経験の浅い鍼灸師さんへ【無料】今まで習ったことをそんなに勉強しなくていい
久しぶりに書きます。このアカウントでは、鍼灸師やマッサージ師以外でも接客や営業に携わる方々向けに発信をするようにしていますが、今回は「はり・きゅう師」の国家資格を合格してから五年目位の先生方へ一つ記事を書いてみました。
研修指導をしていた経験がありますが、この最初の五年は自分が成長しているのか、実感が湧きづらくもどかしくなる人も多いはずです。モチベーション維持が本当に大変ですよね。
・右も左も分からない状態だから勉強しないと
・80代まで活躍する先生がいる業界だから勉強しないと
・知識がないと治療はできないと思うから勉強しないと
その気持ち、凄く分かります。漠然とした不安から、とりあえず今できることをコツコツとしようと行う姿勢は素晴らしいと思います!その努力は患者様の喜んだ様子を見たいからですよね。笑顔になっていただきたいからですよね。成長に満足している人であれば良いのですが、上記に該当する人は努力の仕方を少し変えてみると世界が変わります。
ここでは、なぜ鍼灸人生の最初に今まで習ってきた座学に力を入れ過ぎると沼に入るのかを解説していきたいと思います。勉強するなとは言っていないですからね。勉強とは様々な形があり、優先度を考えて進めていかなければ、苦しむことになる鍼灸師さんを研修指導などで何人も見てきたため書いていきます。
また私は、30代の自分世代よりもより若い20代鍼灸師先生方の価値観がとても優秀だと周りを見ていて感じます。ですので、「今時の若者は〜」なんて歳上の先生から言われても気にしなくて良いです。きっとその年上の先生は若さを羨ましく思っており、今の時代についていけていないだけでしょう。
時代の流れがそうさせているのかもしれませんが、副業を頑張っていたり興味を楽しんでいる人が多かったり。余計な付き合いには参加しないとキッパリと言いつつ、自分でやりたいことにしっかりとアンテナを張っている人が私の周りの後輩には多いのです。
情報をスマホやパソコンで入手するのが当たり前の時代ですよね。しかも10代の頃から情報収集に慣れているからこそインターネットで情報を的確に仕入れるスキルが長けています。昔は古典を書物で読み解いていくだけでした。この差はかなり大きいですし、臨床をよくしている先生方がインターネットを通じてあらゆる事を発信する世の中ですから、先輩鍼灸師に臨床で使える知識を身につけるスピードは以前と比べて速いと思っています。
20代・30代の皆さんはそのような能力がある世代なんですから、先輩方を抜かしていく気持ちでこの世界に向き合っていきましょう。
前置きが長くなりましたが、「①今まで勉強した座学に力を入れ過ぎると良くない理由」や、「②患者様からの質問で知識が必要なときの対処策」、「③臨床に活きる座学の勉強を身につけるオススメの方法」を紹介していきますので最後まで見てください。
1.とりあえず国家資格を合格したレベルで十分
皆さん国家試験を受かるために、三年間学校に通って頑張りましたよね。本当に大変だったと思います。
身体のことや病気のこと、東洋医学概論など、教科書で覚えるべきところは散々やったと思います。
しかし、いざ臨床に出てみると学校で習った知識を存分に使えていないのではないでしょうか?
「全然知識が活きない」「どこで知識を使っていいか分からない」という不安から、余計にまた学校の教科書などを読み漁ってしまう先生が多くいます。ですが、例えば授業で勉強した肩関節周囲炎の治療法は数十パターンある中の一つでしかないのです。確かに肩髃や肩髎も大事な経穴ですが、肩への負担が①腕からくる②背中からくる③腰からくる④胸部からくる⑤内臓不調での血流不足⑥ストレスからの血流不足など、またこれらが細分化していきます。
また、患者様がファンにならない場合は言葉の使い方や態度、安心していただくための心理学や気遣いなどの勉強をする必要があります。
学校でしたような勉強をいっさいするなとは言いません。ですが、解剖・生理学や疾病の各論・総論などは、専門学校や大学で勉強した範囲でとりあえず十分です。臨床経験が浅い先生や成長の伸びに悩んでいる先生は、学校でしたような勉強以外の勉強が重要であるため、教科書を使うような勉強の比重を少なくして良いと私は思います。
2.頭でっかちほど沼にハマりやすい
私が卒業した呉竹系列の学校は勉強量が多く「頭でっかち」が多いで有名らしいですが、臨床経験を積んで新人研修などをする機会が多くなってから学んだことがあります。それが、学校の勉強ができる人ほど臨床に苦しむ傾向にあるのです。
東洋医学って学ぶこと広すぎませんか?
