【ゲーム感想】夜明け前より瑠璃色な-Moonlight Cradle- (2009)
はじめに
『夜明け前より瑠璃色な-Moonlight Cradle-』は、オーガストから2009年に発売されたたPC用アダルトゲーム(所謂ギャルゲー/エロゲと呼ばれる)。2005年発売の『夜明け前より瑠璃色な』(以下前作PC版)及び、そのコンシューマ移植版となる2006年発売の『夜明け前より瑠璃色な-Brighter than dawning blue-』(以下前作PS2版)の直接的続編にあたる。
・公式サイト(R-18)
・コンプリートパック公式サイト(R-18)
作品紹介
『穢翼のユースティア』に情緒を破壊されるほど感銘を受けたので、ほかのオーガスト作品もプレイしてみよう企画第3弾。過去記事はこちら。
我ながら入れ込みすぎてて読み返すのが恥ずかしい『夜明け前より瑠璃色な』前作感想はこちら。
noteは未だに書き慣れてないので文体とか試行錯誤しながらやってますが、それにしたって前作感想のテンションは異常だったと自省してます。
今作は続編と言いつつ所謂「ファンディスク」的な作品でボリューム少な目なので、感想の方もサラッと流す感じで書いて……いけたら良いですね(願望)。
今回も『夜明け前より瑠璃色な』=『よあけな』で表記統一します。
総評 (※ネタバレ無)
『よあけな』ファンなら間違いなく満足できる一作。
話は少し逸れますが、自分はもともと「ファンディスク」の類が苦手でした。だって恋愛ものってヒロインと付き合うまでの過程が一番面白いじゃないですか。それをねえ、「ファンディスク」とは名ばかりのヤマなしオチなしのイチャラブ劇なんか見せつけられたところで、そのヒロインのことが余程好きでもない限り虚しいだけですよ。
唯一例外として『車輪の国』は本編よりFDの方が楽しめた派。とっつぁんカッコいいからね。
そんなことをプレイ前から懸念していて、実際『よあけなMC』も多分に漏れずイチャコラするだけで終わるようなシナリオが含まれていますが、プレイしてみて自分でもビックリ。
「あれ? 意外と楽しめてるんじゃね?」
エロゲから半ば引退していた十数年の間に嗜好が変わったのか、それとも『よあけな』ヒロインが好きすぎて「そんなの関係ねえ」状態なのか。正直わからん。どっちもありそう。
作品の性質上、本作単体で評価することが難しいのですが、続編としては「前作の世界観が崩れていないこと」が最も嬉しいポイントでした。シリーズものでよくありますよね。例えば唐突なキャラ変だったり、前作主人公が死亡していたりとかの誰得要素。
本作のファンブック『パーフェクトビジュアルブック』のスタッフコメントを読むと、ユーザーからの要望を取り入れつつ前作との差別化に苦心した旨が書かれており、その点はさすがオーガストと言ったところ。
キャラクターに関して。
「サブキャラ含め、ほぼ全員好きだ!」って話は前回しましたが、本作ではそれらが内面的に少し成長した姿が描かれていて満足。とりわけ自分の中ではミアの株が爆上がりしました。理由はネタバレ有の項にて後述。
そしてもともと好きだったにも関わらず、好感度が限界突破してしまったエステル・フリージア様。なんなん? 俺を萌え殺そうとしてるの? 本作で念願のHシーン初実装となりましたが……ッスゥー……“まあまあ”だったかな(精一杯の虚勢)。
ちなみにフィーナは前作で既にメーター振り切れてます。メインヒロインの座は不動。
一方『よあけなMC』の目玉である新ヒロインのシンシアなんですけど、「CV遠野そよぎで科学者キャラ!? これ絶対好きになるやつじゃん!!」ってプレイ前からウキウキで期待してた割にはそこまで刺さりませんでした。好きな要素もあるとはいえ、シナリオがなぁ……。
あと何気にカレンさんが大活躍でしたね。主にギャグ方面で。ここまでフィーチャーするならアペンドシナリオだけでもHシーン入れてほしかった……! 回想シーンの若カレンさんがドストライクで胸が苦しい。
ネタバレ無しのシナリオ評。
フィーナ > エステル > ミア >= 翠 > 麻衣 > リース > シンシア > 菜月 > さやか
キャラの好みも多少加味してますが、概ねこんなもん。上位4人までが「面白い」、中間3人が「ふつう」、下位2人が「悪くはないけど薄味」。下位でも「つまらない」とは感じなかったので上出来でしょう。
フィーナルート、というかTRUEエンド的なシナリオは最後に開放されるだけあってシリーズとしての終幕感が凄い。自分が『よあけな』に初めて触れてから半年しか経ってないのに感極まってたくらいだから、リアルタイムで追ってたファンはよく堪えられたなあと。俺をこの世界から連れ出さないでくれーっ!!
