【ゲーム感想】イハナシの魔女 (2022)
はじめに
『イハナシの魔女』は、同人ゲーム制作サークル、Fragaria(フラガリア)が2022年に発売したPC用ビジュアルノベルゲーム。2023年現在、PS4/PS5/Nintendo Switch/Xbox One/Xbox Seriesの家庭用移植版も発売されている。本稿で扱うのはPC版である。
総評 (※ネタバレ無)
ボーイミーツガールって良いものですね。そういえば王道シナリオの作品は随分久しぶりな気がする。友人に強く薦められ、前知識ゼロの状態で始めたら新鮮な気持ちでプレイできた。序盤はコメディタッチでサクサク読めて入りやすく、ゲームを進めていくとキャラクターの丁寧な心情描写や作り込まれた世界設定に引き込まれ、最後は感情が爆発して燃え尽きる感じ。プレイして良かったと心から思える作品。クール系ヒロイン好きは四の五の言わずにやっとけ。
あえて不満点を挙げると、システム周りの不便さが最大のネック。個人制作の限界があるとは承知しているが、ノベルゲームにおけるゲーム性の大部分に関わるので。例えば専門用語が頻出する場面で解説を読み返したくなった場合、バックログの見辛さに辟易することがしばしば。マウスホイールでスクロールできないのがこんなにも不便だとは……。(08/07追記:特定条件におけるバグだったようです。)Qセーブ&Qロードがないのも地味に困る。家庭用移植版では改善されているのだろうか。
以下、各章感想はネタバレ全開なのでご注意ください。
各章感想 (※ネタバレ有)
1. アカリ編(赤摘 明)
渡夜時島へやってきた主人公(西銘 光)が最初に出会うヒロイン。初対面のはずなのに、向こうはこちらを知っているそぶりで……みたいな、ギャルゲーによくあるパターン。ギャグもツッコミもこなせる万能型。表情がコロコロ変わって可愛らしい。掴みどころのない発言が大半だけど、こういうヒロインが時折ポロッと漏らす本音にグッと来るんですよね。
ひたむきに夢を追いかける姿も正統派ヒロインらしい。自身の夢と家庭の事情が衝突して思い悩むプロットも王道だが、絡んでくる事情がやや変化球というか、このゲームってそういうジャンルなの!? と驚きが。そういえばタイトルに「魔女」って付いてた。それは置いといて、ギャルゲーとして評するならば、やはり王道は良いものです。とりわけ光との同棲が始まってからはニヤニヤしっぱなし。ちょっと、お二人さんの距離近くない? 特に、アカリ側が光を強く意識しているのがイイ……すっごく。アカリの発言には助兵衛を匂わせる雰囲気があったものの、結局そういうイベントが発生しなかったのは誠に遺憾である。アカリ編ラストのあっさり感的に、このゲームはそういうコンセプトではないと察した。本音を言えばもう少し進展した関係が見たかったけど、こういう甘酸っぱいのも嫌いではない。
2. 保険販売員編(比嘉 紬)
ほう……おっとり系お姉さんですか。開幕早々ポロリな展開に面食らったものの、シモに振り切れることなく、お仕事の苦労を痛感するシナリオ。光の職場が変わって心機一転。徐々に人脈が広がりつつあり、ホテルの先輩従業員である鈴木&吉井も何かと目をかけてくれる。島の暮らしに慣れてきた感が味わえて、良い雰囲気。
肝心のヒロインについて、ドジっ娘と言えばありがちだが、かなり行動が極端かつ思い込みが激しい。自分はそれほどドジっ娘属性を持ち合わせていないこともあり、正直面倒くさい印象が強かった。で、仕事でやらかして無職になり、追い打ちをかけるように不慮の事故で住む家も失い、光の家へ転がり込んでくる。ここでポイントになるのがリルゥの存在。アカリ編の途中で既に光への好意を自覚しており、そんな所へ知らない女(紬)が割り込んできて、相手がそっちにかまけるもんだから、そりゃあ面白くないだろう。お姉さんとの同居が嬉しくないと言ったら嘘になるけど、流石にリルゥが不憫で、自分の紬への好感度はこの頃が最底辺だった気がする。アカリ編の同棲パートとは反対に不満点が多かった。
旗色が変わったのは、紬が過去を打ち明けた後。おい、家族関連のエピソードには弱いっつってんだろ!! 祖母は紬の身を案じて言葉をかけたが、紬は祖母の死に責任を感じ、ある種の呪縛になってしまっていたと。本人の魂まで呼んじゃったのは解決策として力技すぎるとも思ったけど、対面シーンは感動的。最後に、紬が自立できたことが伺える内面の成長が描かれていたのはとても良かった。
3. リルゥ編(リルゥ・ジャミティダ)
拙者、クール系ヒロインすこすこ侍。満を持してのメインヒロイン編というわけで、“待”ってたぜェ!! この“瞬間”をよぉ!!
