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英語圏Vライバー事務所を1年で潰した話

はじめに

初めまして、forCreatorsという会社をやっているHarryです!
2023年10月にシンガポールで創業し、今2期目のQ1が終わったくらいのスタートアップをやっています。

今回の記事は、僕が英語圏に特化したVライバー事務所を立ち上げて、わずか1年で潰してしまった話です。ちょうどこのnoteを書いている今日2025年1月31日で最終日を迎えているのですが、良い節目なので、創業から取り組んできた事業のピボットに至るまでを、備忘録も兼ねて、振り返ります。
タイトルからして攻めていますが、全く武勇伝とかはなく、失敗しまくりだったなと反省が多くあるので、誰かのためになってほしいという思いも込め、赤裸々に僕視点で書いてます。
「しくじり先生」のイメージで読んでください(伝われ)

なぜ英語圏のV-Liver事務所?

まずは僕がなぜ「英語圏Vライバー事務所」を立ち上げようと思ったのか、そのきっかけや背景をお話しします。

元々やっていたこと・やりたいこと

僕自身は、日本と台湾のハーフで、アニメや漫画、コンテンツ大好きマンとして育ち、大学でも授業より海外留学やインターンなどして過ごし後、コロナが始まる半年前の2019年10月に新卒でライブ配信アプリの17LIVEに入社しました。グローバルの社長室で3年ほど当時の社長の小野さんのアシスタントをさせていただき、コロナで爆発的に伸びたライブ配信業界のトップランナーのポジションを体験しつつ、USや中東に進出して失敗したり、徐々にTikTok Liveに全てを持ってかれるような一部始終を経験させていただいた、濃い3年間を経て独立。ビズデブやマーケの個人事業主として1年ほどエンタメやWeb3領域に携わった後、当社を創業しました。
自分の強みと関心を活かせる、グローバル、エンタメ、クリエイターエコノミー領域で事業探しをする中で、そこで目をつけたのが、海外のVTuber市場。「日本発のカルチャーで海外に勝負する」ことにチャレンジしてみたいと考えました。創業前のタイミングで、東南アジアや北米のアニメコンを周り、現地のVTuber事務所の社長などとアポをとって会いにいき、それぞれの市場の話を聞く中で、いくつか仮説を作りました。

最初の仮説と狙い

1. 日本と世界市場の数年のズレ
VTuberは日本発の数少ない新カルチャーである。日本から大きなトレンドが始まり、COVERやANYCOLOR社のおかげで世界中に広がっている中で、市場のフェーズには若干のズレがあるような気がしました。日本の今が海外市場の数年後(3-4年後くらい)のイメージ。数少ない「逆タイムマシーン経営」が叶う領域なのではないか?

2. ロングテールの波が来る
色んな海外のV関係者に話すと、誰もが口を揃えてYouTubeやTwitchは飽和してる、競合多すぎるって言う。でも他に行くところがない。日本の場合、その先にRealityやIRIAMなどのプラットフォームが行き先になっているわけですが、海外はまだ手前。Realityはすでに北米でも爆伸びしてますが、配信者の話を聞くと、VTuberになりたいけど北米でアバターを作るとかなり高く(ローカルのイラストレーターさんは日本の2倍以上の価格帯)、とてもじゃないが無理、と言う課題がある。日本ではココナラやBoothでいくらでも安く作れるオプションがあるが、そこがない。これからロングテール時代になっていく、と感じてた。

ピッチ資料にも載せてた略図

ライバー事務所モデルは、プラットフォームの依存度は高いですが、比較的赤を掘らずにキャッシュが作りやすいビジネスモデルなので、ライバー事務所としてキャッシュを作りながら、周辺ネットワークを広げ、次のビジネスへ展開できるのでは、と思って始めることにしました。

