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「バカ本」セレクション ③『東大出てもバカはバカ』

 三冊目は、豊田有恒氏の『東大出てもバカはバカ』(飛鳥新社)である。

 2023年11月に惜しまれつつも逝去した豊田有恒氏はアニメ『宇宙戦艦ヤマト』の制作及び構想の助言を行ったSF界を代表する小説家である。世界史や日本史にも精通している。また、ライフワークとして韓国に足を運ぶなど韓国評論の著作を多数出版している。内容はやや過激なものであるが。

 豊田氏はかつて東京大学を受験し現役合格した。だが、東大の学問的思想に嫌悪感を抱き、慶応義塾大学に進んだ。受験勉強中に東大に集まる秀才型エリートの価値観をことごとく否定していた。

 本書では政界や財界などの各方面で活躍するエリートたちの思想の劣化や東京大学に内在する左翼思想に異を唱える形で綴っている。15人以上の学歴エリートを取り上げ、いかに知性が欠落しているかを評している。
 本書から前川喜平・豊田真由子・丸山穂高・福島瑞穂を取り上げることにしよう。


① 前川喜平


 豊田氏は前川氏に対して、このような見方を示す。

< 前川が受けた教育も、曲学阿世ー学を曲げて、世におもねる反権力という伝統を踏まえたものにならざるを得ない。ところが、東大を出た、いわゆるエリートは、権力の側に身を置いているわけだから、やたらに反権力を振り回されても困ったことになる。>

豊田有恒『東大出てもバカはバカ』(飛鳥新社)p.8-9

 そして、前川氏には週刊誌報道である疑惑が浮上したのである。

< なんと、売春、援助交際など、とかく噂のある新宿の出会い系のバーに、足げく通っていたという記事が、読売新聞で報道されてしまったのである。店内で値段の交渉をして、外へ連れ出すシステムで前川から誘われたとする女の子の話なども飛び出したという。しかし、当人は、大真面目で弁解する。女性の貧窮を扱うドキュメント番組を観て、実態はどうなのか知ろうと思い立ったのだという。そこで、話を聞くため、食事をし、小遣いを与え、実地調査をしたわけだそうである。
 なんとも、説得力に乏しい話だが、のちの週刊文春の報道によれば、前川と知り合ったという女性の証言では、身の上相談や就職相談などに、乗ってもらっただけとなっている。口裏を合わせているとも考えられるのだが、ほんとうに民情視察なのか、それとも援助交際だったのか、どちらも取れるわけだから、真相は藪の中としか言いようがない。>

前掲書 p.10

 前川喜平氏は安倍晋三氏をはじめとする自民党政権の劣化を批判していることから左翼・リベラルな論客として知られている。権威主義体制に真っ向から切り込んでいるからだ。その裏で出会い系バーの女性との援助交際を匂わせる報道をされ、不倫に発展しかねない状況だったのだ。豊田氏は秀才の前川氏の反権力思想や女性とのスキャンダルに対し、国家公務員としての自覚がないと考えていたのだろう。


② 豊田真由子


 次に豊田真由子氏についても批判を展開している。真由子氏の暴言から日本語の語彙の少なさを嘆いている。

< 「この、ハゲーっ!」「ち、が、う、だろー!」事件は、さすがに大問題になった。マスコミで面白おかしく取り上げられた、この台詞以外にも、暴言、パワハラ、暴行に類する事案がそろぞろ出てきた。いわく。
お前ら、白痴か!」「痴呆症か、お前!」「うん、死ねば。生きている価値ないだろ!」「鉄パイプで、お前の頭、砕いてやろか!」などなど、罵詈雑言の羅列である。日本語は、世界一、悪口の単語が少ない言語だと言う。韓国語など、辱説ヨクソルと言って、相手を罵る語彙が、日本語の何十倍もある。友人のSF翻訳家が嘆いていたことがある。英語では、さまざまに使い分けられている罵詈雑言が、日本語では語彙が少ないため、せいぜい、こん畜生、馬鹿野郎くらいしか、訳しようがないからだという。豊田は、その少ない悪口の語彙を最大限に駆使して、罵り続けたことになる。>

※太字は筆者による強調

前掲書 p.26

 豊田有恒氏の「語彙力の少なさ」についての指摘は私も納得できる。国会議員としての品格に相応しくない発言である。その後、真由子氏はテレビ番組で謝罪の言葉を述べて名誉挽回を宣言した。しかし、我々国民の視点からすればエリート階級に属する人間が言葉を雑に扱ったことは政治家暴言・失言の歴史に刻まれることになることを覚悟しなければならない。ただ、韓国語の悪口は日本語の倍近くもあるかが不明だ。


