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あ、それならそれで(2020/12/30)

 茶島雄介がまだウィングバックの5番手――柏、ハイネル、浅野、藤井そのつぎだ――だったとき、ぼくは「今年のチャジはベンチに入れば御の字かかなあ」とこぼすような、それはそれはつつましやかなファンだった。

 当時、つまり開幕戦くらいまでのサンフレッチェは、少数精鋭でシーズンを乗りきる計画をおしすすめていて、茶島雄介になんて見むきもしていなかった。去年ケガがちでまともにプレーしていなかたからとうぜんといえばとうぜん。ぼくもナットクしていたし、おおくはもとめられないなとおもっていた。

 そこから中断期間にはいったところで、茶島雄介に追い風がふく。過密日程により少数精鋭プランがハタン、リーグ戦再開後も柏のケガ、ハイネルの中盤センター起用……からの離脱、浅野雄也の1.5列目起用と、予想外なことがつづいた。そしてついにぼくらの茶島雄介に出番がまわってくる。

 茶島先生はそこからおどろくべき快進撃を見せた。ていねいな止める蹴るとボールうけるまえの準備、相手ボールのときの気のきいたカバー?とかを武器に右ウィングバックを強奪。サンフレッチェの右サイドの風とおしをよくしてみせた。

 ぼくは舞いあがった。広島に帰ってきてくれただけでもうれしかったのに、スタメンで試合に出つづけているだなんて。柏・ハイネル推しの城福さんにはあわないとおもっていたから、なおさら衝撃的だった。復帰早々池田塾の門戸をたたいたのがポイントたかかったのかしら。

 そうして背番号25が、とうぜんのようにスタメンにならぶようになってしばらくたった。すると、いつの間かぼくは「ベンチに入れれば御の字」というつつましさを、どこかに落としてしまっていた。いつ、どこで落としたのだろう。ただ気がついたら手元にはなかった。

 つつましさをうしなったぼくは、茶島雄介がメンバーに入るのは当たりまえだ、と思うようになり「チャジをもっといかせんもんかね」「右サイドにもパスを出したまへ、右利きどもめ」「なぜ60分で交代させるのだ」など、起用法についてクレームをつけるようになった。ただの迷惑クレーマーおじさんになった。

 中野さんの記事とかでクロスの精度が云々みたいなと流れになったらもうタイヘン。「だったらペナんなかで動きを作らないFWの責任も問え」と逆上するシマツだった。

 そんなこちらからのしつようなクレームに屈した城福監督は、リーグ戦を通じて、茶島雄介を起用しつづけるはめになった。はやめの交代は、ぼくに対する最後の抵抗だったのだろう。こちらも人の子、鬼ではないので、多少のソソウくらいは許すことにした。

 それがぼくのおごりだったことがわかるのはリーグ戦がおわってから。今シーズンの総括会見でついに城福監督は牙をむいてきた。ホーム最終戦、つめたい雪の降りしきるなか選手たちを雑な交代策でふりまわして、あげく審判に退場させられた、あの自分の大失態を棚に上げ、あろうことかぼくに歯向かってきたのだ。

「サイドをソロで云々」「個で相手をはがすカタチが云々」。要はもっとゴリゴリやれということらしい。なんだよ結局柏好文とハイネルにしかそそられない"ヘキ"だったということだな。ナメおって。いったいだれが右サイドをスムーズにしてやったと思っているのか。

 ……ただ、くやしいことに監督の言いぶんも一理あるな、とおもう。「なんで切り込まない」「左足のキックを使っておくれよ」とぼく自身何度もおもっていたことだから。高校時代森山さんに死ぬほどしごかれながらもはいあがり、大学時代もプロになるために自分のプレーを最優先してきたような男にしては、すこしおとなし過ぎた。

 来年の茶島雄介ははたしてどうなるんだろう。おとなしいままだろうか。

 いや。そんなはずはない。総括会見の内容はきっと日頃のトレーニングですでに彼にもつたわっているハズ。チームになれて、今度は監督のスタンスに寄せるくらいのことはする。

 つまり柏好文ばりにボールを運んで相手を引きつけたり、ドリブルで相手のウラ取ったりするわけだ。左足のミドルもバシバシさく裂である。

 え、なにそれ。それならそれで全然いいじゃん。ゴリゴリ茶島雄介大歓迎。よし、2021年はウィングバックで二桁ゴールだな!


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