“事務所”の価値はどこにある? という懸念

ただし、「事務所」というモデルには以前から大きな懸念がありました。
クリエイターエコノミーの進化により、事務所の価値が薄れつつある
個人で情報を得て、仕事を見つけて、コンテンツを制作できるツールがネット上に増えた結果、「事務所しかできないこと = 価値」を作りづらくなっていると感じます。一方で、ライバー事務所は人数をたくさん抱えてなんぼの世界。1,000万稼げるタレントを10人抱えるのではなく、100万稼げるタレントを100人抱えるモデル。僕が以前いた17LIVEで見てきたのは、「マネジメント」とは名ばかりで、実際にはタレントに寄り添わずただ手数料を抜いているだけの事務所も多かった。あんな搾取状態には絶対なりたくない、と強く思っていましたが、一方でサポートを包括的にやっていることも規模としては難しい。タレントあたりの稼げる額が多くないので、一人当たりにかけられるマネジメントコストも必然的に低くなる、低くしないといけない。

北米には当然ライバー事務所みたいなものは存在しておらず、VTuber業界の中で10名以上のタレントを抱えている事務所すらほとんどない状態で、どのように説得力を持って大量のタレントを抱えるか。日本の事務所と北米の「Agency」って微妙にニュアンスが違っていて、日本だと結構会社が強いイメージですが、北米では真逆でタレントが会社を使うもの、タレントが個人ではできないものを「仲介」するものとして明確なベネフィットを提供しないと、それはAgencyではないという概念の中で、「どのようにライバー事務所モデルを輸出するか?」という問い。
タレント事務所のビジネスモデルについては、創業前からずっと考え続けていたことでした。

出した答えとコンセプト:「アカデミア」構想

そんな中、僕らが掲げたのは「アカデミア」モデルです。
ヒロアカ(僕のヒーローアカデミア)のような事務所を目指す
Vtuberになりたい人たちが集まり、学び合い、切磋琢磨しあう「学校」のような場所。定期的なレクチャーや共通のアセット提供、ボーナスなどのインセンティブを提供し、逆に個人へのマネジメントはほとんど行われない、という前提でタレントに入ってきてもらう。

次世代VTuberの“Launchpad”になる
僕らのアカデミアから、かつYouTube/Twitchなどのプラットフォームではなく、新しいスマホ配信アプリをベースにキャリアを始め、その中で結果を残した優秀なタレントが、より多くのマネジメントリソースが提供される、いわゆる「タレント事務所」へ移籍し、マルチプラットフォームでトップスターになっていく。そんな理想の青写真を描いていました。

初期の立ち上げ

最初の数ヶ月はまさに“手探り"の日々でした。

タレントと話しまくった日々

英語圏タレントへの「ドアノック」
まずはアメリカ人スタッフを雇い、彼に個人VTuberや配信者へ片っ端からコンタクトしてもらいました。興味を示してくれた人には僕が直接オンライン面談。僕自身がアジア圏にベースにいながら、北米のタレントと話すので、深夜にmtgが入るのは当たり前で、毎晩のように面談をしました。英語はネイティブではありませんが、さすがに毎日これだけ話していると、初対面の誰とでもすぐに関係構築できる自信がつきました。

コンセプトとタレントの反応は良好

“ワンチーム感”を目指したコミュニティづくり
自己紹介やコンセプトの紹介、タレントとしてジョインをしてほしいというピッチを繰り返す中で、タレントのニーズや状況の違いにはよるものの、NEXASのコンセプトや同じ志を持つタレントと繋がりコミュニティができることにはポジティブなタレントばかり。僕も手探りで作っている中で、一緒に新しい船に乗ってほしい!みたいなスタートアップの採用のようなテンションで仲間集めをし、無事面接も通ってコミュニティにジョインしたタレントたちは、自然とDiscordのボイスチャットに集まり、夜通しゲームで遊んだり雑談している。当初はすごくポジティブで、なんかが始まる予感がぷんぷんするような状況でしたし、すごくワクワクしてました。

マーケ戦略: 誰も知らない事務所への不安をどう払拭するか?

