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たった1人が救えない〜ヤナケンベースに憧れて〜

どうも豪華客船鍼灸師のリョウタです。

イスタンブール、ジョージアと治療、旅行を終えて無事に一昨日帰国しました。
今は大阪から古武術で有名な甲野喜紀先生の講義を受けるため、浜松に向かっている最中です。

移動距離とアイデアは比例すると高城剛さんは言いましたが、九月半ばに契約を終えローマから帰国。

そして帰国してからもここ最近移動しまくってるので、もんの凄いアイデアがそろそろ浮かんでくるのではとワクワクしております。



船で長く働いていると、こんな質問を他の船上鍼灸師からもらうことがあります。

「もしゲストが5回、もしくはそれ以上のパッケージ治療を買ったのに良くならない時ってどうしていますか?」

えー、確かにこれはありますね。
ゲストは時に10万円近くのお金を払っているので、治療効果が芳しく無い時、もうそれは頭禿げ散らかしそうなほどストレスですよね、わかります。


こちらとしてはコンサルテーションの段階でかなりスクリーニングをしていますが、それでもあまり良くならない人というのは、一定数存在してしまいます。

もちろんこれに関して自分の技術を上げていくというのが最適解だと思いますが、技術を上げるというのもなかなか言うは易く行うは難しです。

豪華客船という新患を多く診るという特殊な環境で働いていると、僕の場合約一月に1人、どうしても「治せなかったゲスト」というのが存在します。
1ヶ月で60〜80人の新しい患者さんを診てるので、この割合が多いか少ないかはわかりません。
ましてや友人の鍼灸師とこういう話をしたこともありませんし。

豪華客船での僕たちの仕事は陸での病院や接骨院の仕事と違い、待っていても誰も治療を受けに来てくれないので基本セミナーをしたり、コンサルテーションをしてゲストに良いと思ってもらう事で、初めて治療を受けてもらうというスタイルです。

そこは個々の鍼灸師によって大きく力量の差が出る所で、それについては前回のNoteでも書かせてもらいました。



そして繰り返しになりますが「売上」というのは非常に重要です。

売上によって僕らは会社から評価されますし、売上をおろそかにするという事は逆に言えばより多くのゲストに治療を届け、良くなる機会を逃しているという事にもなります。

しかしこの「売上げ」と常に二律背反的に発生してしまうのが、「治せなかったゲスト」の存在です。

例えばセミナーや、コンサルを上手く行い、並の鍼灸師であれば10人治療予約が取れる所を15人予約取れたとしましょう。
そうすると必然的に「治せなかったゲスト」を取ってしまう確率も上がってしまいます。


僕は治療経過が芳しくなかったゲストの記録をなるべく詳細に残しています。
それは理学検査からそのゲストとの会話、関係性の構築、そしてどこで信頼関係を失ってしまったかについての詳細。
正直後からそれを見るのは気分が憚られる、とても気持ちの良いものではありませんが、そこにしっかり向き合うことなくして成長は無いと思います。


今回具体的に治せなかった患者さんについてのお話と、僕がヤナケンベースat Takarazukaについての想いを以下に書こうと思います 。


※なお今回ここでは良くならなかった患者さんとの関係性やストーリーについて詳しく書いています。
よって理学検査、治療法については詳しく書いていません。理由としてそういうことについて今回この場でアドバイスを求めているわけではないからです。
ご了承ください。



53歳 女性 元乗馬インストラクター 大西洋横断クルーズ(14日間)にて
主訴:右肩関節痛

クルーズの序盤にその方(以下ゲスト)は僕のオフィスへコンサルテーションのため訪れました。

乗馬インストラクターのゲストは、初診日より3ヶ月前に落馬した際、左手の甲を骨折、その時右肩を強打し肩関節周囲炎と診断されました。


さっそく調べてみるとほとんど動かすことが出来ず、熱感は無いが自発痛もありました。

僕はゲストが主訴を訴えてやってきた時に、その主訴が良くなったら何をしたいかというゴールを共有する事にしています。

彼女のゴールは肩の痛みが取れて、また乗馬インストラクターとして仕事復帰することでした。
彼女の話によると乗馬中、右肩の痛みを我慢していると重心がずれ、その事により馬があさってのほうに向かっていってしまい、コントロールが効かないという事でした。


レントゲン、MRIにて石灰沈着、健板断裂もないというので自信をもって治療を勧めました。
肩関節周囲炎なら毎日のように治療しているし、経過も良いことから特に迷いはありませんでした。


1回目の治療後、このクルーズの間、毎日来る事をゲストは即決し、10万円を超える金額を支払いました。



しかし結果から言うと3回目の治療以降、このゲストは来なくなりました。理由は明確で、思った以上の成果を僕が出なかったからです。

定期的に発生してしまう、治せると大風呂敷広げたのにも関わらずこのように発生してしまうこのような「治せなかったゲスト」の存在。

そんな中、大西洋横断クルーズも終盤にさしかかり、僕と同僚3人はゲストの有料レストランでディナーを取ることにしました。


大西洋横断クルーズをヨーロッパに向かって舵を切る時、時差の関係で1日23時間になる上、長時間労働の終日航海日が続きます。


そして治らないゲストが発生してしまったクルーズはどうも気が重く、僕はそのゲストのことが喉にひっかかった魚の骨のように、とても気になっていました。
そんな肉体的にも精神的にも辛いクルーズに、いよいよ終わりが見えてきたタイミングで同僚の1人が自分たちを労る食事会をやろう!と企画、開催してくれました。

