No.7 【歴史を引き継ぎ、塗り替えていくアップサイクル家具】
宮城県石巻市に店を構える ” アップサイクル家具 ” のお店『月日工作舎(つきひこうさくしゃ)』。古くなってしまった家具や古材を使用し、暮らしにあった家具に生まれ変わらせています。
今回はアップサイクルやお店の基本のことから、家具を繕い長く使うことについて、店主の山内さんにお話を伺いました。
月日工作舎のきほんの「き」
ーお店の紹介を簡単にお願いします。
古道具とか古材を使ってアップサイクル家具という物を作って販売しています。
他にもオーダー家具とか店舗の内装というか造作というのもやっています。
あとはペンキの販売も最近始めました。
―HPでペンキを見させていただいた時に可愛いな、と思っていました!
結構最近ご自身で日曜大工される方も増えていますが、ペンキ買われる方多いですか?
ちょっと前に地元紙の新聞に取り上げていただいてからはお問い合わせがあって、意外とお問い合わせいただいた方がみんな50代以上くらいの、割と年配の方が興味を持ってくれて。
同世代くらいの20〜30代くらいの人も安全性が高い、ということで、子供に使わせても安全ということもあって、結構反響をいただいています。
―ちなみにこちらのお店は今何年目を迎えるのでしょうか?
設立から考えたら、2015年8月からなので、5年ちょっとくらいですね。
―お店を開くにあたって、この石巻という場所を選ばれた理由とかってありますか?
石巻を選んだのは震災が一番大きいきっかけで。地元が仙台なんですけど、ちょうど当時は(東京で)サラリーマンをやっていて、転職活動をしていて。そして転職活動中に震災が来て、本当はちょっと長野あたりに行こうかなと思っていたんですけど…。
でも震災があってやっぱり地元だし、というのもあって、こっちに来て見ようかなと。そして自分の好きなことをやりつつ、それが何かしら街のためになれば良いなという感じで石巻を選びました。
歴史を引き継ぎ、塗り替えていく、アップサイクルの良さ
ー新しい家具ではなく、アップサイクルされた家具ならではの良さはどんなところですか?
人の手が入った痕跡というか、使われてきた傷とか汚れとか、そういうのも含めて魅力としてある家具にさらに手を加えることで、前の人の歴史から次の人の歴史に塗り変わっていく。
そういう面白さがあるかな、という感じですね。
―ちなみにアップサイクルされる元の家具はどんなところから集めてくるんですか?
基本的には知人の紹介とかが多くて、いわゆるリサイクルショップとかが古物市場っていう色んな日本全国で出た中古物品を集めて、競りをするんですけど、うちはそういうところには行っていなくて。個人の方から直接お引き取りという形で提供していただいています。
―お引き取りということだったのですが、例えば古い家具を引き取っていただきたい、というのも対応しているのでしょうか?
そうですね。そういうのも色々なものがあれば全部とはいかないんですけど、見させていただいて、うちで使えそうであれば、お引き取りしています。
―(家具を)見させていただいて、結構学校の机とかも多いな、と思っていたのですが、結構そういうものも使われているんですか?
そうですね。震災の影響で学校が廃校になったりとか、統合されたりとか、建て替えになったりとかで、その時にちょっと古い学校の備品を処分するってなった時に引取させていただいて、使わせていただく、という感じですね。
家具と長く、大切に付き合う心得とは
ー家具と長い年月を共に過ごすためには、私たちはどんなメンテナンスができますか?
一般の方ができるメンテナンスは、日々丁寧に扱うことと掃除ですね。
全然乾拭き程度で大丈夫なんですけど、たまに汚れが気になったりしたら水拭きして、乾拭きで仕上げて…。そういう基本的なお手入れですね。
そういうのをしていれば埃が溜まったり、風通しが悪かったりすると、虫も寄ってきちゃったり、住み着いたりしちゃうので、定期的にそうやって隅々まで掃除をしてあげる、というのが大事かな、と思います。
―ちなみに木の家具でオイルとかを塗ったりしないとダメなのかなと思ってたのですが、どうなのでしょうか…?
物によるんですけど、木そのものの無垢材、塗装も何もしないでというものは家具ではそんなにないんですけど、塗ってあったとしても、年月とともに抜けていったりして、だんだん乾燥してくるので、そういう状態が見受けられたら、無垢材の場合だったら、植物性のオイル、オリーブオイルとかでも良いんですけど、薄く伸ばしてあげて、塗り込んであげて、綺麗な布で拭きあげてあげれば、ある程度水も弾く様になりますし、コップの輪染みなんかもつきにくくなりますね。ちょっとサンドペーパーで磨いてあげたりとかしながら、オイルを入れてあげて、メンテナンスも頃合いを見てやってあげたら良いと思います。
―オリーブオイルだと結構ご家庭にもあるものですもんね。これだと手軽できますね。
暮らし方に合わせて使うということ
ー自ら廃材や家具を持ち込み、アップサイクル家具を作っていただくことはできるのでしょうか?