まずは1st Waveの30名ほどのタレントが揃い、いよいよデビューに向けて、アカデミアとしてローンチマーケティングを始めていきます。大手資本でもなく、実績も知名度もない新興プレイヤーが英語圏でファンを獲得するには、やはり“信用”がカギ。そこで目をつけたのが、既存の大手タレントとのコラボでした。

友達の紹介やDM突撃を通じて、ENVTuber界で有名なfilianlopiと繋がることができ、快くゲスト先生としてタレントに向けてレクチャーをしてくれることになりました。

個人のクリエイターとして数十万、数百万Subscriberまで伸ばした秘訣、普段どういうふうにコンテンツを作っているか、心構え、ルーティンなどなど。このときの内容は半端ない量の学びが詰まっていて、僕もファシリテーターながら1ファンとして質問しまくってしまい、、、感謝してもしきれないです。

大炎上とその後

こうして準備万端、いよいよデビュー配信が目前に迫ったタイミングで、それは起きました。
「アカデミアのコンセプト」「3日間で27名をデビューさせるスケジュール」など、僕らとしてはずっと準備してたことをやっとお披露目できる!と自信満々に投稿したところ、アンチコメントの嵐です。

「こんなの絶対うまくいかない」「既存の常識から外れすぎ」「なんでこんな無謀なことを?」「このバカなファウンダーは誰だ?」といった意見が大量に寄せられました。まあ彼らからしても、知らない事務所のタレントが大量に知らないプラットフォームにデビューをしていくので、理解できないのはまあわかるのですが、タレントがめちゃめちゃデモチベするような心無いことを浴びせてくるわけです。
正直、半年以上準備したものが目の前でボロクソに叩かれ、こんな事務所に入ったタレントもバカだろ、みたいなことを言ってくるのを見て感情的になり、いくつかのコメントに対してついレスバっぽい絡み方をしてしまい、さらに火に油を注ぐ結果に。本当に後悔しています。

「Dramatuber」ってご存知ですか?
世界中どこでも、ゴシップや不祥事が大好物な配信者はいるもので、僕らも漏れなく彼らの餌食になりました。タレントのデビュー直前に、いろんなDramatuberたちの配信で、僕のLinkedInやTwitter、過去の会社情報まで掘り返されて、誤解ばかりの解釈でボロクソに言われるのを見ながら、感情を失ったのは今思うと良い経験です…
何しても全く頭が動かなくなり、全部mtgキャンセルして家の近くのサウナに5時間ほどこもって瞑想してなんとか気持ちを切り替え、落ち込んでもデビュー配信は次の日に始まるので、タレントにも謝りつつ、余計なこと考えずにとにかく頑張ろう!と自分自身にもチームにも、タレントにも言い聞かせてました。

Merryの公開処刑配信?

炎上が拡大する中、自身がXで40万フォロワー、YouTubeで50万、Twitchで30万のフォロワーを持つトップENVTuberの1人、Merrywhetherから「俺のチャンネルで話してみない?」というDMが届きました。彼自身自分でWebtoonの会社やVTuber事務所の社長をしていて、純粋にコンセプトに興味があるんだ、というメッセージ。逆に「ここで誤解を解かなければ、もう後がない」と腹をくくり、二つ返事でMerryの配信への出演を決心しました。

これは賭けです。別にネイティブでもない言語で、またDramatuberのご褒美になるような発言ミスをせずに、特に事前に質問を知らされるわけでもなく、生配信で質問攻めにあう、いわば公開処刑になりかねない状況。
事前にMerryを知る人に何人かどういう人なのかを聞くと、悪意を持って人を攻撃するような人ではなく、フェアにファンに寄り添いながらも自分の意見を言う人だと聞いていたので、とにかく誠実にロジカルにパッションを伝え、誤解を解くことに専念しました。1.5時間もの生配信で、Merryやファンからの厳しい質問に英語で必死に答える。配信前は全く何も喉に通らないくらい緊張してましたが、特に危ない発言や誤解の種を蒔くこともなく、フジテレビの会見よりは上手くできました。

小並感あふれるフクロウの僕

結果:Merryとは大の仲良しに
その後は彼自身もオープンにNEXASを応援してくれ、Merryが言うなら、、、と言う形でアンチも消えていき、ボランティアでスペシャルレクチャーをNEXAS向けにしてくれたり、一緒にご飯に行く仲になるなど、本当に救われました。

