『カバの話 文体練習 番外 オノマトペVer.1.0』
夜中に竹田がゴソゴソと家に来た
手のひらをザリザリに擦りむいて
ヌルヌルと泥だらけだった
カバとガンガンに相撲をとってきた、と竹田は言った
カサカサのサバンナとかにいるカバ？
そのカバ。
動物園、閉園のまぎわで人は疎らだった
柵を越えて
竹田はカバの居所に乗り込んだ
目の前にドキドキ立ってみて
カバについて何も知らなかったと気づいた
体長3.5メートル 体重3トン
途方もない大きさだった
毎日、モシャモシャ51キロの草木を食べて
ドッドッドウと時速41キロで走る
カバは、何をしに来たのかとでも言うように
クリクリとこちらを見ていた
竹田はすかさずカバの頭にドリャーと飛びついた
少しでも立ち止まっていたら
そのまま動けなくなる気がした
カバの首に腕を回してギシギシと組み合う
ガブッと噛まれても ドスンと踏まれても 終わりだ
頭に抱き付いている限りは噛みつかれないはずだった
竹田の身体の下でカバは大きくカパーと口を開ける
ユスユス身体をゆすって ブンブン頭を左右に振った
ドワーッと足が地面から浮いた
ギリギリとしがみつきながら これが相撲だろうか と思った
前足が足であって手でないならば
エイっと膝を着かせるか トリャッとひっくり返すしかない
カバの首はしっとり濡れてホアホアに柔らかかった
グオーっと唸り声を立てて カバが勢いよく頭をブンっと左に振る
ヒューンと身体がカバから離れた
ヒラヒラと宙を舞った一瞬 小さな白い蛇がにゅるにゅる空に昇っていくのが見えた
何年もギトギトの鰻を喰っていないな と竹田は思った
カバは尻をプリンと向けて水たまりの方へドシドシ歩いて行ったという