なんでもなくはないけれどどうでもいい話
自分でもちょっと驚いているんだけど先程蜘蛛に意思が通じた。
通じてしまった。
「馬鹿なこと書いているなー」と思いながら楽しめる方はお付き合いください。
それは足を伸ばさなくても5センチはある巨大蜘蛛だったのだけれど・・・実に遭遇したくはない存在だったのだけれど、どういうわけだか目の前の壁を伝って現れたのだ。大接近急接近、恐怖で硬直、迷惑千万。これ以上近づいて欲しくなくて、出て行ってもらうようお願いすることにした。
これまで不意に昆虫意識に繋がったことは数回あっても、会話なんて試みたことはない。
何故って、節足動物全般苦手なのだから。
そう、蜘蛛は昆虫ですらない・・・
なのにそんな馬鹿げたことを思いついた理由、それはもうただただ接近して欲しくない、視界の外で生きて欲しいからだった。
信じるか信じないかではなく、通じてくれないと困るのでただ必死だった。
その方法。
それはイメージで会話すること!
いくら何でもことばは通じないからね。人間同士でも言葉がすれ違えばちんぷんかんぷん。繋いでくれるのはジェスチャーとイメージだ。
イメージを使うのは動物と話せる女性、ハイジさんの様子をテレビで拝見して得たヒント。
それはとてもワクワクするアイデアで簡単そうにみえた。
だから、やってみた。
蜘蛛を直視するのは気分のいいことではなかったのだけれど、見つめつつUターンして部屋の外へと歩いて行くようにイメージを送った。
やりながら「難しいかも」とも思っていた。
だって廊下を含め家じゅう暗い中、この部屋だけ明るい。
蜘蛛の生活ぶりは知らないが、もし灯りに魅かれて来たのなら望みは薄い。
と思ったとき。
わたしの悲鳴で固まっていた蜘蛛が一本足を上げた。
わたしはそれはもう必死で、益々歩く方向のイメージを送信した。幽霊に遭遇しちゃった昔話の住人が念仏を唱えるような勢いだ。
蜘蛛はまた足を上下した。
なんだか異世界存在が新しいコンタクトについて考えあぐねているかのようなジェスチャーだ。人間でいうと考え事をしながらデスクに置いた手を無意識のまま人差し指で軽くデスクを叩いているような感じ?
これは・・・いける!?
そう思ったわたしは畳みかけるように更なるイメージと共に願った。
「わたしから見えないところへ!」
そのとき蜘蛛の真上にあったゲージで砂々音が大きな物音を出し、その瞬間物凄いスピードで蜘蛛はUターンし元来た道を物陰へと走り去ったのだ。
一瞬の出来事だった。
そしてわたしは不思議な感動と「見えないけれどいるんだよ」というちょっとした恐怖とともにこの記事を書いているというわけだ。
1件落着。
なんだけれどね。
あの蜘蛛とは言わないが、実は同じ種の蜘蛛に今日は朝から驚かされていた。
その話も少し最後に触れておこう。
いつもの月曜と同じように委託先に出勤する日。
いつもの田舎道。
だけど前の車はいつも通りではなく、なんでもないところでブレーキを踏んだり、対向車が来ているのにやたら中央車線に寄ったり、不審を通り越してみているのが怖い運転をしていた。
飲酒?ながら運転?
そもそも運転手の頭がみえないんだけれど、凄く小さい…まさかこども?
色々想像したけれど「居眠り運転かも」というところで、不慮の事態に備えられるようわたしはその車を凄く注視していた。
そのときだ。
怪しい影が慌ただしく視界を横切ったのは。
茶色いその影を最初は木の葉だと思った。
でもすぐに停止しそれでも車の側面に張り付いたままのそれが蜘蛛だと判った。
友人が「タカアシ蜘蛛」と呼んだ奴だ。
それは大型台風の風などものともせず、ワゴンRのルーフを伝い、車の端から端へと移動していた。
事故の注意もさることながら、その蜘蛛が飛び移ってきてもたまらないと交差点で行き先を違えるまで益々車間を開けて走った。
そんな話を誰かにさっさとしてしまえれば脳内のイメージも軽くなっただろうに、友人の体調が悪く話す機会も失われて、気が付けば夜。
わたしは部屋の中で遭遇するより先に、廊下でその姿を目撃していたのだ。まるでイメージが現実化したかのようで、わたしはイメージを目に焼き付けてしまったことを本気で後悔していた。
そうして部屋に入らぬよう追い立ててからパソコンに向かったのだ。入口を背にして。
なのになぜ前方右手に現れるのか。
今日はイメージの力を思い知った日だ。
心の中の衝撃は既に文に記した。
これを以て蜘蛛のイメージと綺麗さっぱりお別れできることを願おう。
別れの挨拶に、蜘蛛がこの家から外へと、本来自分が生きる場所へと出ていく姿を思い描くのを最後にして。