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僕とお父さん


サッカーが好きだ


僕とお父さん。

僕のお父さんはサッカーが好きだ。

仕事を終えて家に帰ると、決まった日にサッカーの試合を見るのだ。
これが日々のストレスを発散することなのだ。

どんな試合を見るのか。
僕のお父さんは最初、Jリーグの試合をテレビで観ていた。
でも、日本人のプレーヤーが弱いと言って、世界のサッカーリーグの試合に変えた。
英国のプレミアリーグをメインに、世界中のサッカー選手のプレイング・センスやハットトリックを観て、楽しんでいたのだ。

もちろん、僕のお父さんはFIFAワールドカップも、ちゃんと観ている。
日本人選手を見捨てたりしない。日本人選手にはもっと強くなってほしいとずっと願っているのだ。

日本人選手が世界中のサッカーチームに移籍して、世界中の優れたサッカー選手たちを相手に競い合う姿を見ては「おお!素晴らしい!!」と感慨にふけっていたのだ。

僕のお父さんはこの間のFIFAワールドカップ2022のカタール大会をばっちりテレビで観戦していた。
チーム内の「最年長のサッカーおじさん」であった長友佑都選手をはじめ、浅野拓磨、吉田麻也、酒井宏樹、遠藤航といった各メンバーの選手たちの奮闘ぶりを観て、シビレちゃったのだ。
結局、決勝トーナメント前のラウンド16でクロアチアに負けちゃったけど、これまでにないくらい日本のプレイング・センスが格段に上がっているのだ。

「日本の選手も捨てたもんじゃない。森保監督のリーダーシップも素晴らしい!」
僕のお父さんは嬉しくて感極まったのだ。

僕のお父さんはサッカーが好きだ。

僕のお父さんはテレビでサッカーの試合を観る時、いつも叫んでいるのだ。
選手のプレーを観る時、大事なチャンスの場面で「シュートしろ!」と言って、ゴールポストから外れると、「何やってんだ!ボケやろう!!」と叫ぶのだ。長友佑都選手の走りを観て、「長友ー!走れ、走れってんだ!そこだ!そこだ、シュートしろ!」と言うのだ。わずかのゴールポストのクロス・バーにはじかれると、「うわあああ、惜しい~~!外すかよ~、バ~カ~!!」と悔しがるのだ。
逆に、遠藤保仁選手のフリーキックが決まると、「素晴らしい・・・!いいねえ、いいシュートだね!!」と喜ぶのだ。
僕はそれを見て、「この扱いの差はなんだろう?」と思った。

また、僕のお父さんは松木安太郎さんの熱い解説が入ると、
「うるせえ!松木は引っ込んでろ!!」と叫ぶのだ。
確かにうるさい。
情熱を伝えたいのは分かるけど。

僕のお父さんはサッカーが好きだ。

僕のお父さんの好きなサッカー選手は特にいない。
だけど、50代を過ぎても現役でピッチに立ち続ける三浦知良選手には頭が下がるばかりだ。並々ならぬ体力と抜かりないコンディションづくりがずっとピッチに立てる秘訣なのだ。そして、何よりサッカーを愛しているからだ。
僕のお父さんもサッカーを愛しているから、元気が出るのだ。

僕のお父さんは若い選手にも頑張ってほしいと願っている。
若い選手の技術力のアップと結束力は世界でも類を見ないと思っているのだ。
だから、僕のお父さんは「若武者よ、頑張れ!」と応援しているのだ。

僕は「うんうん。」とうなずくだけだ。


鉄道が好きだ


僕とお父さん。

僕のお父さんは鉄道が好きだ。

僕のお父さんは撮り鉄だ。
毎年、家族旅行になると利用先の鉄道の写真を必ず撮るのだ。
何系がいいとか、何のデザインがいいとか、そんなことは関係ない。
ただ鉄道そのものが好きなのだ。ローカル鉄道は珍しい車体が多いから、記念に撮りたくなるのだ。

今は人口がどんどん減って、利用者が減って、次々と廃線する列車が後を絶たない。僕のお父さんは「寂しい。」と言っていた。
でも、時代の潮流だから仕方がない。
せめて思い出としての写真を残そう。
僕のお父さんは生きているうちにローカル鉄道を写真に収めたいのだ。

