急浮上した「ライドシェア」実現するのか? #002
今回の臨時国会の所信表明演説で岸田総理はライドシェアに言及した。20日の本会議では「年内に方向性を定める」と言及し、政府はより力を入れて詳細な検討を進めている。2023年も残り20日となった。規制改革の主戦場となっている「規制改革推進会議」の進捗状況をまとめ、急浮上したライドシェアが実現するのか考えていきたい。
議題として挙げられたライドシェアとは
今回議題として挙げられたライドシェアとは、一般的に「一般人が自家用車を使って有償で旅客運送を行う」ことを指す。欧米ではすでに事業化されており、Uber Technologiesが有名だ。他にも東南アジアのGrab、インドの Ola、ブラジルの99など各国でサービスインしており、海外旅行をした日本人からその利便性を訴える声が多く上がっている。
日本においては一般人が自家用車を使って旅客運送を行うことは公共バスが通っていない交通空白地などの「特定地域」、そしてNPO等が運営する非営利サービスに限定されている。道路運送法は自家用車を用いた有償サービスを行うときには「旅客自動車運送事業」として届出を出す必要があると定めている。もし現行法制でライドシェアを行う場合は所管官庁に許可をもらう必要がある。
ただし、同じ目的地への移動を希望するユーザー同士がマッチングして同乗する「相乗り型」ライドシェアは、運送サービスへの対価ではなくあくまで必要経費・お礼にとどまるため旅客自動車運送事業の許可は不要である。すでにnottecoなどが日本で事業化している。
ライドシェアは令和になって政策のアジェンダに載った新しい政策ではなく、すでに2010年代で議論がなされてきた。利用者便益や遊休資産活用を謳いライドシェアの解禁を求める新経済連盟やUberなどの事業者、シェアリングエコノミー推進議員連盟と、安全性低下やタクシードライバーの雇用機会の減少を主張し反対する全国ハイヤー・タクシー連合会などの事業者団体、労組、与党野党のタクシー議連が長らく対立してきた。
今年になって、インバウンド観光客等の増加・大都市におけるタクシー不足を背景に、また菅義偉前総理など「政策の流れ」を作れる政治家の関与もあり、3度目となるライドシェアに関する議論が沸騰した。実際、実現するのか。次に規制改革推進会議での進捗状況を見ていく。
議論は年明けも継続、政府案は「ライドシェア解禁」とは言えず
ライドシェアは規制改革推進会議 地域産業活性化WGで主に議論されている。12月11日までに延べ3回開催されており、委員・ライドシェア事業者・タクシー事業者・関係省庁・自治体等に対しヒアリングを行った。
菅政権時代に創設された有志の知事及び市区町村長で構成される「活力のある地方を創る首長の会」が会員首長に行ったアンケート結果では、95%以上の自治体において住民及び観光客が現在の地域公共交通サービスに不満を感じており、90%の首長が「自治体の現状に即したライドシェアの条件変更や規制緩和を行うべき」と回答している。
規制改革推進会議の有志委員7名は「短期的対策等に関する論点について」という文書を取りまとめた。安全性に配慮しながらも、「都市部や観光地等すべての地域」における移動難民を助けるべく現行と比較して大幅な規制緩和を求めた。
一方、タクシー事業者の業界団体である全国ハイヤー・タクシー連合会は安全性の観点からライドシェアの規制緩和に慎重的な立場を鮮明にした。米国版ライドシェアにおいて身体的暴行事件による死亡件数・性的暴行件数が多いこと、労働時間管理・社会保険の取り扱いにおいて問題があることを理由として挙げた。またイコールフッティングを達成するべく、二種免許教習の効率化や地理試験の廃止などタクシー制度に関する改善要望も付け加えている。
国土交通省は「(ライドシェアの運転手)個人が全ての安全に関する責任を負うとの形は困難」と説明し、タクシー会社などによる一定の管理が必要との立場を示した。改革案として「料金の目安をタクシー運賃の8割程度に引き上げること」「現行法における自家用有償旅客運送において株式会社の参画を認めること」などを挙げた。
また12月7日に静岡新聞が報じたものによると、「タクシー会社の講習を受ければ第2種運転免許を持たない一般人の自家用車をタクシー営業に利用できるようにする(その場合はタクシー会社が雇用し、業務委託は認めない)」という改革案が政府内に浮上している。かなりタクシー業界に譲歩した案であり、「解禁」とは到底言い難い。
今後のゆくえ、「ライドシェア」解禁は翌年に持ち越しか
3回目となる規制緩和に向けた議論は菅義偉前総理などの政治家が旗振り役となったが、永田町ではコンセンサスを取るに至っていない。小泉進次郎議員らが立ち上げたライドシェア勉強会は論点整理、提言を予定しているが、与党野党のタクシー議連では反対論が根強い。地方自治体や国土交通省はあくまで「安全性重視」の姿勢が強く、推進派が求める全面解禁は難しいだろう。
12月12日には規制改革推進会議が開かれ、議論の方向性を取りまとめる予定である。例年では6月に最終的な規制改革実施計画が策定される。解禁に向けた議論は翌年に持ち込まれるが、現在の状態では「ライドシェア」解禁は非常に難しいと言えるだろう。