音楽に関して。まずヴォーカル曲から。
まだ前作をプレイしていなかった頃、OP曲「深青Philosophy」(歌:Veil ∞ Yui Yamamoto)を聴いて衝撃を受けました。強調されたドラムが耳に残るアップテンポなナンバー。 爽やかな印象もあって『よあけな』の世界観にピッタリです。
そしてシンシア編の挿入歌「Marginality」(歌:中恵光城)。これもゲーム知らない段階で聴いて「このOP曲めっちゃカッコいい!」と思ったら、まさかのED曲でビックリ。近頃は中恵さんのソロCDをよく聴いていますが、思い返せばすべてのきっかけはこの曲だったと、感慨深いです。歌詞を本編と重ねて読むと切なくなります。名曲中の名曲。
お次はBGM。
と言っても曲数自体は少ないです。前作からの流用が大半ですし。ただし、前作PS2版から引き続きメインコンポーザーはsumiisan氏なので、やはり曲の質は非常に高い。わけてもシンシアのテーマ曲「王宮のサラバンド」は、次作『ユースティア』の楽曲に近しい雰囲気があってお気に入り。ほかには、オシャレさとポップ感が絶妙な塩梅の日常曲「ヒール・アップ・アベニュー」も。
本編未使用曲含め聴き応えある音楽ばかりなので、公式サントラ『Future Passport』必聴です。よもやド頭の「プロローグ」に泣かされるとは……。歴代ヴォーカル曲のアレンジ構成は卑怯だって。
総括。
「この作品に携わったすべての人間に“ありがとう”と言いたい」
リアルタイムで出会えなかったことが悔やまれますが、『よあけな』は確実に自分の心に大きな爪痕を残してくれました。
不満点もそれなりにあるけど、終わり方が綺麗すぎるから迂闊に「続編出して!」と言えないのが嬉しいけど悲しい。心がふたつある〜。
以下、各章感想はネタバレ全開なのでご注意ください。
今回も攻略順に書きます。
各章感想 (※ネタバレ有)
穂積さやか
さやか姉さんをトップバッターに選んだ理由は特に無いのですが、強いて言うならOPの床ドン(誤用)シーンが印象的だったからでしょうか。
前作から5年後が舞台で、本編中では最も時間が経過している設定。現実時間に照らし合わせると前作PC版の発売が約4年前なので、当時のプレイヤーはキャラとともに年月の経過が実感できたのかなと想像します。自分は前作クリア直後に始めたから感慨も何も無いけれど。
さやか姉さんの年齢について考えてはいけない。いいね?