本編はじめの大きなイベントは、島への台風襲来。避難(とついでに上京するアカリの思い出作り)と称する仲間内の合宿。いかにもな青春の1ページじゃあないですか。ところで「ドボン大富豪」は完全に初耳だったけれど、意外とメジャーな遊び方なのかしらん。これだけ丁寧に解説されていてもルールが複雑でよくわからん。閑話休題。ここでリルゥの過去が語られる。内容はびっくりするほど救いがない。思い返すとプロローグの頃から「家族との繋がり」に言及するシーンが度々あったが、今になって見方が変わる。彼女自身の願望でもあったのかと考えるとやるせない。家族の元へ帰りたいと思う反面、光の存在が気がかりなリルゥ。光とリルゥはお互い意識しつつ、そこから先へ踏み出せない。おせっかいズが罰ゲームで光をけしかけようとするも失敗。のちに理由が明かされるが、あの境遇なら致し方なしというか、そんな予感はしていた。この時点で、本シナリオでは、光のトラウマ解消とリルゥを引き留める理由探しが本筋になるのかな、等とのんきに考えていた。自分の感情がめちゃくちゃに破壊されることになるとは知らずに……。
リルゥが体調を崩し、日光に当たることができない奇病に罹る。病弱系ヒロインなんて、まるで泣きゲーみたいじゃないですか、とツッコミたくなるが、嫌なフラグが立ってしまった。紬の正体、信仰に隠された大里家の暗部や島の歴史、これまで断片的に示されていた重要な設定が次々と明らかに。この作品って、ギャグ多め青春恋愛ADVじゃなかったの!? ひと夏の淡い恋を描いたジュブナイルものにしては、急展開すぎる……。イキガミ様は端的に言うと邪神への人身御供だが、異世界からの供給頼りってのはシステムの大きな欠陥では、と素朴な疑問。邪神も邪神で器の選り好み激しいし、遅かれ早かれ崩壊は免れられなかっただろう。直後の展開を見るに、こんな世界さっさと滅んでしまえと言いたくなる。治療法を探す努力も虚しく、リルゥの症状は悪化の一途を辿る。加えて、イキガミ様を聖地に留めておきたい大里家の企みにより、光とリルゥは村八分状態に。うーん、キツくなってきた。こっちは馬鹿みたいなハッピーエンドが見たいんですけど!? 光がリルゥを日光から庇うシーンは、見ていて非常に辛いのと同時に、胸にこみ上げるものがあって良かった(感情破壊ポイント1)。そして間髪入れずに告白→別離。もうね、この段階で制作者の掌の上で踊らされてる自覚があったので、逆に冷静になれた。ここで「奴隷商に売る」のワードが出てきたことに感心。別の例で、前述の村八分とプロローグのよそ者排斥老人会のように、ギャグとして使用した要素をシリアスに転用するのが抜群に上手い。
さて、絶望的な状況において、唯一の救いだったのが仲間の存在。引き離された二人をもう一度会わせる為、大里家の説得を試みる。個人的に、ここが本作で一番好きなシーン。兼城、お前そんなにアツい漢だったのかよ……! 理屈じゃない、魂の叫びが胸に突き刺さりまくった(感情破壊ポイント2)。改めて読み返しても、ここだけは絶対に泣いてしまう。
終盤の展開はノンストップかつ王道を裏切らず、クリア後には圧倒的な爽快感と、終わってしまった少しの寂しさだけが残った。タイトル画面で完全に浄化された感。おまけのTRUTHは設定としては面白かったけど、本筋に直接絡まないので本編に収録しなかったのは英断かも。
おわりに
軽い気持ちでプレイしてみたら予想外にのめり込んでしまったパターン。序盤の軽いノリから、ああ来るとは思わなんだ。その温度差も往年の泣きゲー(K◯y作品とか)みたいで良かったですね。クリア後に調べてみた所、どうやらAppend要素もある(家庭用移植版はゲーム内に追加収録)らしいので気になる。何かの間違いで妃里子編が作られたりしませんかね?
何はともあれ、本作の制作者と、薦めてくれた友人に感謝しています。