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「バカ本」セレクション ⑤『他人をバカにしたがる男たち』


 最後は、健康社会学者の河合薫氏の『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)である。

 河合氏は健康社会学の視点から、日本の職場に蔓延る「ジジイ化現象」にメスを入れている。日本の上位に属する男性社員の上から目線の構造に真っ向から批判している。まず「ジジイ」の定義についての説明だ。


< 「ジジイ」とは「自分の保身のため」だけを考えている人。組織内で権力を持ち、その権力を組織のためではなく「自分のため」につき、自己の正当化に長けている人物です。>

河合薫『他人をバカにしたがる男たち』日経プレミアシリーズ p.4

 つまり、ジジイたちは会社にしがみついて既得権益を手放さない人たちを指す。そして、学歴・属性・肩書で人を判断するのだ。これは女性に当てはまるという。河合氏が紹介する例はどれも酷いものばかりだ。大手金融機関の人事部に所属する女性社員のミサさん(40代)が同僚に悩まされている例を示し、次のような会話の内容を述べる。

< ミサ「朝、新聞を取るのに下まで降りていったら、コンシェルジュの女
     性を大声で怒鳴っている男性がいまして。よく見たらうちの会社
     の人だったんです。あわてて気付かれないように、壁に張り付き
     ました(笑)」
 カワイ「そりゃ、驚きますね。上司ですか?」
 ミサ 「いいえ。年は4つ上。役職は支店長です。」
 カワイ「支店長さんがマンションで大声上げてたら、あまりよろしくない
     ですね。お客さんが住んでるかもしれないですし・・・・・・」
 ミサ 「そうでしょ?そうなんですよ!私のほうがハラハラしちゃいまし
     た。しかし、怒鳴ってる内容が、『遅い』だの『手際が悪い』だ
     の、しょーもないことで。コンシェルジュの方に失礼ですよ
     ね。」
 カワイ「会社でも部下を怒鳴りつけたり、偉そうにしてるんですか?」
 ミサ 「ま~ったく!会社ではどちらかというと穏やかで、ハラハラのウ
     ワサもありません。・・・・・でも、意外とうちの会社って、外
     に出た途端”感じ悪い星人”になっちゃう人、多いんですよね~
     (笑)」
 カワイ「キレる中高年ってヤツですか?」
 ミサ 「キレるってほどでもない。見下してるっていうか、バカにしてる
     っていうか。こないだ上司と一緒にタクシーに乗ったときも、あ
     まりの上から目線で驚きました。もう少し丁寧に話せばいいの
     に、ものすごく高圧的。反論してこない人に、暴言を吐くんで  
     す。そういうタイプって、決まって社内的に”残念な人”なんです
     よ。世間的にはエリートだけど、社内的にはそこそこ。『オッサ
     ン、がんばれ!』って、こっそり突つきたくなるタイプですね
    (爆笑)」
 カワイ「『オッサンがんばれ』って、言ってあげればいいじゃないです
     か?(苦笑)」
 ミサ 「そんなことしたら、私が干されます。ただでさえ、ワタクシごと
     きが”人事部”に属してることに、嫌悪感抱いている人多いのに。
     絶対に言えません。男の嫉妬は恐いですよ~。ネットで匿名でせ
     こせこディスってそうだし・・・・・・。まぁ、要するにストレ
     スが溜まってるんですよね。残念な中間管理職は、職場でも、家
     庭でも、大変ですから。お気の毒ですわ~」>

前掲書 p.31-32

 この会話から読み取れることは、中間管理職に属する中高年が地位の低い年下の部下を罵って、「俺は会社の中で偉い!」と上から目線でものをいう姿がわかる。そして、「自分が一番正しい!」という意思を見せ、他人をバカにする言動が目立つのだ。これが「ジジイ」の壁となっている。このような硬直した職場環境では、自分の意見を言いづらい雰囲気になり、窮屈な組織となるであろう。労働者も知らず知らずのうちに職場の空気に飲み込まれてしまう。

 他人をバカにする男は世間の目からすれば、昭和的価値観に固執する『老害』の部類に入る。老害は誰にでも起こる現象だ。河合氏は脳科学の視点から老害についてこう解説する。

< 脳科学では老害を「脳の老化現象」と「脳の快感」から説明することが可能です。当たり前のことですが、年を取れば脳も老います。どんな元気な人でも避けて通ることはできない、人間の定めです。
 老いた脳はすぐ忘れ、物事のプライオリティを決める能力が低下し、相手の身になって話す力も低下します。また、脳の老化は得意分野以外の部分から進むため、過去の栄光は最後まで残り続けます。「オレって、こんなにすごかったんだぜ!」と過去の栄光をつい口走ってしまうのは、いわば脳が老化している証拠なのです。>

前掲書 p.56-57

 過去の栄光や実績にこだわり続け、部下のやり方にはケチをつける。このような中間管理職を目にしたら、「老害」だ。

 では、「老害化(ジジイ化)」しないためにはどうすればよいか。詳しくは本書に譲るが、SOC (Sense Of Coherence)を伸ばすことだという。平たくいうと、「人生のつじつまを合わせ、困難をやる気に変える力」だ。SOCが十分に高い人は職場の成果による満足感や人生の幸福感が高い。健康状態も良好で、常にやる気に満ち溢れている。現役バリバリで働いている有名人や著名人のSOCの高さが伺える例が紹介されている。

 本書を読めば、SOCを高めるためのヒントを得ることができるだろう。


<参考文献>


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