんだよ」
「でもそんな時間のかかることいつ・・・あっ!!」
僕は思い出した。
四羽の太陽に襲われる前に炭酸水取りに行ってた師匠を。
「まさか事前に・・・」
「そう、準備してた」
「で洞窟を出たときに我に会った」
「その時に『共闘しようぜ』って説得した」
「秘伝の桃酒二本で手を打った」
「ちょちょちょちょっとまって。勢いが速い」
怒涛のように流れる時系列とネタバレに僕の頭は追い付かない。
もうちょいかみ砕いて、え、師匠あの時点で炭酸の罠作ってたの凄いな。
「はー、もうなんか師匠が裏で色々悪だくみした結果なんとかなったってことなら、それでいいデス」
「なに?スネちゃった?」
「これしきでスネないデスよ。師匠ってもう何百年もこういう人だし。慣れました」
「おぬしもいろいろ苦労しておるのだな」
庚のねぎらいの言葉に力なく笑顔を返すしか出来ない。
僕はさっきまで吐いてきた師匠の沢山のため息を集めたくらい大きくため息を一つ吐くのだった。

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