言ってしまえばシナリオは「典型的なエロゲのファンディスク」なので、あまり語るところがありません。舞台もほぼ家の中で限定されてるし。
まあ、前作の時点でさやかルートは達哉の成長物語メインで描かれていたから、成熟した今になって新たな障害が発生してもしょうがないか。
「穏やかな日常を味わう時間」として割り切れば、そこまで不満ありません。
前作のさやかルートでの達哉は、ほかルートと比べて積極的というか肉食系でガツガツ行くタイプだったのが印象に残っていて、今作はそれを踏まえて自制しようという流れが面白かったです。
っていうかこっちの世界線でも館長室で致したことになってるんですね。事前情報で今作の世界観はPS2版準拠と聞いていたので、PC版のHシーンはなかったことになっているのかと。実際はPC版とPS2版を掛け合わせたハイブリッドルートっぽい。
達哉が立派に成長したことは喜ばしいけど、自分だけ置いていかれた感があって寂しい。
小ネタとして、カレンさんのさやかモノマネで笑った。意外とノリノリっすね。
ミア・クレメンティス
前作感想では恐れ多くも「キャラが弱い」認定してしまいました。なので今作は「早めに消化すっか」くらいの軽い気持ちで始めたら、これが思わぬ良シナリオでビックリ。
前作のラストで、月へ帰るフィーナと別れて地球に残ったミア。「フィーナ御付きのメイド」という最大のアイデンティティが失われた状態から、新たな将来の可能性を模索するのがあらすじです。
ここで「ミアが料理人を目指す」というのが、自分としては意外で驚き。やはり ミア=メイド の印象が強いので、達哉に献身的に尽くすのがベタか、そうでなくとも何らかの奉仕活動に従事すると予想してました。料理人として自立するという選択は、かなり思い切った決断だと感じます。
ストーリーの流れ自体は、料理漫画のいちエピソードにありそうな王道展開で、そこまで捻りはないけど丁寧に描かれていた印象。その道のプロとして厳しくも優しい左門のおやっさんがめちゃくちゃ良い味出してますね(料理人だけに)。
ミアというキャラのまったく新しい一面が見られて、『よあけなMC』の中でも特に楽しく読めたシナリオでした。
余談ですが、フィーナルートのミアは武術の特訓に取り組んでいることが明かされます。可能性の塊かよ。
「キャラが弱い」発言はお詫びして訂正いたします。
朝霧麻衣
『よあけな』のリーサルウェポンこと「えっちー」な麻衣さん。前作の時も思ったけど、この娘だけヒロインのベクトルが違うんだよね。
『よあけなMC』のHシーン数って、
フィーナ:2、PS2版&MC新ヒロイン:2、PC版ヒロイン:1
これがベースなのに、なんで麻衣は2回あるんですか?
ファンブックのスタッフコメントからの引用で、「麻衣の側にブレーキをかけるような状況がないと、ひたすらラブラブいちゃいちゃして終わってしまうのではないか」とのこと。歯止めが利かなくなるのは製作者公認だったのか……。誇っていいぞ、麻衣。
というわけで、麻衣編の見どころはHシーンです。お風呂にスク水はあまりにもマニアック&非現実的すぎる。でも麻衣ならギリギリやってくれそうなロマンがあります。セリフがいちいち煽情的だし、視覚と聴覚両方で攻めてくるから堪えるのは至難の業。
欲を言えば、髪下ろしver.のHシーンを入れてほしかった。
髪下ろしと言えば、髪型を元に戻した理由がアペンドシナリオで描かれていました。個人的にはどちらも好きです。
「お兄ちゃん」呼びの変更については、どちらかというと大反対でしたが。戻って良かった。
麻衣編のシナリオは、もう荼毘に付したよ…
こっちも語るところないです、はい。
鷹見沢菜月
前作では菜月シナリオの杜撰さに腹を立てていましたが、今回は特にキレるポイントも無くのほほんとプレイ。
『FORTUNE ARTERIAL』で鍛えられた演出力が光ってました。しゃもじ投げの無駄な豪華演出に笑った。
このシナリオは「菜月が書いたブログ」が軸になっていて、ブログ記事がフルボイスで読み上げられるという一風変わった演出が特徴です。レイアウトまで凝っていてリアリティが凄い。近年はSNSの流行でブログ文化もすっかり衰退してしまいましたね。ある種のノスタルジーを感じます。
ついでに個人的な事情で恐縮ですが、ADVでこういったインターネット描写が出てくると『螺旋回廊』のトラウマが蘇るので身構えてしまいます。
鬼畜人を許すな。
閑話休題。ブログの内容は主に菜月の料理修行なので、ミア編同様読んでいると腹が減ってきます。『よあけな』って食べ物ネタ多いよね。
あとは、菜月の赤面癖が相変わらずでほっとしたこととか、Hシーンの内容が待望のアレでテンション上がったこととか。
「付き合いだしたばかりの初々しいカップル感」が堪能できて、これはこれでアリかなと。
遠山翠
今作でHシーン初実装ヒロインその1。
とはいえ自分は翠に対して性的興奮よりも父性が上回ってしまっているので、飛び上がるほど嬉しいってことはありません。「お父さん、娘さんを僕にください」が違う意味の言葉になっちゃう感じ。すまん蒼一。
前作では、翠が暗い過去を背負ってきたことが明かされています。純粋に幸せになってほしいヒロイン筆頭です。
それはそれとして翠は可愛い。
こっちは髪下ろしのHシーンがありました。PC版ファンへのサービスかな? 完全に同じというわけではなく、ポニテに合わせて少し長めなのが新鮮味も感じられて良いですね。
今作では遠山家で翠と過ごす時間が多いのですが、こんな風↓に真正面で向き合う一枚絵がよく出てきます。近い近い!
