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まだまだ張り合える

 茶島さんは肉薄した。相手選手のふところに踏み入るくらいまで、プレッシャーをかけた。天皇杯・いわきFC戦でのこと。ぼくにとって大事なことになった。ぼくは自分のことを茶島雄介だとおもって観ているから。だからこのことはまちがいなくぼくにとっての大事なことだった。

 スキッベさんが来るまえの茶島さんは、あんな相手選手に迫るようなことはしなかった。相手の前足の、すこし手前くらいで身構えていた。茶島さんはほとんどの場面でハンデを背負わされる。体格差っていうハンデ。だから下手に寄せて力づくで入れ替わられることを恐れた。まずはあるていど距離を取る。出方を見る。味方のサポートを待つ。それがかれなりの折り合いのつけかただった。

 でもいわきFC戦、茶島さんは寄せた。相手が守ろうとするボールに向かっていって、奪おうとしたのだ。安全策に走らない。ひとの力も借りない。自分で、自分の力でゲームの盤面を動かしてやる。そんな意思の表明にも見えた。

 意思表明はさらにつづく。リーグ戦・サガン鳥栖戦。終盤投入。大迫さんからボールを引き取ると、がら空きの右サイドを、まるでミカさんや藤井さんのような勢いのドリブルでぶわぁっと駆け上がり、ひとりで鳥栖を押し返した。残り時間をふみつぶしてやった。

 ピースマッチ、シュトゥットガルト戦では、はやって初っぱなスローインしくじりかけたりもしたけらど、ブンデスの選手相手にドライブを敢行、数歩でちぎってゲームを揺さぶった。

 きっとチーム・スキッベは茶島さんに、折り合いをつけてヨシとすることを許さなかったのだ。ひとりでなにかしら変化をもたらすこと、つまり強度の高いプレーをリクエストした。それもかなり具体的に、詳細な設計図を提示するみたいに。とどめ、きみにならできる、そう一言そえて。茶島さんとしてもそこまでされて、こたえないわけにもいかなかったのだろう。

 現状、ライバルは手強い。ド安定の新井さん、ロード・トゥ・森脇良太が見えつつある越道さん、そして和製トミヤス・中野就斗さん。でもいわきFC戦のあのプレッシャーからはじまり、短い出場時間、少ないプレー回数ながらかれらと張り合えることはわかった。それがぼくにとっては、とても大事なことだった。よかった、まだだ、まだ戦えるんだ……! その手ごたえをもっていれば残りのシーズン、ぼくもまだまだ戦える。

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