事の始まり
盆休み最終日、私の手元に一通の手紙が届いた。
見覚えのない地名の町役場からだったが、
どうせ、数年前の自分が返礼品に目が眩んで、
ふるさとでもない見知らぬ土地に納税した際の
お礼か報告の類だろうと、軽い気持ちで
封を開けた。
ところが、封書の中身は三枚。
一枚目は
「土地所有者(相続人及び利害関係者)様」
と書いた手紙、
二枚目は森林の土地を大きく赤く囲んだ地図、
三枚目はその町の集会所の所在地を指し示す地図。
全く身に覚えがない。
特にやましい事はないが、何だか気が重い。
お盆明け、重い腰を上げ、仕事の合間に町役場に
電話をかけた。
その時の担当者とのやりとりを端的にまとめると、
計り知れない程遠い親戚から下に降り横へ横へと
スライドした結果、私が相続人の一人になって
しまったパターンで、要するにその辺り一帯を測量し直すから協力して欲しいという趣旨の話だった。
もちろん快く協力することにした。
担当者との会話の途中、私に繋がるよく知った
人物の名前が出てきたので、
「あぁ、確かにその方、お子さんいなかった
ですもんね」
と呟いたその瞬間だった、
「え?…貴方、◯◯さんのこと、ご存知なんですか…?」
町役場の方の声色が明らかに変わり、
妙な空気が流れた。
「…はい、私の幼少期はまだ存命だったので、可愛がってもらいましたが、確か私が中高生の頃に亡くなったんじゃなかったですかね…」
と、精一杯の記憶を手繰り寄せ続けると、
「確かにその通りなんですが…ただね、不思議なことに、あなた以外の方は誰もその方をご存知ないと
おっしゃっています…皆さんが記憶しているごきょうだいの人数も戸籍上の人数と合わないんですよね…」
気がつけば、冷たい汗が背中を伝っていた。
揺るがないはずの家族の輪郭が、
曖昧になり溶けていく。
予期せず、残暑の中始まった怪談。
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