つゆとの話し(6)
前回のお話し
つゆが来て3年
令和2年の梅雨。
つゆが我が家にきてから3年が経った。まつもいつの間にか1年半が過ぎていた。
このころのつゆとまつとの関係はつかず離れず、という感じだった。つゆもずいぶん落ち着いて過ごせていたと思う。
まつはつゆにちょっかいを出すことが少なくなっていた。成長して落ち着いてきたのだろう。自分は自分、つゆはつゆと言うことを理解したようだ。
それでも、つゆのことはお姉さんと思って慕っていたようで、ひなたぼっこの時などはつゆの近くにいることが多かった。
つゆは3年経っても変わらず猫らしく気ままに暮らしていた。
ごはんをたくさん食べ、昼寝をたっぷりとした。日中は好きな場所で過ごし、晩ごはんを食べた後は1階の水飲み場の前で長い時間過ごしていた。
つゆはちっとも運動しなかったので、僕は少しは運動してほしいと思っていたので猫じゃらしを振って遊ばせようとした。
ところがつゆは仰向けに寝転がりながら手だけを動かすだけでその場から動くことはなかった。本当に怠惰を絵にかいたような猫だった。
そんなつゆでも小走りになる時があった。ちゅーるを見せた時だ。いつもとは違うスピードで走ってくるつゆを見て「つゆちゃんも走れるんだ。」と妙な感心をしたものだ。
大きな体と長い毛をふさふさと揺らして走る姿はとてもかわいかった。
つゆ、お仕事をはじめる
令和2年の秋ごろ、つゆが「ねこヨガ」のお仕事を始めた。
ねこヨガとは文字通り、ねこと一緒にするヨガのことで、妻が始めたヨガ教室で試験的に始めてみた。
つゆにしてみれば、うろうろして、ごろごろしているだけのお仕事だ。つまり場所が違うだけでいつも通りなのだ。
おっとりしていて、だれに触られても平気な つゆは、ねこヨガにぴったりだった。
ねこヨガの募集をしたところ、ご家族で体験してみたいと言う方がすぐに見つかった。
数日後、いよいよお仕事初日がやってきた。
参加者さんが来る前につゆはスタジオ入りしてお出迎え。早速、みんなに撫でてもらう。かわいい、と大好評だった。
少し心配もあったが、落ち着いていたので安心した。親バカな僕はつゆがほめられたのもうれしかった。
最初に少し雑談してからヨガが始まる。みんな一生懸命ヨガをしていたが、つゆは気ままに参加者さんの間をうろうろと歩いた。そして、好きな場所で寝転がった。誰かのヨガマットの上だろうとお構いなしだ。
ねこヨガらしく自分もリラックスして、参加者さんもリラックスさせる、いい仕事をしていた。
床暖房もつけていたのでつゆにとっては最高に気持ちいい場所だったに違いない。
ヨガの最後はリラックスのために部屋を暗くして静かに寝転がるのだが、みんなが寝転がるのに混ざって、つゆも一緒になってすーすーと寝息を立てていた。
とても初めてとは思えない見事な仕事ぶりであった。
ヨガが終わると、つゆにとって最も大切な仕事が始まる。ヨガの参加者さんからちゅーるを食べさせてもらうのだ。
つゆにとってはもちろんだが、参加者さんもちゅーるを一生懸命にかぶりつくつゆを見ていやされるというwin-winのお仕事だった。
ちゅーるタイムは参加者さんからの人気も高かった。
つゆにはこの瞬間が楽しみでたまらないようで、回を重ねるごとに、ヨガスタジオ=ちゅーる、と覚えてしまった。
ヨガをする前から参加者さんに「ちゅーるあるんですよね?」と言う感じでごろごろのどを鳴らしながらすりすりしておねだりを始めた。
「つゆちゃん、チュールはお仕事が終わってからだよ」と、僕が言うと部屋にいる人みんながおかしくて笑った。
つゆのいたねこヨガは本当に楽しい時間だった。
つゆとおふとん
夜遅くなって子供たちが塾から帰ってくると、つゆはいそいそと2階に上がる。
令和3年から4年に変わった頃だったろうか。いつの間にか習慣化されていた。
つゆは毎晩、子供たちの布団で寝ていた。長男の部屋か、次男の部屋かはその日の気分次第だったのだが、子供たちが帰宅したら子供部屋に移動した。子供たちが2階に上がるのを見届けてから、ゆっくりと階段を上っていくのだ。
2階に上がっていくつゆにむかって妻が、
「つゆちゃん、今日も2階に行っちゃうの?一緒に寝ようよ。」
と声をかけるのもまた日課だった。つゆは無視してすたすた行ってしまうのだが。。。
子供たちは折りたたみベットを使っている。帰ってきたらベットを広げるのだが、つゆはこのベットが広げられるタイミングを見計らって2階へ行っていた。そしてそのタイミングの取り方は絶妙だったようだ。
子供たちが言うには、
「ベットを広げ終わったところで部屋に入ってきて、そのままベットの真ん中まで歩いてきてごろっとする。」ということだ。
長男、次男、どちらのへやに行ってもタイミングは絶妙だった。どうやってタイミングを計っていたのだろうか?不思議なものだと思う。
ベットに乗ると布団の真ん中に行くか、羽毛布団の上に乗って、ふみふみしたりごろごろ喉を鳴らしたりして子供たちに甘えていた。
子供たちもつゆが来るのがうれしいようで、とてもかわいがっていた。
朝、長男を起こしにいくと つゆが布団の真ん中で寝ていて、自分が床で寝ている、と言うことが何度もあった。
小さいのに大きくなって寝ているつゆと、大きな体を小さくして寝ている長男がとてもほほえましくて朝から笑みがこぼれてしまった。
次男はかけ布団の上につゆをのせ、自分は布団をかぶらずに寝ていた。一晩中、羽毛布団のふかふかをつゆに独占させていたのである。少し寒そうだった。
みんなつゆには優しかった。つゆも子供のことが好きだった。僕たち家族にとってとても幸せな思い出だ。
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