特訓
人と関わろうとせず、いつまでも家にこもってゲームばかりする私に、父はとうとう痺れを切らした。私をカナダの学校の校庭に連れ出したのだ。
そして、突然二人だけのキャッチボールが始まった。
「お前の無気力にはウンザリだ。その根性を叩き直してやる!」
漫画『巨人の星』に登場する星一徹と星飛雄馬が行う野球の英才教育のシーンを再現しているかのように、父から強い心を鍛錬させる指導を受けていた。
父から投げ込んできた球をミットで受け止める特訓が始まり、嘆きながらも、喚きながらも、ボールを受け取るのに必死だった。
「火の玉ストレート」の異名を持つ元プロ野球選手の藤川球児投手のような強面をしながら、父の興奮が覚めることはなかった。
「10球受け取るまで、家には帰さない!!」
怖いものだ。それでも、無気力状態から脱することはありえない。
幼少期の「恐怖体験」により、自ら人間関係を遮断した。
その時以来、心はずっとしぼんでいた。日本での学校生活でおこした常軌を逸した問題行動も数知れず。友人からの陰湿ないじめを受けてきた。
そんな嫌な経験をしてきたから、和気あいあいと人と関わって外で元気に遊ぶことなどできるはずがなかろう。
表向きでは明るく無邪気に振る舞っていても、内心では鬱々とした状態だ。他人との関わることすら面倒に感じる。ならば家でゲームをしていたほうが気楽に済むのではないか。
私は父との特訓から「もう逃げたい・・・。」という気持ちが強くなっていった。心の中の世界に閉じこもり、自分を守ることが精一杯だった。
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