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商売道具以上のもの

 ルヴァンカップ、勝ち進められて本当によかった。

 ぼくが観たのは味の素スタジアムでの第一戦。観に行った多くのひとがそうであったように、ぼくもまた川浪吾郎さんの雄姿を観にいった。すくなくとも前半の45分のあいだはずっと背中の22番を見つめていたし、90分通して、かれがはめている真っ白くておっきなキーパーグローブを目印に追っかけていた。

 川浪吾郎さんのグローブは、遠ければ遠いほどよく目立つ。写真を確認すると、大迫さんや田中雄大さんのグローブとさほど変わらないようにも見える。でも、実際にスタジアムやDAZNで遠目から観ると、肘まで飲み込まれちゃうんじゃないかと心配になるくらい、大きい。

 ぼくは味スタであの白くて大きなグローブが、低い弾道のシュートをバチンと止める瞬間も、ゲーム中断中にゴール脇の水のボトルを取り、中野就斗さんに手渡しする瞬間も目撃した。PKのピンチのとき、すれちがいざまディエゴ・オリヴェイラ選手の背中をポンとやって称えていたのも、見逃さなかった。

 グローブは、川浪吾郎って選手をピッチ上であますことなく表現してくれる。どんなに苦しくてもけっして独りよがりにならず、他者に目を向け、気を配りつづけられる。そんなゴールキーパーのタフさ、ひととしての大きさを、あの真っ白くておっきなグローブは披露してくれるのだ。そしてぼくたちはそれを見て心を揺さぶられ、ついつい試合中にかれの名前を叫んでしまうのだ。「川浪!川浪!」と。キーパーグローブは、もはやただの商売道具以上のものとなっている。

 そんな偉大なグローブだけれども、それでもゲームが終わるとやっぱりお役御免となる。相手選手との握手のときにまず片方だけ、円陣を組むまえには両方はずされ、スタッフさんにあずけられてしまう。川浪吾郎さんはグローブを手放すと、急にピッチの芝生にとけこんでしまったかのようだった。ピッチと同系色のユニフォームを、あのグローブが際立たせていたのかもしれない。

 ちなみに、あずけられたグローブはというと、川浪さんよりも小柄なスタッフさんが抱えているせいで、余計にふくれあがって見えた。

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