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誰だっけ?

“一回会った人の顔は絶対忘れない”
という同僚がいる。

そんな同僚を私は尊敬している。
なぜなら私は、人の顔を覚えるのが
あまり得意ではないからだ。



以前電車で、向かいの席に座った
サラリーマン風の男の人と、何故だか
バチッと目が合ってしまったことがあった。

なんとなく、そのお顔に
見覚えがあるような気がしたのだけれど、
いまいち記憶に自信のない私は、

“年齢も近そうだし、
学生時代か、仕事で会った人かな?
失礼があるといけないから、
会釈くらいしておいた方が良さそう”

と思い、軽く会釈をした。
すると、その方もにこりと会釈を
返してくださったので、

“やっぱり知り合いだったんだ。
会釈しておいてよかったけど、誰だっけ?”

なんて思いつつ、家に帰った。



その週末、
たまたま用があって寄った実家で
つけっぱなしになっていたテレビを観て、
思わず固まった。

あの会釈の人が、テレビの中にいたのだ。
(さすがに今回は覚えていた)

私は普段ほとんどテレビを観ないので
知らなかったのだけれど、その方は
テレビ局のアナウンサーだった。



あの時はきっと、
私をご自身のファンかなにかと思って、
ご丁寧に会釈を返してくださったのだろう。

あぁ恥ずかしい。
そして申し訳ない。

そこそこ人気のある方のようで、
アナウンサーとは言え、仕事帰りで
疲れているだろうサラリーマンに、
別にファンでもなんでもない私が
要らぬ気遣い(笑顔の無駄遣い)を
させてしまった。


それ以降、
駅で満遍の笑みを浮かべる
その方のポスターを見るたびに、
また今でも時折電車で乗り合わせるたびに、

なんとも言えない恥ずかしさと
申し訳のなさが、胸をよぎるのだ。


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