俺も翠の手作りカレーが食べたかったよ……。
シナリオは翠の将来の夢について相談を受ける話。
面白いと思ったのが、菜月編も同じく将来への不安があったにも関わらず、あっちはあっさり自己解決して、こっちはなかなか前へ進めずといった対照的に描かれている点。二人の性格の違いがよく表れています。
翠の「元気娘っぽく振舞っているけど実は臆病で繊細な性格」は、ヒロインとして大きな魅力を感じます。
シナリオ終盤、翠が挫折して茫然自失になるシーンは読んでいて胸が痛くなるほどでした。前作に続いて心揺さぶられまくり。やっぱり自分はこの娘に弱い。
終わり方はあっさりしてたけど、ドラマ性があって読み応えありました。
エステル・フリージア
今作でHシーン初実装ヒロインその2。
前作で既に「おもしれー女」の地位を確固たるものにしていたエステルさんですが、面白さにますます磨きがかかってます。聖職者兼芸人かな?
全体的にシリアス寄りだった前作とは打って変わって、今回は甘々成分多めなシナリオ。「皆わかってないなぁ……エステルさんはツンツンしてるのが良いんじゃあないか」等と硬派を気取っていた自分も、あっさり陥落しました。「ツン多めデレ派」に改宗します。エステルさん最高!
とはいえヒロインの魅力がデカすぎるのも考え物で、エステルさんが何か発言する度に身悶えしたい衝動に駆られるので、5分間に1回休憩を挟む形でプレイせざるを得ませんでした(マジ話)。『よあけなMC』のプレイが滞っていたのは大体エステルさんのせい。
始終そんな調子ですから、念願のHシーンもなかなか直視できず苦労しました。内容はたいへん素晴らしかったです。黒ストは正義。
ちなみにエステルさんは 司祭服:ニーソ、私服:ストッキング です。ここテストに出ます。
少しは真面目な話も。
『よあけな』という作品において、ヒロインの中で一番大きな変化を遂げたのがエステルだと思います。地球人への偏見・自身の生い立ちへのコンプレックスという、潜在意識に基づく根深い問題と向き合ってそれを受け入れられたのですから、立派な成長と言えるでしょう。
今作では、何気ない日常会話の中でも彼女の心境の変化を感じ取れて、何とも言えない感慨深さがありました。
もうひとつ、EDで「創星 -celtic arrange-」が流れたことにビックリ。この曲の初出はPS2版サントラ『Terra Passport』ですが、まさか本編中で聴けるとは。ケルト音楽風のアレンジが非常に自分好みで気に入っていたので、嬉しいサプライズでしたね。
エステル編で良かった点を挙げるとキリがありませんが、「敬語カップル」の魅力を再認識できたのが最大の収穫です。親しき仲にも礼儀ありの尊さ。この神聖性を啓蒙していきたい。
リースリット・ノエル
選択可能なヒロインの中でラストを飾るのはリース。次のシンシア編と一番繋がりがありそうだったので。
【悲報】フィアッカのHシーンなし。
まあ、そんな気はしてましたよ。うん……。
気を取り直して。ほろ苦い前作エンディングから話をどうやって繋げるのか関心がありましたが、意外とあっさりした再登場。まあ「いつも見守ってる」って言ってたし、会おうと思えばいつでも会えるのか。
神出鬼没だった前作と異なり、達哉に引っ付きたがるリースが可愛い。無口だから余計にお人形さん感ある。これがかの有名な「ごきげんリース」ですか?
