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Fランク大学は必要か

 このところ、SNS上のやり取りで「Fランク」に規定される大学の存在価値はないと決めつけ、廃止すべきだという議論が喧しい。はたして、そうすべきなのか。

 結論から言うと、Fランク大学は必要である。なぜなら、地域産業の担い手の育成と地場産業の継承に「人財」が不可欠だからだ。

 かく言う私もそれまでFランク大学などの低レベルの教育機関は不要だと考えていた。人口減少と経済縮小という現実から目を逸らすことができないからだ。国の財政破綻を加速させるくらいなら、低劣な教育機関を残存しても意味がない。そこで学んだ若手の人達は企業から見向きもされない。不幸なことだ。大学の数は多すぎる。数十校にまで削減し、浮いた資金を子育てや教育費の支援金として適用すればよいと思っていた。

 しかし、私は考えを改めることにした。理由はある本を読んだからである。保守業界で長らく身を置いた「対話型穏健保守」として知られる作家の古谷経衡氏とロシア外交に尽力を注いできた元外交官で作家の佐藤優氏の『日本人の7割が知らない 世界のミカタ』(時事通信社)を読むと、二人の対話から重要な示唆を提供している。

 佐藤氏は国立大学法人の値上げ問題とFランク大学の経営課題について古谷氏からの質問に答えつつ、自身の考えを述べている。

< 古谷 先生には大学教育について少し突っ込んでお伺いしたいと思います。最近では国立大学法人の学費値上げについても検討されています。賛否がありますが、こちらはどう思いますか。
    佐藤 今の制度なら値上げすべきだと思います。経済的に厳しい家庭出身者は個別に支援すればいいと思います。あるいは抜本的に制度を改めて完全無償化することです。ただし、高等教育の内容を習得できない者は卒業させない。大学生がアルバイトをしている余裕がなくなります。
 今、高校進学率98.7%、大学進学率は57.7%(文部科学省「令和5年度学校基本調査」)。今後、一部の大学が事実上の専門学校化してくるかもしれません。
    古谷 いわゆるFランク大学は全部なくせという議論もありますが。要するに日本には特に、誰でも入ることができるような零細の私立大学が多過ぎると。そのせいで全体の大学教育のレベルが下がっているんだと。そういう論調ですけど。
    佐藤 地方の誰でも入れるような私立大学はとても重要です。地場の産業の労働者を養成するのは、こういう大学だからです。
    古谷 確かに地元志向ですよね。規模が小さいところが多いですから。
    佐藤 そこに大学という名前を付与していますけど、米国ならコミュニティカレッジに相当します。高校までの勉強に取りこぼしがあるから、そこで中等教育までの力を付けて、社会に出てから電卓を打ったり、マニュアルを読んだりできる労働者を育てる。だから、Fラン大、B-F(ボーダーフリー)大学はすごく重要な役割を果たしている。あそこで中学までの教育を着実にやり直すことによって、地場の経済が回っているんです。
   古谷 Fランク大学の講義で、分数や割り算の授業がなされていることが問題視され、文科省などが大学教育にふさわしくないと言及したことに共感する向きもあります。私は別に良いと思っていますが。基礎的な学習内容を忘れることはティーンの時にはよくある話ですので。>

古谷経衡・佐藤優『日本人の7割が知らない 世界のミカタ』時事通信社 p.99-100


 このやり取りは非常に重要な視点だと感じた。「Fランク大学」と呼ばれる教育機関は存続すべきであるものの、教育内容を抜本的に変えなくてはならないのだろう。これまでの教育の在り方はVUCA時代に通用しない。ビジネスに役立つ能力を開発するプログラムを組むようになる。高校までの基礎知識に欠損があるのであれば、学び直しとして中等教育・高等教育レベルの数学力を身につける必要がある。数字に強くなければ、企業経営の状態を把握することができないからだ。

 地方の産業に「人財」を送り込むことで地域経済を活性化させる金字塔的存在となれることに期待を寄せている。それだから、大学教育機関にてビジネススキルを習得できる学習環境を整備する。よって、地方企業に優秀な人財を獲得することができるといえよう。

 他方、佐藤氏は商業高校、工業高校などの実務教育型の学校が教育困難校になりにくいと指摘する。その理由は資格や技能取得の環境が整備されているからだという。大学にも教養教育のほかに積極的に取り入れるべきだとの考えを示す。

< 佐藤 ところで、商業高校、工業高校とかは授業崩壊するような教育困難校になりにくい。最初から目的を持って、資格や技能取得を目指しているからです。今、商業高校ならデータサイエンスが必修になっていて、日商簿記2級も取って、企業価値の計算もできるし。工業高校から電気工事や自動車整備のノウハウが身に付く。それから農業高校ならバイオの知識が身に付く。そういうところは普通科よりきついと言って、勉強が好きでない中学生はあえて普通科高校に進学します。
    古谷 非普通科高校は授業スケジュールがスパルタ的で、学生生活がきついイメージがあります。
    佐藤 でも仕事で必要なノウハウは身に付く。そうでない普通科出身者の仕事に向けた教育をするのが、専門学校とBF大学です。だからBF大学はすごく重要なんです。BF大学がないと地場の産業が成り立たなくなります。>

前掲書 p.101-102


 最先端分野を積極的に学ぶ教育環境が整った学校で過ごした若者たちは「デジタルネイティブ世代」としてビジネス界で大いなる活躍ぶりをみせている。当然ながら、仕事に必要なスキルも習得している。

 教育環境に恵まれなかった若者たちはこのような人々との能力の落差を縮めるためにビジネス講座を開いているキャリアセンターに相談してみるとよいかもしれない。たとえFランク大学であってもBF大学であっても、仕事に必要なスキルを身につければ現場で十分に活躍できる。長期的な視野を持って他者との経済格差を縮小することができる。もっとも、経済格差を是正するのは政治家の仕事になるが。

 大学に通う者たちの学習意欲を高める教育プログラムを設定することが重要ではないかと、私は考えている。


<参考文献>

古谷経衡・佐藤優『日本人の7割が知らない 世界のミカタ』時事通信社 2024


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