僕のお父さんは鉄道が好きだ。

僕のお父さんは今ではInstagramを利用して、鉄道写真を見るのが日課だ。
発信はしない。けど、それが楽しいのだ。
それだけではない。鉄道のほかにおいしい駅弁の写真を探しているのだ。
おいしい駅弁を見つける度に「ご当地もの、うまそう。行ってみたいな。」と考え、家族と話して旅行先を決めるのだ。

ああ、それで決まっていたのか。
僕のお父さんって花より団子だな。

僕のお父さんは他にも、御朱印を集めているのだ。
御朱印を目的に色々な神社を巡りたい。そんな思いでゴールデンウイークなどの長期休みを利用して、家族と一緒に旅行の計画を立てるのだ。
もちろん、鉄道もよく使っていく。

僕のお父さんはある神社で黄金の御朱印を目にした時、
「おお、まぶしい!欲しいなあ。」と思うのだ。
でも、「値段が高いからいいや。」と諦めるのだ。

ああ、もったいないな。
人生の黄金期がやってくるかもしれないのに…。


「ブラタモリ」が好きだ


僕とお父さん。

僕のお父さんは「ブラタモリ」が好きだ。

ブラタモリとは、タレントの森田一義さんが出演する地理をテーマとする教養番組だ。

タモリさんは地形や鉄道に造詣が深い。

だから、僕のお父さんは日本の地理と鉄道に関する深い知識に感銘を受けているのだ。

僕のお父さんは毎週必ずNHK総合の『ブラタモリ』を観ている。

そう。大学入試の出題テーマに出たことがある『ブラタモリ』だ。

地形の謎を解いていくタモリさんの推理に「おお!いいね!」とうなるのだ。

僕のお父さんも興味津々なのだ。

自分の住んでいる街の歴史、他の地域の場所にまつわる地層、ローカル鉄道との深い関係など色んなことをこの番組で教えてくれるのだ。

僕のお父さんは「ふむふむ。なるほど。実に深い話だよなあ。」とただただ感心するばかりだ。

僕はお父さんに「行ってみたいの?」と聞いた。僕のお父さんは「いや、いい。」と言った。
「なんで?」と聞いたら、僕のお父さんは「面倒くさい。」と答えた。

なんじゃそりゃ!(笑)

僕のお父さんは「ブラタモリ」が好きだ。

僕のお父さんはブラタモリの中で「秩父・長瀞スペシャル」が好きだ。

秩父の武甲山は確か石灰石で出来ているという話だ。やがて何千年の時を経て、地層が盛り上がっていき、今の山になった。それ以上は忘れた。

僕のお父さんは武甲山の成り立ちと地形に囲まれた秩父の街の姿を見て、「へえ~~!そうなんだ!!」とうなずくばかりだ。

今となれば、僕のお父さんは登ってみたいと思っても、そこまでの体力と気力もないのだ。山で遭難してしまったら困るからだ。

ああ、そうなん(遭難)だ。

タモリさんを見るだけで十分なんだな。


妻が好きだ


僕とお父さん。

僕のお父さんは妻が好きだ。

妻とはつまり、僕のお母さん。
僕のお父さんは僕のお母さんが好きだ。

これまでも夫婦そろって生活を共にしてきた。
僕のお父さんは色々と苦難があったけど、なんとかやってこれたのだ。

僕のお父さんが仕事先から遅く帰って疲れている状態を、僕のお母さんは「ホームドクター」のように気を使っていたのだ。

僕のお母さんは照れ臭くて言わないけど。

そして、還暦を過ぎてから僕のお父さんはこう言った。

人生の曲折を経て、私は身の丈の豊かさによって叶えられる
平穏な生活があることを発見したのである。

この文言、どこかで目にしたような。

そう。政治学者の姜尚中さんの『生きるコツ』の帯の表紙に書いてあったメッセージなのだ。

姜尚中さんも奥様に色々と支えられ、奥様も「ホームドクター」として気を使っていた。
きっと姜尚中さんも「ああ、結婚してよかった。」と思うにちがいない。

僕のお父さんも同じように「ああ、結婚してよかった。」と思うにちがいない。

僕は… 返す言葉がなかった。


そんなお父さんでも、僕にとっては大切な家族なのだ。


おしまい



■ 読書案内

「現役を辞める時は、死ぬかも。」キングカズの競技人生の軌跡。

NHK製作班が番組の内容を書籍化。彩りみどりの地形解説書。

前例のない長い老後をどう生き抜くか。「老い」の意味と可能性を説く。


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ハリス・ポーター
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