初期の成功体験

炎上騒動のおかげで逆に注目度が上がり、デビュー当日のパフォーマンスは上々。タレントたちも全力で準備してくれて、視聴者も盛り上がってくれました。この頃は提携プラットフォームが“じゃぶじゃぶ”お金をばら撒いていたので、配信を頑張れば頑張るほどタレントも稼げて、イベントも熾烈な競争状態。ライブ配信アプリの初期特有のワクワク感があったと思います。

デビュー直後に始めたオーディション応募数400名

あれほど炎上してたのに、それでも共感をして入りたいと思ってくれてる人が400人もいるのかと、上段で話したロングテールへのトレンドや、新しいプラットフォームへの期待、新しい事務所形態への期待は間違ってなかったんだと手応えが確かにありました。

(現地VTuberメディアに載せてもらった取材記事)

なぜ事務所が続けられなかったか

“デビューフェス大成功”の後、3ヶ月くらいはよかったのですが、そこから急速に歯車が狂い始めます。

他プラットフォームへの羨望と誘惑

日本だと、VTuberとVLiverって全く違うもので、説明コストってほとんどないと思うのですが、北米ではその境目はなく、誰もがVTuberに憧れている状況です。IRIAMの初期はまだVTuberも駆け出しのタイミングでライブ配信アプリも一定普及しているタイミングですが、北米はVTuberが今まさにキラキラしてて、スマホ配信に特化してる人なんか存在しない、という市場感です。
Youtubeで配信しないの?
タレントがX上で他VTuberと交流すると、「YouTubeでコラボしよう!」という誘いが増えます。けれど僕らは最初、プラットフォームから支援を受ける条件として他プラットフォーム配信を制限していたので、タレントは「事務所に止められてるんだよね…」と説明するしかない。すると、「最悪じゃん!」とタレント同士でネガティブ化。そこから少しずつ制限を緩め始めると、当然タレントは「楽しい方」へ移行してしまう。結果的に主戦場があやふやになってきました。

コミットメントを促す難しさ

配信時間を強制できない契約
グローバルで事務所運営するには、法的にも文化的にも厳しい部分が多く、具体的には、少しでも義務を課す契約書にすると「労働者性」を帯びて会社の責任範囲が強大になる、というジレンマがありました。必然的に契約書は緩めで、事業として一番重要な配信時間やコミットメントが一番コントロールできない要素になってしまっていました。今思うとここはもっとやりようがあったと思います(義務にはせずに、配信達成しないとやめてもらう仕組みとするなどの間接的な促進とか)

メンタルヘルスに対しての考え方
欧米圏と日本では、メンタルヘルスに対する考え方が全く違います。これはあまり誤解なく文字で書くのは難しいのですが、コミットマネジメントのやり方として日本的な根性論や、プッシュ型のアプローチがやりづらい環境でした。初期のクリエイターなんて視聴者も集まらないし、楽しいことばかりではないことは分かり切ってるはずなのですが、そこからもう一歩踏み込んでメンタルに少し負担をかけつつも奮起してもらうコミュニケーションの難易度がすごく高かった。淡々と何も言われずにやり続けられるタレントも多くいましたが、その比率を事業として必要な水準に押し上げるのが難しかった。

スタッフコストの増大
ほぼ同タイミングで、ANYCOLOR社のNIJISANJI ENが大炎上をしていました。端的に言うと、日本的なマネジメントを欧米のタレントにした結果トップタレントが離れていった。北米のタレントをアジアベースの人員でマネージし、会社とタレントの溝が開いていき、辞めたタレントがNDAガン無視で色々内部事情を暴露し始め、田角社長が謝罪動画を上げる、そんなことが起きていました。

(現役弁護士YouTuberが、リークされたにじさんじの契約書を公開レビューするという地獄の配信…)

戦略として違うとはいえ、タレントもそれを見ているので、僕らとしてはタレントと同じタイムゾーンのスタッフを雇っていくしかなく、当然ながら人件費が高い。タレントも急ピッチに増やし、それに合わせてスタッフも増やさなきゃいけない圧力がかかり、キャッシュがどんどん減っていく状況に。今思うとこれは耐えるべきだった。地に足がついた経営ができてませんでした。

