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『FLY HIGH』二人の間の約束①

※  本記事はグラビアアイドルの鈴木ふみ奈氏の写真集『FLY HIGH』の内容を物語形式で綴っていきます。この記事は作品解釈であり、全て私の頭の中で作り上げた架空の物語です。読者は実在の人物や現実の世界と混同しないことを願います。写真集を開きながら本記事を読んでいただくと、グラビアの一味違った楽しみ方が堪能できると思います。

※ 本記事で触れる写真は一切掲載しません。代わりにページ数を振っています。




 暑い日差しが降り注ぐ真夏の日常が続く。こんな日には海に行って遊びたい。思いっ切り羽を伸ばしたい。そんな想いは日ごとに強くなってきた。

 20歳の大学3年生になる男はある人からLINEでメールを送ってきた。大学の大先輩からだった。

「今度、タイで演奏会があるんだけど、見に来てみる?」

 送り主である大学の先輩は誰か。それはすごく素敵な女性だ。彼女の名は鈴木ふみ奈。世界的に有名な音楽家である。
 ふみ奈は幼い頃からピアノを弾いて遊ぶのが好きだった。行きつけの音楽教室の講師が彼女の弾きっぷりに目を止め、「あなた、音楽の才能があるかもね。プロの人を紹介してあげようか。」と声を掛けてくれた。実際に、プロの音楽家が彼女の演奏を拝見していた。「これはひょっとして!」とプロは思わず膝を叩いた。

「彼女は数少ない『共感覚』の持ち主なのかもしれない。」

 「共感覚」とは文字に色を感じたり、音に色を感じたり、味や匂いに、色や形を感じたりする知覚現象のことをいう。音や音楽を聴くと同時に脳が色を感じるようになる。脳科学や認知科学における最新の研究では、ドレミファソラシの七つの音と虹の七色がほぼ順番に対応するという法則が明確になっている。「ドは赤、レは黄色」のように音名を聞いて色を答える方が早く反応を示している。なぜこのような結びつきになるのかはまだ解明されていない。
 いずれにせよ、この知覚を持っている人は少ない。新しい感性を持っているふみ奈には独創的な音楽を奏でることができるかもしれないとプロは考えた。色を見ると、音を感じる。音からも色を強く感じる。聞く人々を楽しませることができる可能性を秘めている。プロは決心した。
 共感覚を研ぎ澄ます音楽指導を受けたふみ奈はその才能を遺憾なく発揮した。中学や高校で吹奏楽部に入り、数々の世界的なコンクールで金賞を獲得した。音楽系の大学に進学し、サックスを吹き始めた。演奏ぶりは独特のものであり、サークル内で聴く者たちを圧倒的に魅了させた。サクソフォーンから奏でる音は青色を感じる。青は安らぎや平穏、信頼性を想像できるポジティブな面を持つ。だから、視聴者は彼女の演奏音に心が和むような気持ちにさせてくれる。
 やがて海外の音楽プロダクションからプロ契約のオファーをもらい、ピアノとサックスの二刀流を放つ世界的な音楽家へと躍進を遂げたのだ。

 この日、ふみ奈が連絡を入れたのはタイでの演奏会と島でのリラクゼーションを兼ねての誘いだった。彼女自身は3泊4日の滞在期間となる。


男   「行っていいんですか?」
ふみ奈 「もちろん!それに面白い曲が出来たから、聴きにきてよ!
     絶対に楽しいよ!!」

 スマイルマークを付けてメッセージを送ったふみ奈の言葉を噛みしめた男はしばし熟考した。

「先輩はたぐいまれな才能を持っているし、タイには前から興味があったし。よし!行くか!!」

 男は大学で政治経済を専攻し、東アジア政治や東南アジア諸国の経済や食文化・生活文化について日夜勉学に励んでいる。きっかけは高校生の時。東南アジアの人々が集まる交流フェスティバルを開催する場所が近所にあることをインターネットで知り、参加してみることにした。実際に行ってみて外国人との交流を楽しむうちにだんだんと打ち解けるようになった。

