折り鶴は、祈りの象徴。 小野川直樹さん
子供の頃から折り紙をつくるのが好きだった小野川さん。繊細で美しい折り鶴の作品を精力的につくり続けています。その評判はテレビやネットだけにはとどまらず、海外でも話題に。折り鶴を扱うことになったきっかけや、今後の展開などをお伺いしました。
祖母と過ごした幼少時代。
祖母とは一緒に住んでいまして、幼稚園とか小学校から帰ってきたときに、いろんな昔の遊びを教わっていました。その中の一つが折り紙だったんです。
小学校時代は、あんまり学校に行ってなくて。みんなと同じことをやりたくないなと思っていて、そうすると学校に居辛くて。母親も「じゃあ別に無理に学校に行かなくてもいいよ」って、そこは結構寛大でしたね。家で勉強もせずでしたが、ただものづくりはずっと好きで。工作の本などを図書館から借りてきて、トイレットペーパーの芯とかティッシュの空き箱とか、そう言う素材を使って工作したりしていました。今振り返ると、夏休みの自由工作などでは、折り紙のジオラマみたいなのをつくったりはしていました。
美術の専門学校に通われたのですね、それはアートを勉強したくて?
母の勧めがきっかけでしたね。もの作りは何かしたいなって思っていて。まあどこでもいいやって感じだったんだったんですけど(笑)。「だったらここいけば」と言われて、特に何も考えず、「じゃあそこ行く」っていう簡単な感じで決めました。母は美術、音楽などに関しては、理解があり、よく自分のことを観察していたなと思いますね。
3.11の震災をきっかけに初めて折り鶴の作品をつくる。
入学されてからはどんなものを手掛けられたのですか?
入学してはじめのころはプロダクトデザインをやっていました。それはそれで面白かったのですが、だんだんと違和感を抱くようになって。プロダクトデザインをするのは今の自分では違うかなと。デザインって人から言われたものをやるじゃないですか。課題や要望を実現する。それをずっとやっていくのは自分の性に合ってないなと思うようになりました。
実はずっと、幼少期から作り続けてきた折り鶴で何か作りたいなって思っていたのですが、きっかけがなくて。2011年3月11日の震災をきっかけに折り鶴で自画像を作りました。それが折り鶴を使った最初の作品です。
折り鶴を、何かで表現したいと思っていらっしゃったんですね。
思っていましたね。もともと自分の核になるものの一つに折り紙があったのですが、中でも折り鶴は何かしらできそうだなっていう可能性みたいなものがありました。鶴ってみんな大体学校とかで折った経験がありますよね。そのくらい折り紙の中でもスタンダードな位置にある。ゆえに灯台下暗しで見過ごしがちですけど、そこにインスパイアされているというか。今考えたら理由があるんですけど、その時はなにか可能性があるのではないかと思っていました。
折り鶴は祈りの象徴。
鶴と言えば、千羽鶴のイメージもあります。
そうですね。実は、それには違和感があって。千羽鶴には平和のイメージが昔からあり、多分多くの方もそうイメージするのだと思います。
震災があった2011年3月11日の1年後、2012年に岩手県の陸前高田に行った時も沢山の千羽鶴を見かけて、平和とか戦争とかの文脈ではないところに、折り鶴が置かれているのを見て。行き場のない想いを折り鶴に込められているように見えました。すごくしっくりきたというか。
折り鶴は、祈りの象徴なんだと。平和だけでなく、鎮魂や、あらゆる想いを、折り鶴に乗せて願いを託す。改めて折り鶴のちゃんとした居場所を作りたいと思うようになりました。
ものづくりで生きていきたいという気持ち。
専門学校をご卒業されて、すぐアーティストとして活動されたのですね。
もともとは就職しようと思っていました。ただ、就職しても多分僕は続けられないだろうなって思って。制作活動を続けました。アーティストになりたいというよりは、ものづくりで生きていきたいって思っていて。なので芸大を出て勉強し直そうとか、そういう発想ではなく、自分で少しずつ、つくって売って、生計を立てていこうと思っていました。なので、アーティストという肩書きもあまりこだわっていなくて。一応何かに当てはめるとしたらアーティストとか、美術家とかになるのかなって思いますが、基本自分から折り鶴アーティストとは言わないですね。
初めて作品を購入されたのが、千原ジュニアさんだったと。
新発見アートバラエティ『アーホ!』という番組に出演させていただいた時に、司会が千原ジュニアさんだったのですが、購入してくださって。僕の最初のコレクターです。そこから百貨店などからご連絡をいただくようになり、色んなところで展示させて頂きました。それまでは作品販売もしていなくて。折り鶴ピアスを作っては、デザフェスなどでちょこちょこ売ったりするレベルでした。テレビ出演してから、少しずつ広がったイメージです。
一番大切なのはつくっている時間。
今後、挑戦していきたいことは?
鶴以外のバリエーションも考えています。全然まだ決まっていないのですが、何かできればいいなと。今後長い目線では逆に考えられないというか、その時その時に何かあればやろうと思っていて。目の前の、例えば次の展示でできる限りのことをやろうという感じで、少しずつやっている感じですね。今後のことはどうなるかわからないので。僕はつくってる時が一番楽しくて。それを一番大切にしています。
最後に、ご自身のお好きな作品について教えてください。
2016年に発表した作品で、震災で壊れてしまったグラスなどのアンティークを作品の一部にするというのがありました。それはコンセプトも作品の仕上がりも気に入っています。いつもそうですが次に創り上げる作品が自分のベストであるように制作をしています。
小野川 直樹
幼少期に出会った折り鶴を作品に落とし込むことで、折り鶴の「居場所」を創り上げています。改めて見つめ直してみると、折り鶴はどこか尊く、また神秘的な「なにか」がひそんでいる様に感じます。そして、それはまた、私の信じている「美しさ」でもありました。作品との対話を通し、心を揺さぶる「なにか」が生まれることを願っています。
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