つゆとの話し(5)
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つゆとブラッシング
つゆはブラッシングが大嫌いだった。
つゆはブラシを取り出すだけでキッチンに逃げていき、少しブラッシングすれば「うーー、うーー」と抗議の声を上げた。
それでも続けると、ブラッシングしている僕の手に向かって猫パンチやかみつき攻撃を繰り出してきた。
いつもおっとりしていた つゆがめずらしく反抗心をむき出しにする時だった。ブラッシングはつゆとのスキンシップであり、戦いでもあったのだ。
つゆはもっふもふの長毛猫でブラッシングをさぼればすぐに毛がもさもさになり、お腹の方に毛玉ができてしまう。僕はつゆの健康のため、そしてふわふわぴかぴかつゆを見たいがためにブラッシングを続けた。
大変だったが、苦ではなかった。だから僕はブラッシングしながらいつもにこにこしていた。
念入りにブラッシングした後のつゆは気品すら感じるほどきれいになる。つゆは嫌がっていたけど、ブラッシング後の頭や背中を撫でるとさらさらして気持ちよかった。苦労した甲斐があったと感じる瞬間だ。
僕はブラッシングの時には決まって「つゆちゃん、今度は短毛の猫に生まれてくるといいね。」と言いながら毛を梳いていた。
だから、つゆがまたどこかで生まれてうちに来てくれる時はきっと短毛種の猫になっているのでは、と思っている。楽しみである。
つゆ玉を作る
ある時、つゆのブラッシング後にたくさん取れる抜け毛をなんとなく丸めてみた。ピンポン玉よりやや小さいボールができた。おもしろくて何個か作ってみた。
そのうちブラッシングのたびに毛をつぎ足し玉を大きくするようになった。おもしろくて、せっせと毛を集めてはつぎ足し、玉をどんどん大きくした。僕はいつしかこれを「つゆ玉」と呼ぶようになった。
僕の手に引っかき傷ができるのと引き換えにつゆ玉はだんだんと大きく成長していき、最終的にはソフトボールくらいの大きさになった。なかなかの迫力である。
作ったものの大して役に立つこともなかったつゆ玉だが、まつがうちに来たことによりついに活躍の場を与えられることとなった。
まつがつゆ玉を全力で追いかけ、飛び掛かり、激しく遊ぶようになったのだ。つゆの匂いがするのかまつは大興奮して遊んでいた。
その後つゆ玉は、梅雨や夏場の湿気でカビたりしないかと言う心配と、妻の「そろそろ何かが乗り移りそう」と言う心配により残念ながら廃棄されることとなった。
つゆ玉はなくなってしまったけど、ピンポン玉サイズの毛玉ボールはまだ引き出しの中にある。時々触ってはつゆを懐かしんでいる。
まつとの暮し
平成から令和に変わり、梅雨がやってきた。つゆがうちに来て2年、まつが来て約半年だ。
家の中は、つゆとまつ、それぞれが生活ペースをつかみそれなりには落ち着いてきた。ただ、ここに至るまでにつゆの苦労は相当だったと思う。
家に来たばかりのころのまつは、とにかくつゆのことが気になって仕方なかった。つゆが行くところについて歩いたし遊んでほしくてしょっちゅう飛び掛かった。
つゆは小さい子をかわいがろうという気質はなかったようで、そんなまつがうっとうしくて逃げたり隠れたりしていた。
しばらく経った頃だろうか、だんだんとつゆもあきらめたようでいやいやながらも少しづつまつと一緒にいる時間が増えた。
家に帰ると2匹が並んで窓辺で待っているのを見られるようになったのもこのころだった。
つゆが逃げなくなったらまつも無理してつゆを追いかけなくなった。落ち着いて近くに寄れるようになり、つゆの近くでまねをするように同じことをして過ごすようになった。
扇風機の前が涼しいということもつゆに習ったのだろうか。
まつは僕たちの寝室で寝るようになった。そのせいだろう、つゆは寝室に来てくれなくなってしまった。夜くらい静かに眠りたかったのかも知れない。
夜は2階の子供部屋で寝てしまうようになったし、毎日一緒にしていた昼寝もしてくれなくなってしまった。妻も僕もそこだけはとてもさみしく感じた。
ただ、朝ごはんの催促だけは変わらずベットに上がってきてくれた。朝だけは起こしに来たつゆを存分にかわいがった。
そんなこんなで半年かかったが、猫、人間ともにそれなりに距離感を保ちながら生活できるようになったのである。
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