「海外には知られざる文化や風習があるんだ。外国人の中には怖いイメージを持つ人がいるけど、皆は優しく微笑んでくれる。いいな。」

 これが初の異文化体験だった。男は元々食べることが好きだったため、食文化に興味を持っていた。食を通じて外国の人々との懸け橋を作りたいと思い立った男は異文化交流にかかわる仕事に就こうと決心した。そのためには大学に行って政治や経済について深く勉強しようという意欲が湧いた。そう決めた男は猛烈に受験勉強を頑張り、晴れて大学に進学したのだ。
 大学の講義に参加する傍ら、東南アジアの文化交流を楽しむサークルに入った。仲間とともに現地に足を運んで食べ物や生活雑貨を写真で取ったり、外国人との交流をしたり、スポーツをしたりするなど充実した日々を送っていた。
 また、中国や韓国・台湾などの東アジアの国も関心を示していた。旅費を稼ごうと、東京都内の韓国料理店でアルバイトをはじめた。実家に居座ってもらいながら、旅の資金をこつこつと貯めていった。

 鈴木ふみ奈と出会ったのは大学での学園祭だった。ふみ奈はこの大学のOBである。学内の掲示板で音楽サークルが主催する演奏会で特別ゲストとして招待するという話を知った。以前から彼女の目覚ましい活躍を知っていた男は「これは見なきゃ損だ!」と興奮しながらその場で決めた。即断即決だった。
 学園祭当日、時間を見て自身の所属サークルから抜け出し、音楽サークル主催の演奏会に参加した。丁度、司会は鈴木ふみ奈が登場するところを紹介する時間だ。絶好のタイミングだった。

司会  「それでは、世界的なピアニストでありサックス奏者であります、
     鈴木ふみ奈さんです!どうぞ!!」
ふみ奈 「みなさーん!こんにちは!!」
会場  「こんにちはー!!」
司会  「今日はお忙しい中、演奏会に来ていただきまして
     ありがとうございます!」
ふみ奈 「いえ、こちらこそ!母校はやっぱりいいですね!みんな、
     元気溌剌としてていい。素敵な時間になりそう。」
司会  「こちらも楽しみです。今回はどんな曲を披露してくれますか。」
ふみ奈 「そうね。今度の曲は絶対に聞き惚れちゃうくらい、素敵な
     メロディーに仕上がってます!みんな、うっとりするかも!」
司会  「それはいいですね。会場の皆さんも聴きたいですかー!」
会場  「イエーイ!」
司会  「ですって!」
ふみ奈 「あはは(笑)!嬉しい!では、さっそく始めましょうか。」
司会  「いや、演奏も楽しみですけど、ふみ奈さんの衣装はまた華やか
     ですね~。」
ふみ奈 「そうなんです!今日はコバルトブルーのドレスを着てきました。
     しっとりとした時間を過ごせるかなと思って。」
司会  「是非、しっとりとした気分にさせちゃってください!」
ふみ奈 「うふふ!よし、みんなを幸せな気持ちにしましょう!」
司会  「はい!では、始めていきましょう!!この曲をお届けします。
     どうぞ。」

