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つゆとの話し(7)

前回のお話し


僕の願い

 「つゆ、しっぽが2本になってもいいから長生きしなよ。」

 僕はブラッシングをしながら、あるいはただ背中を撫でながら、よくこう言ってつゆに聞かせた。

 猫は長生きするとしっぽが2本になって妖怪猫又になると言う伝承があるのだが、もちろんつゆに本当に化けねこになってほしいわけではない。
 しっぽが2本になるくらいに、つゆには長生きしてほしいと思っていた。

 令和3年になった頃、つゆがだんだんと老いているのを感じた。
 もともと動かない子だったがさらに活動量が減り、ヒゲの張りもなくなってきた。

 妻ともつゆの老いに関してはよく話題にしていた。拾った猫なので正確な年齢は分からないが少なくともうちに来てから4年は経ったのでもう高齢期と言える年だろう。

 人間で言えば還暦を迎えたあたりか。
「つゆちゃんは、もうおばあちゃんなの?」と妻とよく話しかけていた。

 僕たちはつゆの老いを受け止めて、今後どう付き合っていかなければならないかちょこちょこ話しあった。
 結局、結論らしいことは出なかったのだが、とにかくかわいがろうと決めた。

わたし、ねこまたになるんですか?

 つゆが長生きにつながりそうなことを手当たり次第試してみたのもこの頃だった。例えばハミガキ。まあ、予想通りむちゃくちゃ嫌がったので1度でやめたのだが。

 太っていないかは、肋骨が触れるかでチェックしていた。わき肉が増えて肋骨が触れなくなるとおやつのちゅーるが減らされた。

 つゆにとっては残念な話しだが、運動してくれないのでおやつをへらすしか仕方なかった。

 爪はまめに切った。つゆはめんどくさがってか爪とぎもしないので肉球が傷つかないようにこまめにチェックした。

 ブラッシングもこまめにした。嫌がっていたけど一生懸命ブラッシングした。引っかき傷もできたけど、気にならなかった。

 ブラッシングが終わったらきれいなのでいろいろなかわいい写真も撮っておいた。

リボンがにあう。

 1日でも長くつゆと一緒にいること。それが僕と僕の家族の願いだった。

つゆが来て4年

 令和3年、今年も梅雨がやってきた。つゆが4年、まつが2年半になった。
 このころは、取り立てて書くようなことはないほどに、ただただ平和だった。
 まったくもって平穏な「日常」が続いていた。

 つゆは、もうすっかりまつともうまく過ごすようになっていた。ちゅーるもお互いに分け合って食べるほどだ。

ふたり一緒のほうがおいしいね

 窓際の日向ぼっこも、よく2匹でならんでしていた。
外から帰ってくる時も、かわいく2匹でお出迎えしてくれた。

ずっと続いていた日常。

 変化していないようで少しずつ変化していく、僕らが「日常」と認識していたその時間は、ずっと続くと思い込んでいた。

 だけど、その「日常」に終わりの時が忍び寄ってきていた。

静かに始まる異変

 季節が夏から秋に移り、我が家は平和に暮れていった。いつもと同じような日常がいつもと同じように過ぎていく、、、はずだった。

 10月中旬のことだった。ある日突然、つゆがご飯を残すようになった。前日までは与えられた食事を瞬時に平らげ、「お代わりをください」とすりすりしていたのに。

 ただ、以前も同じようなことがあった。その時は数日で何事もなかったようにガツガツと食べだしたので今回もしばらく様子を見ることにした。

 つゆは食欲はないのだが、ごはんの時間になるとキッチンに行っては相変わらず夕食の準備をする妻の足もとでごはんの催促をしていた。だから僕も妻もまだなにも心配していなかった。

食欲はないけどごはんはさいそくする。

 10月17日、なかなか食欲が戻らず。しかし、ちゅーるや普段のエサと違うものはよく食べていた。普段のエサも含めて出したエサを6割くらいは食べていたろうか。

庭になじむつゆ

 しばらく出ていなかった庭に気分転換で出してみる。少し動いたら食欲も戻るのではないかと考えた。

 久しぶりの庭だが、天気も良く気持ちよさそうに寝そべっていた。時々歩いて場所を変え、また寝そべることを繰り返した。

 まつが「つゆちゃん、何してるの?」と言う感じで、家の中からずっとつゆを見ていた。

「つゆちゃん、なにしてるの?」

 僕も外でつゆと一緒の時間を過ごした。前はこうしてよく一緒に庭に出ていたなー、と懐かしい思いがした。とても心地よい時間を過ごせた。

 だが、僕の思惑は外れつゆの食欲は戻ることはなかった。

 正直なところ、この時点でまだそこまで深刻に考えていなかった。食欲以外はいつも通り過ごしていたからだ。2階にも上がるし、水もちゃんと飲んでいた。
 しかし、この日からつゆの調子は少しずつ、少しずつ悪化していった。

 悲しくて、でも濃密な つゆと過ごす最後の1ヶ月が静かに始まっていたのだった。


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