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檸檬から読み取る、梶井基次郎の思想が現代人に必要な理由
――「世界を爆発させる」ための美意識
本屋の棚を見渡せば、自己啓発書のタイトルがずらりと並んでいる。「夢を叶える方法」「成功するための習慣」「幸せになる思考法」。どれも大切なことではある。しかし、現代人はあまりに「役に立つ」ことばかり求めすぎてはいないだろうか?
現代を生きる人が本当に必要としているのは「効率のよさ」や「合理性」だけではない。むしろ、意味や価値が一見わからなくても、心が動かされるような「美しさ」や「感情の解放」が必要なのではないかと思う。
何かを激しく解放する作品と言えば。
梶井基次郎の『檸檬』
『檸檬』を読んだことがない人のために、簡単にあらすじを紹介する。
【病を抱えた「私」は、倦怠感と虚無のなかで街をさまよいながら、美しいものに執着している。そしてある日、八百屋で見つけた 鮮やかな黄色の檸檬 に心を奪われる。
「私」はその檸檬を手に取り、大好きだったが最近は息苦しさを感じるようになった 丸善(書店)へ入る。そして、気に入った美術書の上にそっと檸檬を置いて、そのまま店を出る。
その瞬間、「私」は檸檬が爆弾になり、世界が美しく破壊されるような幻想を見る。そして、心が晴れやかになったところで物語は終わる。】
現代人に必要な「世界を爆発させる」感覚
ここで重要なのは、「私」が檸檬を通して何を感じたのか、ということだ。
現代の人たちは、SNSや仕事に追われ、心のなかに「息苦しさ」や「閉塞感」を抱えている。すべてがシステマチックで、役に立つことばかりが重視され、個人的な感情や美意識が軽視されがちだ。
そんな僕たちにとって、『檸檬』の「爆発の感覚」は、大切なことを思い出させてくれる。
それは 「自分が思う美しさに心を奪われること」 だ。
「成功」や「生産性」ばかりを追い求めて、目の前の小さな美しさを見落としていないだろうか? 役に立たないと感じるものを切り捨てて、自分自身をすり減らしていないだろうか?
梶井基次郎は、そんな現代人に「檸檬」を差し出しているのかもしれない。
「自分だけの檸檬」を探すという習慣
仕事帰りにふと目にした夕焼け。
何気なく聴いた音楽の一節。
街の片隅で見つけた、小さな花。
それらは、もしかしたら「爆発のスイッチ」になるかもしれない。自分の心を閉じ込めていた世界を、一瞬にして解放するような力を持っているかもしれない。
「檸檬を置く」という行為は、単なるイタズラではなく、 美しさによって世界を再構築する試み だった。
自分の人生のなかでの「檸檬」
それは、意味や役に立つかどうかを超えた 「生きる歓び」 に他ならない。
檸檬のように生きる。
自己啓発とは、「よりよく生きること」について考えることだ。だが、それは決して「成功する方法」や「生産性を上げる技術」だけではない。
生きることの根底には、「美しさに心を奪われる瞬間」がある。
檸檬の鮮やかな黄色が、「私」の閉塞感を打ち砕いたように。
架空結社ハリー商会