だからこそ勉強するんじゃない。その気持ちも分かります。ただ本当に奥深い世界なので、キリがなくて沼にハマりやすいのです。
そしてもう一つの問題が、座学を頑張って頭では治療内容が発展していても、そのイメージを再現する技術をもっていないと臨床では苦しくなります。
一例
過去に出会った頭でっかち先生の頭脳の例を出すと、
①肺虚から始まり、相剋関係で肝実、肝が脾を剋している
②だから肺と脾を補い、肝を瀉すことが大切だ
③喘息がひどいなら、きっと胸部・背部周りが硬いだろう
④首肩が張っているなら経絡的に腕も治療する必要がある
⑤疏泄作用が強くなっているだろうから、頭部の瀉法も取り入れよう
などと浮かびます。
臨床三年目。座学の努力は素晴らしいと思いますし、短期間でそこまで勉強してきた努力量が私には想像ができ感動しました。
しかし、この知識を使いこなす技術レベルがなかったのです。頭で治療内容が発展していけば、その分手数が増えるため手技スピードが必要になります。片手挿管もままならず、一本刺入することに時間がかかり、自分のスタイルに合うベッド周りの導線の環境作りも分かっていないなど。
この先生は努力をする優先順位を組み立てあげると劇的に成長しましたが、本来は自分で自己評価をし、自分で優先順位を組み立てるスキルが臨床には最も大切なので、次のようなことが課題となりました。
最初は治療内容をシンプルに
私がおすすめする臨床努力の仕方は、とりあえず臨床五年目位までは頭で考えずに我武者羅に沢山臨床に入ること。これは非常に大切なことですが、内容的につまらないですよね。過去の研修でもこれだけ伝えると後輩の先生方が「もっと教えてくれ!」という顔になっていましたから。笑
しかし、シンプルにスタートしていくことが一番の近道だったりするのです。
例えば、虚実に対して補瀉したい場合、最初は虚しているところを補うだけでも十分治療効果が生まれます。
五年くらい補法を極めるつもりで瀉法は後回しでもいいくらいです。肩こりであれば局所の状態を触って、局所に打つべきか同経のツボを使ってみるくらいで最初はある程度の効果が十分に出せます。
そこで効果を出せない時は、打ち方の姿勢や刺入の仕方、刺入後の刺激の入れ方や経穴を変えてみる研究をしていきましょう。
瀉法は体内のチカラを抜くわけですから、診断で見立てが間違えば症状悪化に繋がります。職場で患者様からNGをくらってしまうと、私達は患者様に育ててもらう立場でもありますから、その機会がどんどん減るのがプレイヤー側にも店側にも最大のデメリットです。治療には自信が必要になりますが、最初はただでさえ自信がないわけですから、自ら自信を削るリスクは低くしておいた方が無難でしょう。
瀉法をするのであれば、例えば明らかに熱が昇ってイライラしている人に、頭皮を散鍼する(技術を補助するために道具がありますので、梅花鍼などを使うのも一つの手です)とかなら大きく間違わないと思います。
先ずは、治療をして調子を崩した場合でも「すいません」で済む同僚や先輩の体で沢山練習しましょう。反対に沢山受けるのも大事です。鍼灸治療を受ける回数が多い先生ほど上達スピードが明らかに早い為、そんな関係性を職場でつくっておくこともスキルアップには非常に大切なことです。
というか、職場でスキルアップをする環境を築けるチカラが臨床にもとても重要なスキルになります。
3.患者様から答えられない質問が来たときの対応策
「まずい、この質問に答えられる知識がない。汗」
治療している時に患者様から思いがけない質問が来た時、返答が分からない内容の時ってありますよね。
その時に知ったかぶりはNGです。
結論から言いますと、分からないと正直に伝えます。知ったかぶりは信頼を失うからです。
そして、「その質問すぐにお答えできないのですが、次回までに用意させてください。」こう答えます。
知識がないことに信頼を失うと思いがちですが、患者様は誠実な対応に信頼していただけるはずです。くれぐれも次回までに自分で勉強したり先輩に聞き、必ず「前回お答えできなかった質問なのですが〜」と約束を守るようにしましょう。
