人間らしさと、人工知能について考えたこと~ChatGPTを活用した高校での授業実践~
人工知能は便利なものなのか?それとも人間の思考を低下させるものなのか?そんな議論を耳にすることが多い昨今です。
人工知能が良いものか、それとも良くないものか、わたしにはそれをはっきりと言い切れる知識はないのですが、ただ、新しいものを避けるのではなく、それに対して積極的に向かっていった方が人生はおもしろくなるような、そんな気がしています。
わたしは先月、福井県あわら市の高校である金津高校で、ウェブサイト制作についての授業実践をしてきました。
初学者が基礎のコーディングからノーコードでのサイト制作、AI活用までを学び、最終的には簡易的なゲームサイトを制作できる90分のワークショップです。
ありがたいことに、定員20名のところ約40名の生徒さんから受講希望のお申し込みがあったこと、オープンスクールでも希望の中学生に実践を行ったことで、合計で50名程の生徒さんたちに実践ができました。
今日はそんな実践の記録を、ここに残しておこうと思います。
この授業で目指したこと
授業を企画するにあたって、まず生徒たちが最終的にどのような状態になってほしいかを考えました。
何かしらの知識・技能の習得、テクノロジーリテラシーに対する理解なども大切だと思う一方で、一番に目指したいことは、「つくるって楽しい」と思ってもらうことだということに辿り着きました。
わたしの実践はいつも、「楽しい」とか「おもしろい」を大事にしようという考えだけれど、やっぱりこれが創作活動において最も大切だと思います。
そこで、90分という短い時間ではありますが、自分の作品を作ったという実感を生徒に得てもらえるような実践を組み立てることにしました。
これを達成するためには、ある程度の基礎を学ぶ必要がある一方で、まだ知識の浅い生徒たちをサポートするような仕組みが必要であると考えました。そして今回は、そのサポート役として人工知能である"ChatGPT"を活用することにしました。
授業の流れ
ここからは、授業の流れを実践当日に配布した資料やコード、デモサイトを交えて紹介していこうと思います。
ウェブサイトの中身はどうなってるの?
まず、ウェブサイトはコードによって作られていることを説明しました。Chromeなどのブラウザでウェブサイトを開き、右クリック→検証をクリックすると、右側にコードがざっと表示されます。
上半分に表示されているものがHTML。文章や構成が記されている、ウェブサイトの大元をつくっている要素群です。そして、下半分に表示されているものがCSS。HTMLの各要素に対して色や配置、大きさなどの指定をすることで、見た目を整えています。
そして、JavaScriptといってクリックしたら色が変わるなど、ユーザーが特定の挙動をすることでプログラムが実行される言語もあります。
コードを打ってみよう-HTMLとCSS編-
ウェブサイトの中身について簡単な説明をした後は、実際にコードを打つ体験をしてもらいました。
この際使ったのはES-Jamというサイトです。左側にコードを打つと、右側のエディタで結果が表示されます。インストールもログインもなしで使えるウェブアプリです。
ここに、HTMLのコード、CSSのコードを打ち、どのような表示になるかを試してもらいました。
細かいタグの意味などは、今回はほとんど説明しませんでした。初学者にコーディングを楽しいと思ってもらうためには、体系的な理解より、「自分で打ったコードの命令が表示された」という感動が大切だと思います。生徒たちには、次はどうなるかなぁというワクワク感も楽しんでもらいました。
コードを打ってみよう-JavaScript編-
最後にJavaScriptを打つ体験をしました。こちらはHTMLやCSSよりもコードが複雑なのと、一文字でも間違えると正しく表示されないので難易度が高めです。
スペルや半角・全角に気をつけながら、一文字ずつコードを打っていきます。
けれど、HTMLやCSSのように「見てみる」ボタンを押しても何も変わりません。打ち終わった生徒にJavaScriptのコードを読み解いてもらい、どこをどのようにすると、表示が変わるのかを考えてもらいました。
