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『LOVE&PEACE』真夏の憩いのひと時②

 湖から島の中央に戻ってきた二人は田んぼに囲まれた場所を訪れた。

写真 p. 69

 自転車に乗ってスイーッと走ってきたふみ奈を前にして、彼女の嬉しそうな表情を見ると、男はこちらまで楽しい時間を過ごしているようだった。

写真 p.70

 「ねえ、一緒に乗ろう。」

写真 p.71

 「この場所って、サイクリングコースに丁度いいね。」

 「そうだね、走ってみようか。」と男は言った。真夏の日差しが照りつける中、暑さをもろともせず屈託のない笑顔を浮かべるふみ奈を前にして、暑さに負けている自分の弱さを見せたら格好悪いと思った。

 気温が徐々に上がるにつれ、熱中症になったら危険なのは承知の上だ。男は常備用として二人分のポカリスウェットを所持している。外へ出る前の準備は抜かりない。

 二人は自転車に乗って颯爽と走り出した。夏空の下でペダルをこぎながら沖縄の田畑を回っていった。若草色に彩られた草木や所々に咲く花を見渡すと、体も心も若々しさを取り戻したかのような元気溌剌な状態になる。男は忘れかけていた少年時代の遊んだ記憶を思い出しながら、どこか懐かしい気分に浸っていた。

 道端で自転車を降りて、ふみ奈はしゃがみ始めた。

写真 p.73

   男 「何で座ったの?」
 ふみ奈 「ちょっと疲れたから。」

 そう話していたら、男はふみ奈の胸の谷間に目線が移ってしまい、眼福だと思わざるを得なかった。だが、目を向けてはならない。以前に天使が降りてきて言ったように、下心が丸見えだと思われるのは恥の行為でしかない。そう考えて、男は理性を保ち続けた。

 すっかり汗をかいてしまった二人は宿泊先のホテルに戻り、風呂場に足を運んだ。常日頃の疲れや日中で遊んだ時の汗をシャワーで流していた。浴場から出て、二人は寝室に戻り、それぞれの時間を過ごしていた。

写真 p.91

 バスローブに身を包んだ姿でリラックスタイムを楽しむふみ奈は管理人に頼んでおいたフルーツの盛り合わせを冷蔵庫から取り出し、台所で食べやすいサイズに切り、皿に盛ってソファーの上で食べ始めた。

 甘酸っぱさのあるイチゴに口づけをしたふみ奈は至福の時間を過ごしていた。

写真 p.92

 食べ終わった後、ふみ奈は爪先にペディキュアを塗った。鮮やかな白色の装飾を施した爪先の甲は実に煌びやかである。

写真 p.95

 そのままベッドに飛び込んだふみ奈は体が熱くなったのか、バスローブを両肩から胸元の真ん中まではだけ、熱気を逃がした。乳白色の素肌に血管が透き通って見える肉体を目の当たりにした観光案内の女性スタッフはまるでミロのヴィーナスのように豊潤な美に触れ、華麗の極致とも言える表現だと思った。目を疑うほどの感動を覚えたのである。

写真  p.97

 バスローブをはだけて、美しい肌色の背中を見た女性スタッフは欲情をそそるくらいの美麗に声を失う。筆舌に尽くしがたいほどの艶めかしさだった。

写真 p.117

写真 p.118

 そろそろ夕日が近づいてきた頃である。二人は最後に海で泳ぐことに決めた。真夏の想い出の締めくくりとして、夕日を観ながら幸福の時間を過ごすことにした。

 ベージュの水着に紫色のラメ入りシアートップスを着たふみ奈はさぞかし寂しげな表情を浮かべた。

ふみ奈 「楽しい一日も、もうすぐ終わるね。」
  男 「うん、終わっちゃうね。」

 真夏の想い出は人生の歴史の記憶の一ページとして残っていく。沖縄という島は見渡す限り楽園のような場所である。

写真 p.120

 船場についた二人は港と海を背景に写真を撮ろうと決めた。港の付近に来たふみ奈は後ろを振り向いた。少し悲しげな表情を浮かべる。

 男は「でも、また夏に来ればいいじゃない。生きている限り、何度でも訪れることはできるよ。」と慰めの言葉をかけた。

写真 p. 121

写真 p. 122

 男は「うん、いい感じ。」と言った。素敵な紫色のシアートップスを写真に収めることは何事にも代えがたいほどの想い出である。

写真 p.123

写真 p.124

 シアートップスを脱いでベージュの水着だけにしたふみ奈は素肌と同化したように思えた。まるで丸裸になったような見映えであり、少し気が緩んだ。

写真 p.126

 沈む夕日を背景にしたふみ奈を撮った男は「いい写真になりそうだ。」と嬉しそうな顔をした。

写真 p.127

 海に体を浮かせながら、ふみ奈は夕日の空を前にして、どんなことを思ったのだろう。

写真 p.129

写真 p.130

男  「良かった。最高の写真が撮れたよ。出来上がるのが楽しみだね。」
ふみ奈 「今日はありがとう。とても楽しかった。また来ようね。」
男   「ああ、約束だ。」

 沈む夕日を観ながら、真夏の憩いのひと時はあっという間に過ぎた。だけど、男は「まだまだ人生はこれからだ。」と自分に言い聞かせた。生きていることの尊さを噛みしめながら、また常夏の島へ遊びに行こうと決心した。二人の間の約束を交わした。翌日沖縄を後にした。

男・ふみ奈「さよなら、沖縄!また来るねー!!」

 男は井上陽水の曲『少年時代』を口ずさみ始めた。

男 「夏は過ぎ 風あざみ ♪
   誰のあこがれに さまよう ♪
   青空に残された 私の心は夏模様 ♬」

 二人は嬉しそうな表情を浮かべながら、都会へ帰っていった。


おわり




井上陽水『少年時代』

鈴木ふみ奈 写真集『LOVE&PEACE』玄光社

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ハリス・ポーター
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