そうですね。もちろんオーダーという形で、持ち込みで椅子だったらクッション張り替えたいとか、ちょっと足切って短くしたいというものから、バラバラにしてパーツだけ使って、別のものに作り替えたりとかできますね。
―ちなみにどんなお客様が多いですか?例えば、子どもが使っていた家具などアップサイクルしたいという人はいらっしゃるのでしょうか?
どちらかというと、自分の両親が使っていた古い箪笥とか、椅子とかですかね。両親が残していったものをちょっと自分の家でも使える様にリメイクしたり、アップサイクルしたり…。そういうオーダーのものが多いですね。
―それは良いですね!結構箪笥とかだと長く使っているものも多いですもんね。
そうですね。結構昔の箪笥は嫁入り道具の様な感じなので、ずーっと使っている箪笥とかそのまま残されても自分の家には置けないし…。そういうものは今の暮らしに合う形で、ちょっとお化粧してあげる、作り変えてあげて、新しい暮らしに合わせてあげています。
箪笥を箪笥として使わなくても良いし、引き出しを抜いて棚板だけの状態にて、観音扉をつけてキャビネットみたいにしたりとか、足もちょっと最近流行りのアイアンの足をつけて高さを出してあげて、食器棚みたいにするとか、というのがアップサイクルだとできるので、物の使い方の可能性も広がって、物の寿命が伸びるというか。
―本当にそうですね。結構時代が変わっていくにつれて、使いやすい家具っていうのも変わってくるのかなと思って。足をつけるというのも、最近ではルンバとかが多くなって、そういうのが入るのかということも気にされている方が多い気がして。なので、アップサイクルがあれば結構長く使えそうですね。
暮らしに合わせて、ルンバとかもそうですけど、変化していきますね。自分も歳をとっていくうちに変化があるじゃないですか。例えば、足を悪くしたりとか、そういう時に自分の状態に合わせて家具も使いやすい高さに変えたりとか。
思い出だって捨てなくていい
ー今まで手がけたアップサイクルの家具の中で、一番印象に残っているものを教えてください。
始めて間もない頃だったんですけど、海側に住んでいた人がお家が津波で流されてしまって、ほぼ全壊になったんですけど、古い家を解体して、別のところに家を建てられたんですけど、解体する時に前の家の床柱を取っておいて、新しい家に住み始めてからも軒下にずっと保管していたみたいなんですね。
とはいえ、それをどうこうすることもできず、ずっと悶々としていたみたいなんですけど、ある時うちの取材してくれた新聞の記事なんかを見て、連絡をいただいて、被災した床柱を使っていつでも使える家具にして欲しいと言われて。何個か提案して、結局最終的にはマガジンラックになって。
家族がみんな使えるものが良いってなって、それならみんな使うし、リビングに置いて目にとまるしってことで作らせていただいて。すごく喜んでいただいたことが印象的でしたね。
震災に限らず、ずっととってあるけど使い道がない、ずっと物置に入れっぱなしとか、そういう物ってどこの家でもあると思うんですけど、そういうものもちゃんと使える形で蘇らせてあげたら、良いのかなと思います。
ーどんな人に利用してもらいたいですか?
思い出の品とかずっととってあるけど、どう活用すれば良いかわからないという方ですね。長く、大事に使いたいと思ってくれる方。
繕うことから考える、これからのこと
―「繕う」ということが今より広まることで、10年後はどう変わると思いますか?
繕うってメンテナンスするとか、直しながら長く使うとか、そういうイメージだと思うんですけど、それが広まっていったとすると、社会自体もそれ前提の商品作りだったり、そういう暮らしが無視できないくらい大きくなると、現実的に社会の動きに対してビジネスもついていくんじゃないかなと。繕うことが広まることによって直して使うとか、メンテナンスしやすいとか、そういうことが前提の商品作りが増えてくるのかな、と思いますね。
大量生産・大量消費というのからだんだん、昔みたいに戻ってくるじゃないですけど、デザイン自体は現代の暮らしにあった物になっていきつつ、根本の部分というかお手入れしやすい物、直しやすい作り、最終的には処分しやすい、分別が楽だとか。そういう商品が一般化していくのかなと思います。
―そうですね。まだまだ何年くらいで壊れるようになっていて、買い換えるようになっているものも多いので、もっと広まっていくと良いですね。
ー次世代の消費者に伝えたいことがあれば、教えてください。
まずは物を買うとかもらうとか、物を増やす時によく考えるというか、本当に必要な物かどうかとか、ちゃんと長く使える物かどうかとか、身の回りの今すでに持っている物で、代用できる物だったり、という場合もあるので、まずは自分の手元に持ってくる前によく考えて欲しいという所。
あとは物を手放すというか、処分したりする時に安易に買い替えるんじゃなくて、直して使えないかとか、リメイクしたり、アップサイクルをして使えないか、という選択肢も頭の片隅に入れてもらえると嬉しいかなと思いますね。
ーアップサイクルをすることで、変化する暮らしに対応しながら家具を長く使用できること、とても素敵ですね。
本日はありがとうございました!
月日工作舎
宮城県石巻市立町2丁目5-20
HP:https://tsukihi.theshop.jp
Instagram:@tsukihikousakusya
協力:月日工作舎
interviewer / writer / photo:加藤はる
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