 ふみ奈の演奏が始まった。コバルトブルーの衣装に身を包み、グランドピアノを流れるように弾く姿を観た男は本当にしっとりとした気分になった。

「音が美しい…」

 聴く者を和やかにするようなメロディ。男は幸先のいいスタートだと思った。今度はサックスで演奏することになる。

司会  「続きまして、サックスでこの曲を演奏いたします。どうぞ。」

 これまたピアノとは打って変わっての心地よき演奏だ。男は思わずジーンとなった。

 こうして演奏会は無事に終了した。会場は和やかなムードに包まれた。そんな中、男は勇気を振り絞って、ふみ奈のもとへ向かった。


 ふみ奈  「あ、今日はありがとう!どうだった?」
 男    「ええ、楽しかったです。」
 ふみ奈  「そう、よかった。みんな笑顔になったから、
       来てよかった!!」
 男    「あの・・・ お願いがあるのですが。」
 ふみ奈  「ん? 何?」
 男    「僕とメル友になってくれませんか?あなたの曲を聞いて感動 
       しました。もっと、あなたの音楽を間近で聞きたいです。近
       くで演奏会があったら、僕に教えてくれませんか。」
 ふみ奈  「そうね・・・。そんなに私の音楽が好きなら、いいよ。
       でも、私は結構スケジュールがぎっしりなの。明日には
       ロンドンに行くし。3日後にはベルギーでコンサートを行う
       予定だし。1週間後にはイタリアのフィレンツェで音楽祭に
       参加するの。お仕事がたくさんあるから、連絡はまれにしか
       できないの。それでもいい?」
 男    「構いません。」
 ふみ奈  「わかった。じゃあ、交換しましょう。」
 男    「あ、ありがとうございます。因みに僕は大学で東南アジアに
       ついて学んでいるんですけど、それらの国で演奏する予定が
       ありますか。」
 ふみ奈  「そんなに頻繫にないけど、あることはあるよ。どうして。」
 男    「将来、食文化を広める仕事をしたいので現地に訪れてみたい
       んです。」
 ふみ奈  「ひとりで行くことはできるんじゃない?」
 男    「いや、なかなか行く機会がなくてですね。それに先輩は
       海外経験が豊富だから、僕の知らない世界について色んなこ
       とを存じ上げていると思うし。それから、あなたという人間
       に興味があるんです。」

 男は大胆なことを言った。随分勇気のいることだ。

ふみ奈 「何それ!不思議な人!!まあ、わかったわ。演奏する機会があっ
     たら連絡するね。」
 男  「ありがとうございます。」

 こうして男はふみ奈とのメル友になった。この時は大学1年生の終わり頃だった。1年半後、大学3年生になった男は東アジア政治の講義を受けていた。カンボジア、タイ、インドネシア、ベトナムなどの国の事情についてディスカッションを行ったり、担当講師に質問したりしつつ、学問的知見を少しずつ養ってきた。
 男は大学を卒業したら、貿易商社か外国産の食品メーカーに就職し、営業職を務めてみたいと考えていた。食文化ビジネスを広めたいという想いは高校生の時から持ち続けていた。そんな希望を持ちつつも、日々勉強に励んでいた。そんな日々を送るうちに飛び込んできたのが先輩の鈴木ふみ奈からのメールだった。さっそく衣服などの荷物をまとめた。旅行券の予約も済んだ。アルバイトで貯めておいた旅費も用意した。すべてのものをバックパックに詰め込み、準備は万端だ。ANAのチケットを手に、タイへと渡った。

 こうして、男の3泊4日のタイ旅行が始まった。それがふみ奈との甘い時間になるかもしれないということをタイに到着するまで知らずにいた。


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 タイに到着した男はこじんまりとした街中のホテルに行き、係員に荷物を預けた。たどたどしいタイ語で喋ったが、現地のタイ人のフロント係はたまたま英語が話せたのだ。「Can I help you? I can speak English, because I studied abroad in America. So, don't be shy.」と答えた。男は英語もままならなかったが、「会話程度なら学校や英会話スクールで経験を重ねてきたから大丈夫!」と言い聞かせ、自信をもって話した。なんとか通じて、ホテルに荷物を置いて身軽な状態でふみ奈が参加する演奏会に参加した。会場でも英語ができる係がいた。男はほっと胸をなでおろす。会場は穏やかな雰囲気に包まれた。

ふみ奈 Okay! Everyone!! Ladies and Gentleman! Boys and girls! Thank you
    for coming my concert. I would like to enjoy my perfomance by
    piano and saxophone. All of the people deserve the chance to feel
    full of happiness. Please enjoy my show. Thank you and have a great
    evening, everyone!

「英語、うま!」

 男は驚天動地の瞬間を目の当たりにした。ふみ奈の英語は音声でタイ語に翻訳したので現地の方々は納得しながら聞いていた。さすがは世界の音楽家である。「我ながら、あっぱれ!」と思った。
 そして、演奏の時間を迎えた。やはり、彼女の音楽は心がうっとりするほどのメロディだった。心地よき音色に癒され、まさに至福の時間だ。会場に足を運んだ現地のタイ人も満面の笑みを浮かべた。大成功だ。

