認知症とご夫婦
わたしの働く病棟は高齢の方がほとんどなので、必然的に認知症を併発している方が多い。
学生の時からその病の複雑さと残酷さには触れていたし、興味関心の強い疾患ではあった。
認知症は記憶障害が中心ではあるが、その症状は様々だ。
調べれば調べるほど、認知症の方に起きている状況を頭で理解しようとするのは難しかった。
けれど確かだったのは、一見無意味そうな些細な言動でさえ、その人の人生の一端に通じているのだということ。
記憶によく残っているのは、入院中の認知症の既往があるお母さん。
旦那さんがいないときは、「あの人はもう!何やってるのかしら。私をほっといて、、、」と怒っていて、ずっと「お父さん!」と呼んでいる。
旦那さんが毎日面会にきて、側で手を握っていることを知らないかのように。
「もう60年になるねえ〜」
たわいもない話をしながら、2人が連れ添った時を思う。
旦那さんがいる間は、安心しているのかスヤスヤと眠ってばかりのお母さん。
その顔を見守る旦那さんの表情には、長年育まれてきた深い愛情が感じられるようだった。
お母さんの言葉たちは、どれほど旦那さんのことが大切で必要としているのかを、包み隠さず表したものだったのかもしれない。
2025年には、認知症患者さんは65歳以上の高齢者の約5人に1人の割合になると推定されている。
認知症とは言わずとも、軽いもの忘れくらいなら誰にでも起きうることだ。
年を重ねる上でのごく自然な変化を、単なる認知機能の低下だと片付けるのは簡単だ。
でも、そこで一度立ち止まって、変わっていく不安や恐怖、根本にある思いや願望をちゃんと想像していけたらいいなと思う。
その態度には、その言葉には、少しうまく伝わらないだけできっと意味があるはずだから。
2018.11.3