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若いふたり
仕事が終わり、晩ご飯何食べようかな、お腹減ったな、などと考えながら電車に揺られ、普段なら気にしない車内アナウンスを聞き間違え、電車を飛び降りた。
会社と自宅は、都会と田舎を結ぶ線の両端で、途中に唯一Y字に分かれる箇所があるから、電車に乗る時は、慎重に行先を確認して、座席争奪戦に巻き込まれないように、2つ電車を待ったのにもかかわらず。
自宅方面の電車かどうかを必死で見極め、待つこと10分程。ようやく電車に再び乗る事が出来た。
満員電車で座席と座席の間に立つ人の隙間を見つけ、ようやく手すりに捕まり、ホッとして、ああ、お腹が減った、と再び考えはじめた頃、ぐったりともたれ合って眠っている中学生くらいのカップルが座っていることに気がついた。
冬休みも終わって、通学している頃かと思っていたけれど、お休みなのかしら?
2人とも私服で、少しカッコつけて黒のMA-1を着た直毛のお洒落な髪型になりきれない男の子と、流行りの赤いダウンを着た女の子が、停車する駅ごとに、抱き合ってキスをしだす。
のを、腹ペコでぐ〜と鳴り出しそうなお腹をおさえながら、右目の端で見ていた。
中学生で覚えたての頃だとしたら、男の子が女の子の耳元をふわっと抱き寄せ、柔らかなキスをしたり、顔の向きを変えて、もう一度…とどこかで見て勉強したままの動作を確かめているんだな、、そして女の子は多少の恥じらいを表に出し、仕方なさそうに男の子に応じる。
彼らを冷静に、かつ、生暖かく見守って、男の子が女の子の手を引いて下車する姿を見送った。
あの男の子はたぶん、彼女の好きであろう恋愛映画か、少女漫画で勉強したのだろう。
がんばれ男の子。
たぶん女の子は君より大人になっている。