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僕とおじさん
寅さんが好きだ
僕とおじさん。
僕のおじさんは寅さんが好きだ。
休日になると、映画『男はつらいよ』をまるまる一本観て過ごすのだ。
僕のおじさんは車寅次郎という男が大好きだ。
四角くて、さつま揚げのような顔。濃ゆいまゆ毛で、どこか憎めない。
とんがりのフェルト帽に、ダブルの背広。
毛糸の腹巻きに、水色のダボシャツ。
革のトランクを持ち、雪駄でどこでも歩く。
北は北海道、南は九州・沖縄。
人と会う時、「よっ!」と気さくなあいさつ。
僕のおじさんは寅さんの人柄が何よりも好きだ。
マネしたくてもできない。でも、口上はマネできるのだ。
私 生まれも育ちも葛飾柴又。帝釈天で産湯をつかい
性は車 名は寅次郎
人呼んで フーテンの寅と発します。(中略)
以後見苦しき面体お見知りおかれまして、恐惶万端引き立って、よろしくお頼み申します。
僕のおじさんならマネして街中で披露するのだ。
その時、僕は思った。
ああ、見苦しき醜態をさらしたのだった…
僕のおじさんは寅さんが好きだ。
寅さんは旅先で恋に落ちてはフラれ、恋に落ちてはフラれの連続だ。
僕のおじさんはそのシーンを観る度にガハハハッと笑うのだ。
そして、寅さんは甥の光男君に向かって、
「光男。お前はな、一生懸命勉強して、立派な社会人になるんだぞ。オレみたいなヤクザな兄貴になっちゃ、お天道様も悲しむんだぜ。」
と励ますのだ。
僕のおじさんはそのシーンを観る度に涙がジーンとこみ上げてくるのだ。
ああ、そうだったんだな。
僕のおじさんはモテないから、きっと寂しいのかもしれないんだな。
北海道が好きだ
僕とおじさん。
僕のおじさんは北海道が好きだ。
年に数回くらい北海道へ旅立つのだ。
行き先は教えてくれるけど、何をするかは教えてくれない。
風の向くまま、気の向くまま、ゆったりと行くのだ。
ラーメンなどのグルメを食べる。観光名所を訪れる。宿の天然露天風呂に浸かって疲れを取り除く。
気の向くままに楽しむのだ。
僕のおじさんは北海道が好きだ。
富良野に行った時、ふらふらと歩いてラベンダー畑に囲まれて、心を癒すのだ。
そして、空の下で財津和夫さんの『サボテンの花』を歌い出すのだ。
僕のおじさんは歌詞の一部を変えて歌った。
君が育てたサボテンは 小さな花をつくった ♬
春はもうすぐそこまで ♬
僕の恋は 終わった… ♬
ああ、終わったな。
帰宅後、僕のおじさんはお土産にレーズンバターサンドと『白い恋人』のホワイトチョコサンドクッキーを買ってきてくれるのだ。
そして、僕のおじさんは満面の笑みでつぶやいた。
「おいしい、おいしい!北海道はおいしいのう!」
ああ、そうだな。
おいしい思い出づくりだったな。
「バカ」という言葉が好きだ
僕とおじさん。
僕のおじさんは「バカ」という言葉が好きだ。
気に食わないことがあると「バカ!」と怒って言ったり、
僕が気を遣ったことを言うと「バカ。遠慮すんな。」と、かわいく言ったりするのだ。
僕のおじさんは「バカ」という言葉が大好きだ。
「何やってんだ、バカ!」とか「そんなこともわかんねえのか、バ~カ!」とか「遅せーな、何グダグダしてんだ、バカ!」とか、いちいちシャクにさわることを言うのだ。
僕のおじさんは「世界はバカになった。日本もバカになった。みんなまとめてバカになった。」と言うのだ。
キートン山田さんは「あんたが言うな!!(怒)」と、一蹴するにちがいない。
僕は… 返す言葉がなかった。
「そういうおじさんはどうなの?」と聞いてみた。
僕のおじさんは「オラもバカだ。」と、
ひょっとこ(火男)の顔で答えた。
なんじゃそりゃ。(笑)
僕のおじさんは「バカ」という言葉が好きだ。
僕のおじさんは書店に足を運んだり、ネットショップで見つける度に
「バカ」というタイトルの付いた本に目がいくのだ。
養老孟司『バカの壁』『超バカの壁』『バカのものさし』『まともバカ』
ビートたけし『バカ論』『コロナとバカ』
池田清彦『正直者はバカを見る』『自粛バカ』『バカの災厄』『平等バカ』
勢古浩爾『定年バカ』『続 定年バカ』『バカ老人どもよ!』
中川淳一郎『ネットのバカ』『バカざんまい』「炎上するバカ させるバカ』
適菜収『バカを治す』『ナショナリズムを理解できないバカ』『平成を愚民の時代にした30人のバカ』『それでもバカとは戦え』
橋本治『そして、みんなバカになった』
綿野恵太『みんな政治でバカになる』
和田秀樹『前頭葉バカ社会』『バカとは何か』
川村二郎『学はあってもバカはバカ』
豊田有恒『東大出てもバカはバカ』
林家木久扇『バカのすすめ』(後に『バカの遺言』と改題し、新書化)
大村大次郎『消費税を払う奴はバカ!』『相続税を払う奴はバカ!』
ジャン=フランソワ・マルミオン『「バカ」の研究』
などなど…
これらのタイトルの本を見ると、
思わず胸がキュンキュンしてしまうのだ。
(念のために言っておきますが、これらの本の内容は真剣な内容で書かれています。僕のおじさんはこれらの本を読んで、しっかりと思考力を鍛錬しています。決して人を罵倒するためのものではありません。)
僕のおじさんはきっと世界の中心で
「バカ」と叫ぶのだろう。
友達を三人呼んで世界の中心でオペラ歌手のように歌うのだ。
バス : バカ~ ♬
アルト(おじさん): バカ~ ♬
テノール : バカ~ ♬
ソプラノ : バカ~ ♬
四人 : せーの、バ~カ~ ♬
そうしたら、世界中の人々は
「あんたらが言うな!!(怒)」と、みんなまとめて一蹴するのだ。
キートン山田さんも「その通り。」と言うにちがいない。
僕は… 返す言葉がなかった。
戻ったら、僕のおじさんは僕のおばさんに
「バカ!お兄ちゃんのバカ!!」と𠮟られた。
そして、僕のおじさんはこう言った。
わたくし、故郷に帰ります日には
思い起こすだに恥ずかしきことの数々、
今はただ、後悔と反省の日々を
過ごしておりますれば、
お千代坊にもご放念下されたく、
恐惶万端ひれ伏して、
御願い申し上げます。
とうとうと反省の念を込めた言葉を述べたのだ。
また、寅さんに戻ったのだ。
僕は… 返す言葉がなかった。
そんなおじさんでも、僕にとっては大切な家族なのだ。
おしまい
■ 読書案内
寅さんと映画『男はつらいよ』の全貌を知りたい方への入門書。
農産物の宝庫として知られる北海道のグルメにまつわるエッセイ。
世の中は「バカの壁」が立ちはだかる。それを知れば、自ずと世界の見方が変わる画期的論考。
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