表示が変わった瞬間、生徒からは「おおっ!」という感動の声が聞かれました。
ノーコードでのサイト構築
コーディングの基礎を学んだ後は、ノーコードでのサイト構築を行いました。
現在さまざまなサイト構築アプリがありますが、今回はGoogle Siteを使うことにしました。
Google Siteは、コードを書かずにタイトルや文章を入力したり、大きさや色を変えたりできます。
簡易的なゲームコードの埋め込み
Google Siteでは、生徒たちが学習したHTML、CSS、JavaScriptで構成されたコードを直接埋め込むことができます。
この機能を活用して、今回は「連打ゲーム」と「フラッシュタップゲーム」のコードを埋め込んでもらうことにしました。
コードは事前に用意したものをClassroomで共有し、好きな方をコピー&ペーストしました。
埋め込んだ結果が表示されると、隣の生徒と競い合って楽しそうに遊んでいる姿が見られました。
作ったデモサイトはこのような感じです
→デモサイト
ChatGPTについて
先ほど貼り付けたゲームコードは、講師が作ったコードではなく、ChatGPTに書かせたものであることを紹介します。
そして、生徒にも実際にChatGPTを触ってもらいました。まずは天気予報を聞いたり、しりとりをしたりなど、日常会話を人工知能と楽しんでもらいました。
ChatGPTには会話のログが残るので、前回の質問に対して追加で質問をしたり、修正をお願いしたりすることも可能であることを確認しました。
オリジナルゲームサイトの構築
最後に、ChatGPTにコードを書かせてオリジナルのゲームサイトを構築してもらいました。
聞き方を工夫したり、修正をかけたりしながら、生徒たちはさまざまなゲームを作り上げていました(テトリス、マインスイーパー、しりとり、スロット、イラスト当てゲーム…)。
作ったゲームは共有し、互いに遊び合えるようにしました。みんな夢中になって作っていて、終わりの時間がきても作り続ける生徒も。
このようにして、ChatGPTを活用した実践は幕を閉じました。
生徒の作品を見て感じた「らしさ」
生徒が作ったゲームサイトの数々を見ていると、デザインにこだわっている子、何度も調整しながらより良いゲームに仕上げている子、とにかくたくさんのゲームを作っている子などなど、一人一人の「らしさ」が生まれていて、とてもいいなと思いました。
そして最近、その人らしさは、人があらゆる側面で平等ではないから生まれるものだと思うようになりました。
地域や経済状況などの外部的な要因もそうですし、一人一人の持っている能力もさまざまです。特定の能力を取り出した時に、高い低いの差は必ずあるでしょう。
しかし、一面的には不平等だと捉えられることは、全体として見ると必ずしも悪いことではないと思うのです。
例えば、色彩センスに乏しいとなった時、それが全体として不利かは別で、その人らしさの一部になるのではないかなと。デザインではなくシステムを極めてもいいし、センスがないからこそ基礎知識をつけることで、万人に通用する色彩選びができる可能性もあります。
だからなんというか、「人間は平等である」という言葉は側面を切り取ると綺麗事だけど、全体として捉えると確かにそうかもしれなくて、平等であるかどうかを決めるのは、自分自身なのではないかなと思います。
自分らしさと人工知能
そして人間は側面的には平等ではないからこそ、「その人らしさ」が生まれるのだと思います。
だから、どんなに人工知能が発展しても、その人らしさまでが消えることはありません。同じ人工知能を活用していても、そこに人を介していれば、出来上がる作品は多様であり、その人を映し出すものになります。
わたしたちがテクノロジーが発展するのに伴って大切にしていくべきものは、きっと「自分らしさ」であり、いつまでも不完全な人間であることを楽しむことなのではないかなと思います。
わたしが運営する一般社団法人あわらテクノロジー協議会では、出張授業やワークショップ、研修、講演等の依頼も承っています。ご興味のある方は、一度下記よりご連絡ください。