これこそが臨床において身になる勉強で、そんな時の勉強は記憶に残りやすくなります。
私たちは、技術も知識も常識も社会情勢も、あらゆることを患者様から勉強させていただくことのできる職業です。私は分からないことがあれば直ぐに患者様に聞いてしまう方ですが、信頼を勝ち取りお付き合いが始まると、子育てで分からないことがあれば子育て経験のある患者様に、住まいで悩んでいる時は建設業やFPの仕事をしている患者様に、後輩の指導で悩めば社長や管理職に就いている患者様に、治療中無料で聞くことができる職業なのです。
ですが、これが出来る先生と出来ない先生に別れます。無駄なプライドを捨てることは大切です。無料で貴重な講義を受けられることが出来る業種なのですから。
そうすれば、優しい患者様方が色んなことを教えてくれます。その習った知識から他の患者様を救えることだって沢山出てくるのです。
4.場数を踏んでから教科書を開くと勉強になる
これは私がしていたことを理学療法士でインストラクター(理学療法の学会で同業者を教えるために必要な資格のようなもの)を持っていた先生が言語化してくれて凄く感動したことを書いておきます。
同業者でも理解し難い領域の技術を持っていた先生のようですが、
「先ずはとことん患者様の体を触って経験することが先決です。その臨床経験からだんだんと無意識にも統計がとれてくる。パターンができてくる。そこから教科書などを読むと感覚でしていたことが当てはまる内容に出会えます。その時に文言化できる。患者様に説明できるようにもなる。それが本当の勉強です。」
このやり方は、「臨床で使える文言の獲得」と「頭の整理」に役立ちます。
PTやOTの方々と今まで何十人も出会い一緒に働いてきましたが、ほとんどの人が今確率しているエビデンスから考え、文献にない領域を経験や統計から考え出すことを否定することが多い印象だった分、私は感動した体験でした。
文献はある1パターンの発表でしかないのです。現代の科学は人間のわずかなところまでしか解明できていません。これから先より西洋医学では対応しきれない不定愁訴が自然の乱れから多くなります。様々な不調に出会い手の感覚と経験を積みながらレベルアップをしていく世界で救われる人が増えていくでしょう。
唯一の近道があったとしたら臨床経験が豊富な先生に出会い、治療の引き出しを盗みながら自分のモノにしていくことです。
参考になったら幸いです。
こんな内容はなかなか学校では教わらないですよね。これは学校の先生が悪いのではなく、臨床経験者から伝えられることと、学校の先生が伝えられることの分野が違うからです。
サッカー経験者なのでサッカーで例えますが、サッカーの本を読み漁ってもサッカー技術は向上しませんよね。試合(治療)を動かす技術の向上や空気を変えるテクニックは、経験が豊富で実績のある選手から聞くべきなのです。
そして、練習と実践で使っていくことの繰り返し。
サッカーでも鍼灸マッサージでも、割と後輩を指導することが今までに多い人生ですが、基本的に成長が早い人よりも、最初は苦しんで地道に努力し、ある時急に爆発して伸びていく先生の方が成功する確率が高い気がします。
だから諦めないでください。
人を救いたくてこの業界に入ってきたんですよね?
今上手くいかないのは、少し努力の仕方がズレているだけなんです。そのズレを本人に考えさせて伸ばすのが得意な先生に出会えればラッキーだと思います。
そして、最初から順調に成長している人のデメリットとしては、安心していて、いつの間にか自分よりも下だと思っていた先生に抜かされる油断です。ライバルがいなければ壁は自分。自分で自分を盛り上げ、自分でつくった課題に挑戦し続けることができる人は、誰も太刀打ちできなくなることでしょう。
一緒に鍼灸業界を盛り上げ、一緒に不調で悩んでいる患者様を救っていきましょう。厳しい世界ですが、あらゆることが乱れているこの世の中でこれから絶対に必要とされる分野だと思います。