 演奏会が終わり、男はふみ奈のもとへ行き、話してみることにした。

男    「今日はありがとうございました。とても楽しいひと時を過ごす
      ことができました。感謝します。」
ふみ奈  「あ、来てくれたの!?ありがとう!こちらこそ、
      楽しんでいただけたかな?」
男    「はい。うっとりでした。」
ふみ奈  「そう。よかった。ところで、君はこの後、暇?」
男    「そうですね。明日は観光しようかな、と。」
ふみ奈  「今回は私も完全なオフの日を入れたの。コンサート続きだから
      疲れちゃうの。だから、演奏日も兼ねて3泊4日過ごすつも
      り。だから、君、一緒に砂浜のビーチに行かない?」
男    「ビーチですか!?」
ふみ奈  「うん、海に行ってたっぷり羽を伸ばしたいんだ。君は私のこと
      が気になるんでしょ。少しの間だけ付き合ってあげる。」
男    「ええっ!」

 突然の出来事だ。彼女との二人きりの”デート”になるとは思いも寄らず。男は20年間彼女を持ったことがない。恋愛には臆病なほうだ。交際経験はない。「先輩であるふみ奈は大人の女性だ。僕のような若造でいいのだろうか。」と男は悟った。だが、「でも、どのみち恋愛するわけじゃない。今の僕は自分の夢を叶えることだけに専念している。」と理性を保とうとした。タイには海があるから、水着はあらかじめ用意していた。観光もそうだが、海で遊ぶ予定も入れていた。

男 「わかりました。」

 男は素直に返事をした。
 翌日、晴れ晴れとした天気はまさに絶好の海水浴びよりだ。男はホテルを出て港へ向かった。フェリー船を利用して、とある離島に辿りついた。この島には中心街から少し離れたところにある。島の中は自然植物であふれ、動物が出てこないかと半ば心配になった。砂場に着いた男は誰もこないことを確かめて、木陰ですぐさま水着に着替えた。砂浜で待っていたところ、ふみ奈は水着姿でやってきた。

p. 5

ふみ奈 「どう、海と同じようにライトグリーンのものを着てみたの。似合ってる?」

 男はただ頷くだけだった。彼女の姿を見て「なんて豊満な肉体美の持ち主なんだ。」と心の中でつぶやいた。音楽家とて体力勝負の側面がある。タイトなスケジュールをやりくりするのだから、心身に疲労が重なってしまえば演奏することすらできない。休養は大切なことだ。
 その後、先輩のふみ奈と男は真夏の日差しが照りつける中、穏やかな海を遊泳しながら蓄積した疲労を取り除こうとした。

p. 7

 透き通ったライトグリーンの色の海に覆われながらも白い砂浜にたった一人で歩く鈴木ふみ奈の姿を見た男は有名音楽家とは違う一面に出くわし、心底感心していた。「美しい光景に一人の美麗な女性と、真夏の休日を満喫できるなんてゆめゆめ思わなかった。」と正直な心を示した一方、「めっちゃはずい!」と半ば恥ずかし気な表情を浮かべた。

p. 8

p. 9

Will you want to play with me?

 ふみ奈は突然、英語で男に話しかけた。

Yes…

 男は気恥ずかしそうに返事をした。

p. 10

p. 11

 ふみ奈に水を吹っ掛けられた男は彼女に吹っ掛け返した。

「くそ、やったな!」

 もう年の差なんでどうでもいい。この幸せな時間を堪能したい。抑えきれない欲が出てきた。

p. 13

p. 14 - 15

 白の砂にべっとりとついたふみ奈の素敵な笑顔はまるで自由を謳歌しているようなものだった。有名になればなるほど多忙を極める音楽家の仕事は想像に難くない。たとえ才能あふれる人であっても、人間であることに変わらない。人間でさえ休みがほしいと思うのは当然の権利だ。だから、休むことの大切さは超一流の経営者であれ、大物芸能人であれ、身に染みている。

p. 16

p. 17

 青空に向かってFLY HIGH(高く飛翔)するふみ奈はたっぷりと日差しを浴びていた。コバルトブルーの海に入り、冷たい水温にやや武者震いをしながらも心の滋養に努めるふみ奈の姿を見た男も遊泳を楽しむことにした。


つづく



<参考文献>

鈴木ふみ奈 写真集 『FLY HIGH』玄光社 2024

<参照サイト>

academist journal 『「ドレミファソラシ」は虹の七色? – 音を聞くと色を感じる現象に迫る』
産経新聞 書評『ドレミファソラシは虹の七色? 知られざる「共感覚」の世界』伊藤浩介著 神秘的な感覚を読み解く


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ハリス・ポーター
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