ある上司と気の利かない部下の話
誰よりも、声が大きく
誰よりも、物言いがきつく
誰よりも、眼光が鋭く
誰よりも、毅然としている
誰よりも、叱ってくれ
誰よりも、見守ってくれ
誰よりも、味方になってくれ
誰よりも、信頼してくれる
誰よりも、視野が広く
誰よりも、思考が深く
誰よりも、芯がぶれず
誰相手にも、一切態度を変えない
誰よりも、不器用で
誰よりも、誤解されて
誰よりも、煙たがられて
誰よりも、敵が多い
そんな彼を慕う人たちは皆、
彼に負けず劣らず、癖のある人ばかり。
そして彼らも皆、彼と同じく、
とても厳しく、けれどとても優しく、
恐ろしいほどに魅力的だ。
そんな彼と、
彼を慕う人々に守られ、育ててもらったから、
今の私は、ある。
彼の部下となり、しばらくしたある日のこと。
いつも通りの怖い顔をした彼から、随分と日に焼けて黄ばんだ、立派な装丁の、分厚い本をむんずっと突き出された。
それは海外の書物が翻訳された、私にとってはものすごく難解な本だった。
当時、家で夜中に苦心して読み進めたその本には、べったりと手垢がついていて、またところどころに彼独特の強い筆圧でラインが引かれていた。
「読んだら捨てろ」と言われたが、捨てずに取っておき、彼が会社を去る際の荷物にこっそりと紛れ込ませて返しておいた。
あの本は、一緒に海へ連れて行ってもらえただろうか。
彼のことだから、見つけ次第ゴミ箱にガコンっとあっさり捨てた可能性も否定できない。
本に書かれてあったことは、彼から学んだ数えきれないほどたくさんの事柄と共に、その後の私の人生における道標となっている。
また、気の利かない部下は、
去り際に彼から贈られた言葉を胸に生きていこうと決めている。
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