リースもリースで、相変わらずぶっきらぼうに見えるけど少しは他人を受け入れられるようになった印象を受けました。
何気に翠とは初絡みなんですね。ハイテンションとローテンションで愉快な組み合わせ。
シナリオに関しては……面白い・つまらない以前に「もう終わり?」感が強いので何とも言えず。達哉も既にリースの使命を受け入れてるから、話を動かしづらいんだろうなあ。
ただ、ラストの一枚絵は凄く良かった。
これだけは言っておきたい。
Hシーンでドロワーズが出てこなかったのがめちゃくちゃ悲しい。
シンシア・マルグリット
今作の新ヒロイン。ほかの全ヒロイン攻略後に開放。
前述の通り、プレイ前は期待値100%でした。というのも、自分の中で「伝説の超ヒロイン」として頂点に君臨する聖女イレーヌ(『ユースティア』に登場)とダブる要素があるので。中の人とか。
実際にプレイしてみると、「意外とノリが軽くて掛け合いが楽しい」「時折ドキッとするような発言をしてくる」等、ほかのヒロインと違った魅力も感じられて、普通に自分の好きなタイプでした。序盤までは……。
良かったところから挙げていきます。
前作のキーワードである「空間跳躍技術」から話を膨らませて、時空すら繋げてしまう発想が面白い。並行世界理論とか、こういうメタ的な要素は嫌いじゃないです。
シンシアの特殊な立ち位置も、既存のヒロインと被らない新鮮味がありますし、同時に前作で描写不足が感じられたフィアッカの掘り下げもできるという美味しいキャラ。
シンシア編最大の見どころはシンシア&フィアッカ姉妹の関係性です。実に700年ぶりの再会を遂げたにも関わらず、互いの「使命」の為に離れ離れになってしまう悲劇が描かれます。
シンシアがターミナルに帰る直前、それまで冷静を装っていたフィアッカが絶叫する場面は切なくも美しい名シーン。
一方、最大のネックはシナリオ構成にあると思います。
ちょくちょく「それってどうなの?」と引っかかる部分がありすぎて、内容が頭に入ってこないというか、どう判別していいかわからないというか。正直、今現在も評価に迷っているところがあります。心がふたつある~(二回目)。
シンシア編は世間一般には「概ね好評」だったと聞いて、ますますわからなくなりました。なので、自分の解釈や捉え方に問題があるような気もしますが、とりあえず思ったことをストレートに書いていきます。
まず前提として、姉妹は現代に失われた超科学技術(ロストテクノロジー)が社会に悪影響を及ぼさないよう、管理・監視することが使命。
シンシアは自身が管理する「空間跳躍技術」の開発者張本人でもあり、「科学者は開発した技術に対して最後まで責任を持たなければならない」と主張します。
一理あると思います。とはいえ管理方法が「誰かがターミナルに残ってデバイスとセットで管理しなければならない」とかいう点は、構造上の致命的欠陥のような気がしますが。
そもそも「科学者が技術の運用方法まで管理する」ことの是非が気になります。いち個人の裁量だったら独善的に利用されるリスクが大いにありますし、政治的・社会的分野にまで精通していなければ、善し悪しの判断すら付けられませんよね。
傲慢な印象があって、個人的には好きな考え方ではありません。
関連して、シンシアの行動原理が今一つ腑に落ちない。フィアッカの場合は現代唯一の生き証人として、また自身の行いによる犠牲者への贖罪として責任を感じていると推察できますが、シンシアは「開発者だから」の一点張り。それはもうわかったから、「どうしてその考えに至ったのか」を知りたいんですよ。
その根拠として挙げられている「父親の教えを守りたいから」も引っかかります。『よあけな』のメインテーマである「家族の絆」に照らし合わせて、一見すると正しいようにも思えますが、前作フィーナシナリオで描かれていたのは「亡くなった親の幻影にとらわれるな」という話だったじゃないですか。マルグリット家の家庭事情を考慮するには描写が少なすぎるので、父親の教えが間違っているとは一概に言えませんが、もう少し具体的な理由を知りたかったです。