僕たちはフォーマルなドレスに身を包み、水平線に沈む夕日を感じながら楽しく食事をしていました。

しかし僕がオーダーしたメインコースのラム肉が届く少し前のタイミングで事件は起こりました。
見覚えのあるゲストと、その旦那さんらしき男性がレストランに現れ、給仕係は彼らを僕たちのテーブルのはす向かいに案内しました。

最初僕は目を疑いました。いくらなんでも3,000人以上が乗船しているこの船で、このクルーズたった1人「治せなかったゲスト」である彼女が、たまたま船内でいくつもあるレストランの一つの、同じ時間にディナーにやってきて、そしてはす向かいに席取るなんて、、

僕の楽観的な観測は見事なまでに期待を裏切られ、そこにいたのは紛れもなく僕が治せなかったゲストでした。

せめて対面で座っている同僚と席が逆であれば、そのゲストに背を向ける形になったのですが、運悪くお互いが常に目を合わせられる席に位置取ってしまいました。


お互い目をあわせられるポジションにいたので、そのゲストも席についてすぐ僕の存在に気づいたと思います。



気まずい。



僕はこの状況に対してどういう態度を取れば良いのが決めかねていました。


とりあえずそのゲストと目を合わせる事なく、一緒にご飯を食べに来た同僚にさえ気づかれないよう、情けない笑顔で会話を続けました。

そして時折ゲストがこちらを見ている雰囲気を僕の右の視界に感じながら、味のしない硬いラム肉とゲストの視線が、僕の顎の筋肉と心を疲弊させていました。

声をかけるべきか。

いやいや、そもそも何て声をかければ良いんだ?

「治せなくてごめんなさい。」

違う。

「肩の具合はどうですか?」

良くないからキャンセルしたんだろうが、アンポンタン。


そんな葛藤を心の中で繰り返しながら、その場を今すぐ逃げ出してしまいたいような気持ちを抑え、なんとか食事を続けました。



そして結果的に僕は彼女に声をかける事は出来ませんでした。

ゲストのテーブルに給仕係がデザートを持ってきたタイミングで僕は上手く同僚を立たせ、レストランを去りました。


僕はあの時ゲストのテーブルに行って謝るべきだったのか。謝るまではしなくても一言かけるべきだったのか。いやゲストの楽しい夕食の時間を邪魔したくなかった。そうやって自分で自分を正論付けてみてもどうもしっくりきませんでした。

本当は自分が怖かっただけじゃないか。
そう僕はただただ「治せなかったゲスト」が同じ状況にいる事が怖かったです。


部屋に帰って消化不良のミディアムレアのラム肉を胃に残したまま、疲れ切った僕は着替えもせず、ネクタイすらほどく気力も無く、ベッドに倒れ込みました。


もうこんなゲストにとっても、自分自身にとっても嫌な思いをしたくない。



悔しい。情けない。鍼が上手くなりたい。




これは具体的な一例ですが、このような経験から治せないゲストが存在する、自分の技術が未術なことは船で働く上で圧倒的にストレスになります。


ゲストは毎週変わります。でも自分は変わりません。自分に嘘をついたりしながら自信のない治療を2万円近くの値段で売り続けないといけないほど、辛いものはありません。




その為にどうやったら色々な知識や意見を幅広く手に入れ、それを実践で活かせるだろうか、、



そんな時たまたま見つけたのが、ヤナケンベースさん!
詳しくはコチラ↓


の存在です。(前置き長っ)
鍼灸師たちが流派や経験年数の垣根を超えて、技術や意見をシェアする。(そして参加したことはないので想像)
これを関西でもやりたいなーと思い立ったのが、今回の始まりです。

講師がいて、その講師から学ぶのでは無く、教える、教わる相互方向の関係性。
時には意見や疑問をぶつけながら、リスペクトを持ってゆるく繋がっていく。
そんな場が今の時代、必要なのではないかと思うのです。

それはまるで営業を終えた美容室に残り、カットの練習をする美容師さんたちのように。

そういう鍼灸のカジュアルな私塾のようなものが今後もっと増えていけば良いなと期待しながら、急ではありますが関西でやってみようと思い立ちましたので、良かったらご参加ください。

学生さんでも参加できます!
美味しいお菓子とお茶を用意してお待ちしております。

また11月末から、僕はまた日本を離れるので個人的に話を聞きたい方も大歓迎です。


日時:10/31(木) 14:00〜終了未定)

場所:宝塚南口駅

費用:千円


参加申し込みはこちらから

オープンチャット「ヤナケンベース」のメンバーを募集しています!一緒にトークしましょう!





ではみなさんVon voyage!


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