提携プラットフォームからの離脱が加速

“じゃぶじゃぶ期”の終わり
最初は潤沢だった報酬キャンペーンが終了し、トップタレントが一気に稼げなくなりました。これはPocochaや17LIVEがUS撤退した際にも原因に上がったことですが、やはり投げ銭カルチャーがアジアよりも薄く、かつ実際に自分が投げた額の何%がタレントに入るのか、が重視されたりなど、その場で投げ銭をたくさんしてもらう理由作りが難しく、想像以上にタレントあたり稼げないことがわかってきます。
AI騒動 → 不買運動に発展
ENVTuber界隈は極端にAI反対思想が根付いていました。AIアートがイラストレーターさんの仕事を奪う、AIアートを使ってるやつは全て敵!という人がいるのはまだわかるのですが、提携プラットフォームがAIを活用した配信機能/クリエイター拡大を進めていたことに対して極端すぎる反応が起きました。タレントも周りの人に嫌われたくないので、AIのトピックに巻き込まれたくなく、私はもうここでは配信しません!みたいなことを宣言して止めてしまう、ということが起き始めます。

もちろんYouTubeやTwitchに専念したからといって稼げるわけでは全くなく、タイパでは提携プラットフォーム上で配信した方がタレント的にも会社的にもまだお金にはなるのですが、歯止めが効かなくなっていったという感じです。

この辺から、当初の戦略やビジネスモデルが崩れていきました。

コミュニティの”負のスパイラル”

当初は「みんなで切磋琢磨する場」にしようと始めたDiscordサーバーでしたが、徐々にネガティブな意見の温床へ変化してしまいました。
ボイスチャットに数名が集まり、マネジメントやプラットフォームへの不満を言い合っているのを見かけることが増えました。当初の戦略通りにタレントを増やし続けることに対しても不満が集まり、音信不通になったタレントへの会社の対応に関しても不満が爆発する。コミュニティ機能を廃止したい僕と、そしたら価値がなくなると反対するスタッフ。コミュニティ内でこのような騒動が起きるたびに配信をお休みするタレント。コミュニティが逆に“頑張らない理由”になっている状況は最悪でした。

選択の時

この頃になると、事業方針を大幅に変えないともう持たない状況になっていました。
1. 抜本的改革(オペレーション、契約書など)
当初の戦略により一層コミット。多数のタレント離脱は覚悟の上で、強制力を持たせる方向へ。

2. 主戦場(プラットフォーム)を変える
タレントの関心が向いているYouTube/Twitchにフォーカスをするか。ただ、他の中小の北米事務所の社長とも話すと、思った以上にどこも経営がうまくいっていないことがわかりました。数年かけてお金を燃やせる大資本企業か、他の事業で投資資金を確保できている中小企業のどちらかくらいしか、僕らが参入した2023年以降にできた事務所で持続できているところはありませんでした。

当初の仮説はずれ込み、延長線上で逆転劇を狙うのは難しいと判断せざるを得ませんでした。

ピボットと今後のNEXAS

結局、Vライバー事務所として継続するのは難しいと判断し、事務所機能のクローズへ舵を切ることに。

改めて「タレント事務所」というモデルの難しさを思考する。

すでに個人で結果を残したタレントを引き抜く方が合理的
VTuber事務所って特殊な業界で、一からタレントをプロデュースすることがデフォルトになっている数少ないタレント業界です。これにはキャラクターIP化への夢があるからですが、例えば音楽とかリアルのインフルエンサーとかは、新人をイチから育成するより、既に人気の個人や伸び始めているタレントを発掘・スカウトしてサポートするのがデフォルトになりつつあります。例えば日本でも有名なVShojoも、IPを会社は持っておらず、あくまでスポンサーや物販を行うエージェント業です。BraveグループのV4Miraiも、現地ではAdoptionと呼ばれますが、すでに活躍していたインディータレントを迎え入れたりしているし、Hololiveも最近できた新しいグループ「FLOW GLOW」は、元AKBグループやYouTuberの人が集まってたりと、流れが変わってきてる気がします。