③ 丸山穂高


 「戦争発言」で話題が沸騰した丸山穂高氏の稚拙な言動に、豊田氏は落胆する。丸山氏の過激な言説の前兆は以前からあったという。

< なんと蒲田駅前で泥酔したうえ、数人の男ともみ合いになり、双方とも怪我をしたという。幸いというべきか、和解の運びとなり、事件にならなかったが、丸山は禁酒を誓い、また飲酒した場合は、議員辞職するとまで明言したという。この男の唯一の弱点が、こうした酒乱に近い性癖らしい。マスコミを色めきただせた戦争発言は、2019年5月、国後島くなしり古釜市で発せられた。いわゆる「ビザなし交流」の訪問団に同行した際、泥酔状態で訪問団の団長と記者の対話に割って入り、言わずもがなのことを言ってしまったのだ。曰く。
 「戦争でこの島を取り返すのに賛成ですか、反対ですか?
 問われた団長も困り果て、「戦争はすべきではない」とだけ答えた。すると、丸山議員はさらにからんできて、こう言ったという。
 「戦争をしないと、どうしようもなくないですか
 ワイドショーによれば、さらに続きがあって、丸山は女のいるところで呑みなおしたいと、だだをこねて出かけようとし、周囲に止められたともいう。それにしても、国会議員たる者、程度が低すぎる。のちに言論の自由などと開き直るのだが、それ以前の問題で、単に知性に欠ける馬鹿というだけだろう。
 ロシアは、旧ソ連時代には、アメリカと世界の覇権を二分する超大国だった。アメリカに遅れること僅か四年で核兵器を完成させ、米ソ冷戦時代に突入し、軍備増強に狂奔きょうほんした。現在は衰えたとは言え、日本人を皆殺しにできる巨大な核戦力を保持したままだ。そのロシアに対して、どこをどう押せば、戦争などという発想が出てくるのか、常識では考えられない。小学生なみの知性なのだろう。>

※太字は筆者による強調

前掲書 p.54-55

 丸山議員はその後、再起を誓い、議員選挙に臨んだが落選となった。当然の結果といえよう。戦争発言を安易にした丸山氏はどうすれば戦争を防げるのか、北方領土交渉をどう進展するのかを思考せず、戦争で解決を図ろうとしたのである。市井の人々の犠牲も厭わないのかと勘繰りたくなる。
 ただし、豊田氏自身は軍備増強を否定していない。米国が日本を守ることを放棄した時に備え、核兵器の開発を含めた軍事戦略の議論を急ぐべきだとしている。令和時代に入ってなお、台湾有事をめぐって中国との一触即発の事態が起こるか否かの瀬戸際外交にいる。また、日本の保守陣営はウクライナ侵攻後のロシアの次なる策略を気にしている。米国はいずれ日本の防衛を放棄する可能性は無きにしも非ずだ。だから、核武装を進めよ、という論理である。果たしてどうなるか。


④ 福島瑞穂


 最後は社会民主党の福島瑞穂議員である。豊田氏は福島氏の軍事や安全保障戦略の欠落ぶりを批判する。

< 福島の安全保障観、民族観など、理想と言えば聞こえがいいが、妄想の域を出ていない。有為転変の国際情勢、日進月歩の軍事技術などから、なにも学ぼうとせず、ただ目を背けているだけなのだろう。 >

前掲書 p.102

 さらに、豊田氏はテロ対策についての発言に軍事知識の欠如を憂う。

< 福島は2003年の衆院選で、土井のもとで衆院選に大敗した社民党のあとを承けて、党首に就任した。対テロ特別法などに反対し、なんでも反対という旧社会党以来の伝統を守るのだが、弾道ミサイルの迎撃が国会で話題になると、人工衛星と間違えたら問題だなどと、軍事、安保への無知をさらけ出す。>

前掲書 p.103

 なお、豊田氏自身はSF小説を書くためのインスピレーションを得るため、「軍事体験」をしてきたという。

< ロスアンジェルスのコンバット・トレーニング・センターに通い、拳銃、ライフルの扱いかたを学んだ。インストラクターが、せせら笑って言ったものだ。日本の警官より、アメリカの主婦ハウスワイフのほうが、銃器の扱いに長けていると。
 わたしはまた『軍事研究』『丸』などの専門誌も定期購読し、『防衛白書』、『自衛隊装備年鑑』などにも目を通して、勉強にこれ努めた。わたしのような小説家にもできることを、国家の命運を左右する政治家が、さぼって学ぼうとしない。福島瑞穂の不勉強が、目立つこのごろである。反対なら反対でもいいが、最低限の軍事学だけは勉強してからにしてもらいたい。>

前掲書 p.109-110

 豊田氏は福島氏に対し、直接に明言しなかった。察するに、軍事専門誌を読み込んだり、銃の扱い方を手に取って学べという言い分だろう。そうでなければ、政治家としての職務は果たせないということになる。福島氏はたんぽぽの畑が広がるようなネットワークを作って平和な社会を築こうと語っていた。だが、ネット右翼からは「空虚なお花畑思考だ。」と批判されている。これが社民党が国政からますます遠ざかる存在となっているに違いない。

 対して、現在(2024年時点)の自民党には石破茂氏がいる。石破氏は「防衛屋」と呼ばれるほどの軍事オタクである。江畑謙介の軍事理論と戦争学をベースとした知識を備えている。仮に石破氏が次の総理大臣になった時、日本の軍事戦略や安全保障の動向は加速するかもしれない。

 本書には東大出身のエリートたちのお粗末な言動や知性の欠落、不勉強の表れを殊更に強調している。後半は豊田氏自身の受験体験記について触れている。

 因みに私には東大生や東大教授、東京大学を批判する権利はありません。


<参考文献>

豊田有恒『東大出てもバカはバカ』飛鳥新社 2020


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ハリス・ポーター
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