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【小説】高嶺ときみ【1】

私の通う高校には
一際目立つ大きな桜の木がある
何百年という時間を過ごしている
都内でも有名な桜の木。

その桜の木の下で全てを満たすとき
告白をすると必ず成功する。
といったジンクスがある

成功する条件は3つあり、
1、必ず桜の咲いている時期であること。
2、時間は早朝から陽が沈むまで
3、ブローチの交換が済んでいること

ブローチというのは
入学当初に配られる花の形のバッチのことだ。
人それぞれ持っている種類が違い
誰がどのを持っているのかは分からない
(中には、これを持っているよ〜と
話す子も居るので知っている場合もある)
その場合を除くと、カップルのみ
お互いの花を知っている。ということになる
自分の目標で花を決める人もいれば
あげることを想定として決める人もいる
様々な想いがあるこの花は
特に思い入れのあるものになるので
【交換をする】という行為が
告白が成功する近道にもなるということだ。

無論、ブローチを交換せず、
時期や時間が違くても成功する者はいる。
あれはただの【噂】であるからだ

アプローチをする時間など
高校生にもなれば沢山あり、
学校行事、学校生活は3年もあるのだから
その間にお互いが惹かれ合うことなど
ざらにある。
お互いの気持ちが分かっている上で
あの桜の木の下で告白する者も
いるのだから、
あのジンクスは有効だと噂で有名になる

それが目当てで
この高校を決める生徒も少なくない
高校生である時間は長いようで短いので
その中で青春をしたい!と思うことは
当たり前なのかもしれない。

「今年も新入生多いなあ・・」

ふと窓を見るとまだパキッとした
新しい制服を見に纏い
これからの高校生活に期待を寄せる生徒が
ぞろぞろと校門をくぐる姿が見え
私はなんだか懐かしい気持ちになった。


「都、また告られたんだってえ〜?」
春妃が都の近くで顔をグンッと近づける
「やめてよ、もう」
都は迷惑そうな顔をして手を春妃の方に向け
シッシッと動かしている

楠見都は同じクラスの同級生。
あまり話したことはないけれど、
背が高くてクールで可愛いというよりかは
カッコいいという印象がある。
頭も良くてなんでもできる完璧人間で
高嶺の花のような存在だ。

葉山春妃は私の幼なじみ。
幼少中高と同じ学校で家も近い
小さな頃からの親友だ。
春妃は都とはまた違い
背は小さめで目が二重で可愛い。
明るく誰とでも仲良くできるので
男女共に友達が多い。
女子特有の噂好きなので
色んな話題に敏感だ。

「今度は4組の中山くんだって?
ほんっとにモテる女は大変だねえ〜
しかも、また振ったの?
サッカー部のエースなのに勿体ない!!」
春妃は机に頬杖をつきながら
いいな〜いいな〜と都を羨んでいる。

いいでしょ、別に。興味ないから。
と都はピシャッと断言する

都は、
【男子は一度は絶対に好きになる】
と言われるほどモテる。
その意味はすぐにわかる
こんなに素敵な女性がいたら
気にならない男性なんていないだろう
そう思ってしまうほど凛としていて
美しい人だと女の私でも思う。

「ねえ、凛もそう思うよねえ??」

ひえ!?!?
急に話しかけられたのでびっくりして
声が裏返る。
な・・なんのこと・・?
私は何も聞いてなかったかのように反応する

「都のモテ具合には困っちゃうよねえ〜
男の子ぜえ〜んぶ好きになっちゃうよ!って
はなし!」

あ、ああ。そのことね。
私は素知らぬフリをして答える

「そんなこと言ってるけど
春妃だってモテるでしょ、
羽島さん、急に話しかけてごめんね。」そう言って都は申し訳なさそうに
私に話しかけてきた

ううん、春妃はいつもこうだから
気にしてないよ、大丈夫。

そういうと、春妃は
そんなことない〜!ぜったいない〜!
と言いながら頬を膨らませていた。

ああ〜・・私も青春したいな〜・・
と思いながら窓の外を見つめる

この高校に入ったら
何か変えられると思ったけど
そう簡単には上手くいかないし
人生は、そんなに甘くない。
何かを変えるときには
自分から行動しなくてはいけないのに
そういう気もまだ、おきない。
このまま何事もなく終わっちゃうのかな〜
と焦りのような感情もあるが、
それもそれで良いな。
と思っている自分もいる
1年生の頃よりは充実できますように。
と青空に願いながら

私の高校2年目の生活が始まった。


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