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偉大なるやせ我慢

 タイムラインにはみなさんの、青山敏弘さんとの思い出がたくさんポストされている。寿人さんへのパス、ミドルシュート、作陽時代の幻のゴール、優勝したときの表情。目いっぱいのファンサービス。誠実なひととなり。どれもすてきな思い出ばかり。

 でもぼくにとっての青山敏弘さんって、そんなきらきらはしてなかったりする。かといって泥臭いともちょっとちがう……。表現に悩んだけれど、やせ我慢のひとっていうのがいちばんしっくりくる。

 ぼくの記憶のなかの青山さんは、なにかっていうとしれっとした顔をしている。大怪我の後遺症で膝がまともに動かないときでさえ、平然と。でシーズン終わるころになって「実はあのとき……」みたいな話が中野和也先生経由でぽろぽろこぼれ出てくる。ほーらまたいわんこっちゃない……。

 だからぼくにとって青山敏弘さんは、耐えがたきを耐えて、しれっとしちゃうひとなのだ。しれっと走り、しれっと配球し、しれっと削り、しれっと相手のユニフォームを引っぱる。ファウルをとられても審判の注意もどこ吹く風「なにかありました?」みたいなツラでしれっとその場を去っていく。でも内心は、悔しかったり、ムカついてたり、痛かったりや苦しかったりでぐつぐつ煮えたぎってしょうがない……。なによりかれは泣き虫だし。

 そんなやせ我慢の極めつけは、やっぱりインスタグラムだとおもう。投稿には、写真とともに前向きな言葉が”ど”ストレートにそえられていた。「出てる選手すごくない?」「サンフレッチェ、すごいでしょ?」「ぼくもあきらめませんよ」「いっしょにたたかおいましょう」。まっすぐなメッセージがつづられつづけた。ゲームに出られない悔しさだとか、自分の力の足りていないことへの歯がゆさだとか、抱えきれないものを絶対抱えているはずなのに。それを押し隠して、しれっとポジティブなことを書きつらねた。ピッチでしれっとプレーしていたときと同様に。「ついにアオちゃんのやせ我慢も行くところまで行ったな」とおもった。

 そんなかれが、今シーズンでの引退を決めた。キュッとクチをむすび、眉をちょびっと釣りあげながら我慢しつづけた日々が終わる。

 ぼくはマヌケなので、あの6番の偉大なやせ我慢が観られなくなるなんて、あんまり想像していなかった。いつかはそんな日がくるとか、覚悟はしていたとか、タイムラインでも見かけたけれど、それも深くは考えていなかった。いま足りてないところも来年にはなんとかなるだろう、くらいにおもっていた。

 だからかれの引退をうけて、自分がいまどういう気持ちなのか、いまいちわからない。なので、ひとまず青山さんがぼくにとってどんな印象の選手だったか、ってのを書いてこの記事はおしまいにしておく。

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