もう一つの問題が、本シナリオにおける達哉の存在意義。最初から巻き込まれ事故のような出会いだったとはいえ、最後の方まで割と蚊帳の外だったのはいただけない。恋仲になってシンシアの本音を聞き出せたところは良かったものの、それ以外にも彼女に気づきや葛藤を与えるきっかけがあれば面白くなったのではないかと。
フィアッカがシナリオの中心的存在なので、極端な話をすれば主人公不在でも成立してしまうのが構成上の問題であり、ドラマ性の弱さが顕著です。
結局、シンシアの目的は最初からずっと変わりませんし。
百歩譲ってシンシアが超ストイックな科学者キャラとして描かれていたら、そこまで不満に感じることはなかったかもしれません。理屈じゃなく「科学者としての矜持」であれば、一本気なキャラとしてむしろ自分の大好物ですから(例:イレーヌ)。
ただ、その希望まで最後の最後に奪われてしまったので……。ターミナルでの問題のシーン、《 ピー》未遂の描写って必要だった……? アレのせいで「これまでのシンシアの主張はただの方便だったのか」と落胆しました。
何度も言うけど、そこに至るまでの過程を知りたいんだよ! 過程を!
文句ばかりつらつらと書きましたが、設定が複雑なシナリオなだけに単に理解できていない部分があるかもしれません。
また、おかしな話ですが「自分の考えが間違いであってほしい」と心から願っているのも事実です。解釈不一致も大歓迎。
『よあけなMC』はこんなに素晴らしい作品なのに、シンシア編だけ楽しめなかったら勿体ないじゃないですか。
Moonlight & Erthlight (フィーナ・ファム・アーシュライト)
シンシア含む全ヒロイン攻略後に開放。
シンシア編で精魂尽きかけた状態で突入。これがフィーナじゃなかったら相当しんどかったかもしれない。
フィーナ編は甘々・ギャグ・シリーズ総括の三本柱で構成されていて、安心してプレイできました。ほぼノーストレス。
前作での「サンドイッチの悪夢」がちょくちょく頭をよぎりましたが、なんだかんだ念願の水族館デートが叶えられたのは嬉しかったです。
水槽内側視点の一枚絵がひたすら綺麗で見惚れてました。ちなみに近々グッズ化されます(予約済)。
シナリオの目玉イベントはやはり卒業式ですが、その前のトラットリア左門にキャラが揃うシーンで、自分は早くも目が潤んでました。これまでの振り返りが入ると一気に「終わっちゃう」感が来ますね……。
卒業式はちょっと感情溢れつつ頑張って堪えた。「ゲームは終わってしまうけれど、この世界はこれからも続いていく」と感じられたのが良かったです。
フィーナのHシーンは2つ。私服とウェディングドレス。どちらも良かった。っていうかフィーナさん、またデカくなってないっすか!? とんでもねぇボリュームで眼福です。
クリア後のおまけでヒロインからのメッセージがあったけど、あれが一番心に来たかも。カーテンコールみたいで粋な演出でしたね。
おまけ含めて、シリーズ総括としては100点満点の出来でした。
おわりに
「サラッと」とは一体……?(自問)
シンシア編で熱が入ってしまったのは期待の裏返しかと。「オーガストの実力はこんなもんじゃないだろう」と思わずにいられません。もちろん根拠はありませんが。
「もしも」の話をすると、コミカライズでシンシア編を見てみたかった。実際の漫画版エステル編(全三巻)はエステルさんの魅力たっぷりな良作とはいえ、シナリオ的には原作に忠実すぎて少し物足りなさがありました。前作の菜月編みたく、上手いこと補完・改変してくれたらシンシア編も楽しめたかもしれません。
これにて『よあけな』シリーズ完全制覇!
物語が終わってしまったのは寂しいですが、また何かの形で彼女たちと出会えることを願います。
TVアニメ(キャベツ)以外で。