うさぎとへび

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最近の記事

事の始まり

盆休み最終日、私の手元に一通の手紙が届いた。 見覚えのない地名の町役場からだったが、 どうせ、数年前の自分が返礼品に目が眩んで、 ふるさとでもない見知らぬ土地に納税した際の お礼か報告の類だろうと、軽い気持ちで 封を開けた。 ところが、封書の中身は三枚。 一枚目は 「土地所有者(相続人及び利害関係者)様」 と書いた手紙、 二枚目は森林の土地を大きく赤く囲んだ地図、 三枚目はその町の集会所の所在地を指し示す地図。 全く身に覚えがない。 特にやましい事はないが、何だか気が重

    • 果実の亡霊

      今年も誰かが剥いてくれた柿と梨を食べたい 季節がやってきた。 夏の誰かが剥いてくれた桃と夏みかんを 食べ逃してしまったが、 冬の誰かが剥いてくれて林檎を 食べ逃してしまうんだろうな。

      • 右側の問題点

        久しぶりに、髪をショートにすることにした。 超ド級のストレートなのでパーマをかけた方がいいと勧められ、勧めに従うことにした。 しかし、超ド級のストレートだと思っていた髪には 実は生えぐせがあったようで、 右側が必ず、ピョコンとはね上がる。 ずっと気付けなかった自分の深層に眠る生えぐせ。 毎朝、私は私の中のスネ夫と戦い続けている。

        • 物憂げな店番

          私の唯一の夢は、ブックカフェかブックバーの 店番をすること。 マトリックス状の本棚に名もなき数名が脈略もなく 選書した本を並べ、次の数名に交代し、 お客は黙々と本を読むだけの店。 出来れば私も本を読んだり、ともすれば工作や 裁縫、ミシンなんかしながら店番をしたい。 別に本を読んでいないからと咎める訳ではないが、 基本、誰も積極的には交流せず、常に誰かの気配を 感じつつも、各々壁に向かって過ごす空間の提供を目的とする。 そしてあくまでも、私は店番。 私は音楽がないと気が散

          真夏の夜の夢

          そのコンビニが、少し前に閉店したことは 知っていた。 100m手前のラーメン屋を久方ぶり訪れ、ふと 元コンビニの方に目をやった。 すると潰れたはずのコンビニの元看板が 輝いていた。 「へぇ、もう新しい店舗が」 と物見雄山、少し足を伸ばして見に行ってみた。 しかしそれは、対面した歯医者の電飾看板を ただ鈍く反射しているに他ならなかった。 それはまさしく、まやかしの蜃気楼、 真夏の夜の夢のようでした。

          ライムとドッグ

          我が家の最寄り駅は、程よく田舎、程よく都会。 コロナ禍以前、 駅にある、ただ広いだけの何もない広場で 何故か夜な夜なフリースタイルラップバトルを 行っている若人たちのグループがいた。 それぞれのマイクと少し大きめのスピーカーを 持ち込んで、対決する2人とそれを囲む3、4人、 という規模、音量も近くに寄ればお互いは聴こえる程度で、そんなに深い夜までは行っていない ようだったので、道行く人や近所の人も一瞥くれる程度、特に何も感じていないようだった。 もちろん最寄り駅なので、何

          ライムとドッグ

          受験のじゅ

          小学生の時、私は公文のノリで中学入試専門の 某有名進学塾に迷い込んでしまった。 小学校低学年から中学年までお習字と公文に 通っていたが、気がつくと同級生は公文をやめ、 近所の公園にも顔を出さなくなった。 「塾に行ってるから、あんまり遊べない」 そうか、私も塾に通えばみんなと一緒にいられる…と、安直な想いから「私も塾に通いたい」と 母に直訴した。 私は母子家庭で、母親も塾事情に疎かったので 「みんな、どこの塾に通ってるか、聞いておいで」と言われ、当時わりかし仲良しだった友

          終わらない深夜残業と、餃子

          これは昔、月一必ず、一週間程度の徹夜を余儀なくされる仕事に就いていた時の話です。 残業と眠気のエピソードについては、 机に突っ伏したまま長時間寝ようとしたらゲップが止まらなくなったとか、 椅子を並べて寝ようとして椅子からずり落ち、 もうここでいいや…と床に横たわっていたら、 めちゃくちゃにダニに喰われたとか、 枚挙にいとまがないが、今回はその話ではない。 私のいた部署は他部署の仕事を受けて 仕上げのような仕事をする部署なので、 私たちにスイッチングするように、 別の部署の

          終わらない深夜残業と、餃子

          やんちゃな読書家

          流行に疎く、勉強も運動も苦手な娘。 学校にはほぼ友達がいないので、 どんな友達が欲しいかと娘に尋ねたら、 「好きなものを強制したり仲間はずれにしない子がいい。出来ればお互いの好きな本の話とか出来る子だったら最高」 高校入試の話になり、成績に従って 受験できる高校が決まるらしいよ、 このままの成績でいける学校があるとするなら やんちゃな子の割合が少々多い学校になるかもね なんて話になったんですが、すかさず娘は、 「どんなやんちゃな子でもいいよ。好きな本があるといいな」と話して

          やんちゃな読書家

          白目の代償

          書店の店頭、平台に所狭しと並んでいる、 級数がデカい題字に、キャッチーなデザイン、 『ビジネスパーソン、必携!』の帯と共に 腕を組んだ分かりやすい成功者のアイコン写真… 私にとってジャンルは曖昧なので、 俗に言うビジネス書・自己啓発本だと仮定して、 話を進めていこうと思います。 その全てが憎らしいと思った そんな一時期があったという、そんなお話です。 息子の出産後、産休明け、 2歳児と乳児、2人の育児と仕事の両立で 白目のまま生きていたあの頃…。 日常家事がやっとで、

          藻屑としての日記

          何故、心にうつろう よしなし事を 書かなかればならないのか? 日記について考えてみたら、 これはまさしく、 一方通行のコミュニケーションへの羨望、 一人カラオケへの欲求と似ているな、 と思いました。 年齢も属性もキャラも居住地も関係ない。 時候の挨拶もアイスブレイクもないまま、 最初から最後まで心のままに話したい、 出来れば時系列も時空さえも飛び越えたい、 そんな諸所への配慮を欠いた行いの爽快感を 日記に求めている気がします。 この快感を死守するためには、 第一に読者は

          藻屑としての日記