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夕方の公園、スーパーヒーローになれた娘の話。

次女、3歳。8歳上のおねぇちゃんの影響もあって、いろいろなアニメを観る。意味わかってるんかな?と思うけれど、そこそこ集中して観ている。そしてときどき「フッ」と笑う。

物語のなかの、キラキラしたドレス、魔法…そういう世界観にあこがれを持っているようす。

例えば「アナと雪の女王」。音楽に合わせてくるくる踊っては、ストーリー中、主人公・エルサが手から放つ魔法を真似て、自分も手を伸ばしたり、引いたりする。

しかし、悲しいかな。私たち人間は魔法が使えない。どれだけがんばって「ありのままの~」とうたってみても、手から氷は出ないし、もちろんお城を建てたりなんてことはできない。

何の変化もない自分の手のひらを見ながら、次女はきょとんとして「なんでまほうがでないの?」「こんなのずるい」と訴えてくる。純粋やなぁ、かわいいなぁと思いつつ、何と答えたものか?といつも考えあぐねている。

***

人間が魔法を操れないことのほかにも、世の中に疑問を持つことがだんだん増えてきたようで、次女の「なんで」の量と勢いが、近頃とみにエスカレートしている。

「お昼寝するよ」と言っても
「なんでねないといけないの?」(私はいまドラえもんを見ているというのに)
「今日は雨やから外には出れないね」と言っても
「なんできょうはあめがふってるの」(きのうは晴れていたじゃないか)

こんな具合にとにかくなんにでも「Why」と返されてしまう。こちらの余裕があるときはいい。ちょっとおもろい返しでもしてやろうか、と考えたりできる。

Why攻撃が困るのは、夕方とか、寝る前とか。こちらが切羽詰まっているとき。バタバタするタイミングで「なんで、なんで」と言われてしまうと「えぇい!そういうもんなんじゃい!」といちばんおもんない答えをして反省している。

仕事の量が少しずつ増えてきて、なかなか「ゆったり育児」とはいかない今日この頃。

働くことも、家事も両方やる。自分が望んだスタイルとはいえ、両立の難しさはどうしても感じてしまう。

そんな、バランスが崩れそうなときに「なんで」と全力でこちらに向かってくる次女に、果たして私はどれだけ向き合えている?かと問われると、あまり自信がなかったりする。

***

「かぁたん、あとこ(娘の自称)はウーパ―イーローになりたい 」

あるとき次女がこんなことを言い始めた。魔法のほかにも最近、彼女が憧れているのがこの、スーパーヒーロー(ウーパ―イーロー)の存在なのだ。

こんどは私が「なんでスーパーヒーローになりたいの?」と聞いてみると、「そらをとびたいから」らしい。その姿がかっこいいんだとか。

その時は気の利いた答えができなくって「どうやったらなれるんかなぁ」とか、「でもきっと、なれるんちゃう??」なんて適当なことを言ってうやむやにしていた。

次女が寝たあと、さきほどの彼女の言葉を反芻する。

「スーパーヒーローになりたい、かぁ」

相変わらずスーパーヒーローのなり方は思い浮かばなかったんだけれど、「スーパーヒーローになりたい」と言った次女の心のなかを考えた。

空を飛びたい。

何のアニメを観てそう思ったのかわからないけれど、次女はきっと、泳ぐみたいに空を飛ぶキャラクターの姿に自分を重ね合わせて、「やってみたい」と思ったんだろうな。

ばたばた過ぎる毎日で、どうしても見過ごしがちな、子どものwantや可愛い成長、個性豊かな”表現”を、もう少しちゃあんと握りしめたいなぁと、次女の寝息を聞きながら、思ったのだった。

***

さいきん、次女と久しぶりに夕方の公園に行った。少し涼しくなってきて、外で遊ぶ子どもの数も増えてきたとはいえ、18時近くになると、人気が一気になくなる。がらんとした公園に着くや否や、次女はブランコめがけて走っていった。

彼女はまだ足や身体の動かし方がわかっていなくて、背中を押してやらないとじょうずにブランコを操れない。かといって強く押しすぎると「こわい!とめて」と怒られる。

仕方がないので、私が先にブランコに乗り、そのあと娘をひざに乗せてやった。私と向かい合せ、背中に腕をまわしてしがみつくかっこうで「こいで、かぁたん!」と言う。

えらい奇妙なスタイルやな、と思いつつ少しずつ勢いをつけていく。私の胸に顔をうずめているからか、スピードがあがってきてもあまり怖くはないらしい。

ふだんは少し高さが増してくるとすぐに止めてという彼女が、このスタイルだと「もっとはやくしていいよぉ」と言ってくる。

かぁたん、もっとー
たっかぁい。
びゅーん!!
うきょー!!

次女が怖がらないのをいいことに、私もどんどん勢いをつけていく。ぐんっと力をこめて、ブランコを高くあげていく。

盛り上がりも最高潮。次女が興奮しながら

「あとこ、スーパーヒーローになってるぅう!」

と喜んだ。

「ほんまやなぁ、空を飛んでるねぇ!気持ちいなぁ」

きゃあきゃぁと喜ぶ娘の声が嬉しくて、私もますますブランコを高くこぐ。

高く高く。空を飛ぶ、まるでスーパーヒーローみたいに。

ブランコをこぎつつ私は「あ、たぶん娘はほんとうにいま、スーパーヒーローになってるんやろうなぁ」と感じたのだった。

***

数分もすればしんどくて、「ブランコdeスーパーヒーローごっこ」は終わったけど、公園からの帰り道にも、娘はしきりに「あとこ、スーパーヒーローになったなぁ!」と話してくれた。

いいなぁ、この子はスーパーヒーローになったんやなぁ。ブランコに乗る。ただそれだけ、とも思えることで。

魔法や、スーパーヒーローに憧れる次女。
いろんなことがわからなくて、「なぜ」をぶつけてきてくれる次女。

忙しい毎日で、ときに彼女の反応を煩わしく思ってしまう私はいるけれど、ささいな毎日のなかにたくさんあるであろう、尊い一瞬をこれからも、少しずつでいいから、探していけたらな、と思う母なのだった。

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