かっこいい

ライバー事務所はプラットフォーム依存が全て
タレントと売り上げを折半するのではなく、プラットフォームからB2B的にマネジメント費やボーナスを稼ぐモデルの追求も改めて考えましたが、結局プラットフォーム依存が高く、そもそも稼げるプラットフォームか、事務所報酬体系は良いか、の2軸に尽きます。特にライブ配信アプリは、プラットフォームで稼ぎやすさが全然違うので、元々別で配信してたタレントが17LIVEに来て、特にやり方を変えていないけど売上が3倍になり、その後TikTokLiveに行ってまた2倍になった、ということがザラにあります。NEXASはここをうまく活かせることが出来ませんでした。

機能特化型エージェントが今後の主流か
全部をトータルでマネジメントするのはもう時代にあってなくて、スポンサー営業とか、グッズとか、コンテンツ制作とか、メンタルケアとか、何か機能に特化しつつ、タレントから収益を奪うモデルではない形(新しい収益源を作ってあげるなど)が持続性のあるモデルな気がしてます。VTuber事務所が1からのプロデュースにこだわる醍醐味であるキャラクターIPを創る、というものからは少し外れるが、Plottの奥野さんがいう IPを広げる、売る機能に移行するイメージです。

タレント事務所機能の終了

2025年1月31日で事務所を正式クローズ
所属タレントには、希望者にアバターなどの権利を譲渡し、個人として今後も活動を続けられるよう対応しました。みんな本当にいろんな形で努力をしてくれていた中で、もっとそれぞれのタレントにあった育成をし、思い描いた通りにタレント個々人と事務所を大きくすることができず、申し訳ない気持ちでいっぱいです。この急ピッチなクローズに混乱させ振り回してしまったことばかりですが、インディータレントとして引き続き活躍してくれることを心から祈っています。

創業期から支えてくれた仲間や、タレントマネージャーとして成長していたスタッフに対して、クローズや契約終了の話をしていた1週間は、シンプルに情けなさで死にたくなりました。

クローズアナウンス後の反響
昨年の12月頭にアナウンスを行いました。「無理だと思ってたぜ!」って言ってくる人もちらほらいましたが、概ね「なんで閉じちゃうの?」と惜しんでくれる声が多く、短い期間ながらこれだけ応援してくれるファンの方ができたことに感謝の気持ちでいっぱいでした。

NEXASをリブランディングする。

海外VTuber領域はそれでも伸び続ける
NEXAS運営の中で、ありがたいことに、北米や東南アジアを中心にVTuber事務所やインディータレントとかなり深く繋がり、大きなネットワークができました。タレント事務所というアプローチはハマりませんでしたが、僕自身はこの市場にまだ諦めているわけでは全くなく、時間はかかるかもですが伸び続けていくと確信しています。

日本ではHololiveくらいしか海外事情は有名じゃないかもしれませんが、Twitch最大級のサブスクライバー数を持つストリーマーはVShojo所属のironmouseだったり、filianの動画は切り抜き含め毎月1億再生以上を叩き出していたりと、トップタレントを中心にカルチャーの中心に近づき始めています。

グローバルVTuber代理店を狙う
これまで作ったネットワークやブランドを生かしながら、「世界中でVTuberやアニメ系インフルエンサーを巻き込んだプロジェクトをしたい」と思ったときに、最初に声がかかる代理店。そんなポジションをNEXASとして確立しようというのが、今の僕のビジョンです。

NEXASのロゴやタグラインを変えて新たに始めていきます

原点回帰と模索

とはいえ、広告代理店業だけで今後ずっとやっていくかと言われれば、まだまだ領域含めて模索段階です。市場の成長が思ったよりスローであることも踏まえ、上記の代理店業だけでは厳しそうな気がしています。スタートアップの鉄則はFOCUSというのは重々承知してはいるが、目下は幅広く試しながら次に大きくリソース投下する領域を探しています。

