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平野啓一郎と三島由紀夫・森鷗外

 小説家の平野啓一郎氏は出版区主催の『本ツイ』に登場し、1万円分の本(動画では金額が1万円以上となる)を購入した動画が公開された。

 平野氏は学生時代から三島由紀夫や森鷗外の文学に深く沈殿していた。華麗なる文体と社会の歪みを的確に示した三島と森の物語は読者を暗い世界へと引き込んでいく。平野氏はこれらの作品を読み込みながら、現代日本社会の停滞と醜悪に疑問を抱いていた。経済が徐々にシュリンクしていき、息苦しさが増していく日本社会の中でどう生きていけばよいか。心の平穏や正気をどう保てばよいのか。男女の愛という人間に必要な営みをどう築いていけばいいのか。そんなテーマが平野文学から読み解くことができるだろう。

 平野氏はこれまで『マチネの終わり』『ある男』『本心』(全て文春文庫)などの数々の小説を発表してきた。

 平野氏が小説の中で投げかける「問い」は我々日本人が忘れてしまいがちな「愛」という概念について、今一度考え直すための道標を与えているのではないか。どの恋愛文学の作品も、令和時代に純愛のあり方を物語を通して伝えたいという強き想いが込められている。

 女優の樋口日奈氏は平野文学の中で『本心』に出てくる言葉を拾い、自作のノートに抜き書きしている。「最愛の人の他者性」という言葉に惹かれ、心にぐっときたと言う。

 平野氏は最新作『富士山』(新潮社)という短編小説集を上梓した。ロスジェネ世代の一人として、世に蔓延る自己責任論に反発心を抱き、「それは偶然性が生んだ帰結ではないのか。」と冷静な目で問いかける。

 今回の『本ツイ』の企画でかなり難しめの本を取り上げているので、詳細は動画を観ていただきたい。

 気になる点は平野氏がなぜ三島由紀夫と森鷗外の作品に魅入られたのかであろう。一問一答の動画でこう語っている。

青木 平野さんの人生を変えた3冊についてお話を聞いてみたいのですけど、まず一冊目を聞いてもいいですか?

平野 人生を変えたというと、やっぱり若い時に読むものが多いので、最初はよく言うんですけど、三島由紀夫の『金閣寺』ですね。それまで読んでいた日本の近代文学と文体が非常に異なっていて、非常に煌びやかで華麗で。一方でこう主人公が非常に暗い内面的な独白をするというコントラストに衝撃を受けまして、三島作品にのめり込んでいって。三島が幸いにして非常に勉強熱心な作家だったので、彼の作品を読んでいると色々な作家の名前が出てくるんですよね。バルザックとかフローベルとかドストエフスキーとかオスカー・ワイルドとか。そういう作家について知りたいと思うことでだんだん外国文学を読むようになっていったので、それが自分の読書の始まりとしてはとてもよかったなと思ってます。

(中略)

青木 二冊目は?

平野 二冊目というか、大学に入って森鷗外の小説を全部読んだんですけど、ちくま文庫で主に読んだんですが、それが非常に大きな影響を受けましたね。一冊というと・・・ 僕は『阿部一族』という作品が森鷗外の作品の中でも最高傑作の一つかなと思って、『阿部一族』を挙げたいですね。

青木 最高傑作と思うところの部分ってどこで思うんですかね?

平野 まあやっぱり非常に難しい問題を扱っていますよね。制度的なものの中で人間がどういうふうに生きているのかっていうのを。彼自身が江戸時代から明治という社会制度が激変した時代に生きていて、しかも彼は官僚でもあったので。政策立案とか実行に関与していた立場なので。政府の政策次第で人間の生活が大きく変わってしまうということに関わっていた側の人間ですから、江戸時代の人間を参照しながら今の人間はどう生きるべきかというところを、鴎外の思索が一番深いところに達している作品の一つじゃないかなと思いますね。文章は言うまでもなく本当に立派で、自分が作家として文体を形作っていく時には多大な影響を受けましたね。

※太字は筆者強調

YouTube 出版区「これに非常に影響を受けました」平野啓一郎の人生を変えた本3冊とは・・・?【ぶっちゃけ聞きます、本とのトコロ】2024年12月30日 より

 平野氏が職業作家として日々の執筆活動の支えになっているのは三島由紀夫と森鷗外の作品からだということがよくわかる。



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ハリス・ポーター
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