第七話 羿と四羽の争い 前編
「それで師匠今度の作戦は!!!?」
森の中を走りながら叫ぶ僕に師匠は一瞥することなく
「んなもん!今考え中!!」
と返した来た。あんなに自信満々だったのに事前に用意してきた策は”相手に毒を飲ます”以外なかったとでもいうのだろうか。
さすがに行き当たりばったりが過ぎるよ羿師匠。もうすこし縄張に近づく前に色々練ってからの方が良かったんじゃないの?
改めて見て見るとそれにしても師匠の逃げ足は凄い。
全力で走りながらなのに鬱蒼と生える木々はスルスルと体をよじらせ避け、木々の合間にある大岩も跳び箱のごとくピョンと軽く超えていく。
前を走る師匠の動きで後ろの僕は容易く障害物を予測できるから、速度を落とすことなく走れるし。
実は知ってる森だったりして・・・?グータラでインドア派な師匠にそんなわけないか。
「ようやく追い詰めたぞ、愚物が。」
谷合にいた僕らはそびえる山を背に太陽の一羽に追い詰められてしまった。
師匠ってばそのへん上手く走ってたんじゃないのか?と僕は師匠に恨み言をぶつけるように視線を向ける。
師匠は僕の恨みのこもった目線を受け取ったのか、それとも受け取らずにスルーしたのか僕と交わした目線を外すと、追い詰めた太陽の一羽に向き直り静かに笑いだす。
そして相手を出迎えるようにゆっくりと拍手を始める。
「よくぞここまで追い詰めたものよ。褒めて遣わす」
なんだその言葉遣いは。急にキャラを変えだした羿師匠に僕はたじろぐ。
「ようやく追いかけっこはお終いか。童の戯れにしてはちと短すぎるのではないか?貴様らを追い詰めた己(つちのと)の名を脳に刻み深く後悔するがよい。」
太陽も師匠に負けじと上位者な感じで返してくる。あ、さっきの大魔王みたいなセリフはこいつか。
「なに小鳥どもが泣きわめくのでな。少しくらい遊んでやろうと思ったまでよ」
クククと口を覆い師匠も負けじと大魔王口調で対抗する。なにこの茶番。
「戯れにしては随分と必死だったではないか。程度が知れるというものよ」
「遊びは本気で遊んでやらねば楽しみも半減というものよ。そこが分からずに我と遊ぼうというのか」
「騙すにしては学芸会のお遊戯レベルの演技力だな」
「アカデミー賞ものの演技に騙された小鳥がなにをほざく」
「我の本気であれば貴様ら等一瞬で捕まえておったわ!」
「ほほう、そんな大言壮語を吐くのであれば実際に見てやろうではないか」
「見ろこの速度!我が本気で飛べば貴様らの目にも止まるまい!!」
そう言うと影のようなものが動くと同時に、ガサッと音を立てて当たりの木々の枝が揺れる。超高速で移動する鳥の動きを僕は捉えることが出来なかった。
でも”見ろ”って言ってるのに目にも止まらないんじゃ見れないのではないだろうか。
「なんだその程度か。思ったほどではないな」
「ないっ!?」
「そんな近い距離での速さを誇っても所詮はその程度ということ。もっと長い距離をその速さで飛べるなら褒めてやろう」
「いいだろう!」
そういうと枝から飛び立ち僕らの頭上で大きく羽ばたきホバリングを行う己。
「その速さで扶桑樹まで飛べるものならいってみるがいい!」
師匠がそう発破をかけると、己はあらん限りの力で羽ばたき彼方へと飛んで行った。
僕らを置いて・・・。
己の姿が見えなくなると、「さて、と」と師匠が呟き歩き出す。
「え、師匠?あのままほっといていいんデスか!?」
「扶桑樹まで行きゃ義和がなんとかするだろ。多分」
例え自身のお役目だろうと他人に任せてしまう羿師匠に呆れつつも、なんやかんやで四人から追われることは少なくともなくなったというわけか。
「えっと・・・とりあえずあと三人ですね!」
「ああ・・・追っかけてきた!!」
といい後方から聞こえる風切り音から逃げるように師匠は再度駆け出していった。