会社としてやりたいこと

改めて会社としてやりたいことは、クリエイターの支援を通じて新たなカルチャーを世界中で生み出すこと。そのために、クリエイターを支援し、日本と海外に橋をかけること
日本のクリエイター、コンテンツ、カルチャーの海外輸出もそうだし、逆に海外のクリエイター、コンテンツ、カルチャーの日本進出にも取り組んでいきたい。日本発のコンテンツ・カルチャーを海外に広げたり、逆に海外のクリエイターを日本に紹介したり、“世界”を意識したクリエイター支援を続ける。ここは変えません。
僕は台湾と日本のハーフというバックグラウンド上、日本を勝たせたい!みたいな思いは正直強くなく、海外のクリエイターやコンテンツも好きなものがたくさんあるし、それが伸びるからといって「日本が負けてる!」みたいな日本が主語の考えにはなりづらいです。ただ、シンプルに、すごいユニークなカルチャーが生まれる場所なのに、グローバライゼーションができる人材がいなさすぎて、国力の差になっている状況を恥ずかしいと思うし、僕自身が貢献できるようになりたいなと思っています。

その中で、現在会社として小さく売りも立ち始めているのが、

  • クリエイター支援事業

  • Roblox事業

クリエイター支援事業

クリエイター支援事業では、上記の二つのベクトルで取り組みが始まっています。まずは日本のコンテンツクリエイターの海外進出、英語圏のクリエイターの日本市場進出。ここはまだまだ僕らも実験的ではありつつ、幸いにもMyAnimeListやTokyo Otaku Modeなどのキャリアを持つメンバーや、海外でインフルエンサーをやっているメンバーなどと知見を共有しながら、僕らだけしかできないサポートを作っていきたいと思っています。

Roblox事業にも着手

僕が在住しているマレーシアで出会った21歳の若手起業家パートナーと、Roblox内でIPを広げるソリューション開発を共同で進めています。
日本でも徐々に事例が増えてきましたが、IP業界、Robloxで何かやるのが一番手っ取り早く世界にアクセスできる方法だと思っています。
3.8億人の月間ユーザーがあり、トレンドを生み出すGenZ/αが1日平均3時間遊んでいるゲームプラットフォーム。ここではすでに新しいゲームやIPが生まれ始めていますが、僕らはIPを広げる支援をしていきます。
このパートナー会社は、TWICEやBLACKPINKのRobloxプロジェクトにがっつり携わり、実際にRoblox上でのファンコミュニティ運営が成功している例を見ています。音楽アーティストだけでなく、最近はONEPIECEや進撃の巨人など、多くの巨大IPも動き始めており、数年前にあった、「メタバースマーケ」とは明確に違う流れがきているように感じます。
僕らは、パートナー企業の運用知見と開発リソース、そして僕らが貢献できるプラットフォーム外からの集客ネットワークを使って、国内外のブランドIPに役立つソリューションを共同開発しております。
少しでも興味ありそうであればぜひヒアリングさせてください!

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まとめ —— しくじりから前進する

約1年のVライバー事務所運営は、結果的に“失敗”に終わりました。
この1年間、走り続けては壁にぶつかり、自分の能力不足を痛感しながらも、何とか事業を形にするためにやってきました。正直、精神的につらい時期もありましたが、それでも得たものは多いと感じています。

もしこの記事を最後まで読んでくださった奇特な方がいらっしゃれば
• 海外向けにVTuberやアニメ系のプロモーションをしたい
• RobloxでIPを活用したい
• “日本と海外を繋ぐ”クリエイティブな事業に興味がある
• あるいは僕やforCreatorsそのものに興味がある

何でも構いませんので、ぜひご連絡いただけると嬉しいです。
まだまだ実力不足ではありますが、とにかく動き続けて次のチャンスを探していこうと思います!💪

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!!
そして応援をしてくださった方々、携わっていただいた方々、本当にありがとうございました!

これを翻訳して読んでいるタレントへ。
多くの変化に振り回してしまって本当に申し訳ありません。みんなが日々悩みを抱えながらもコンテンツ作りをしているのを見るのが、僕にとっていつも大きな活力でした。今後もそれぞれのペースで、夢を叶えてくれることを心から応援しています。

今後とも、どうぞよろしくお願いします。

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