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つゆとの話し(2)
前回のお話し
つゆとの生活が始まった
いよいよつゆとの生活が始まった。僕はつゆが家にいることが嬉しくて仕方なかった。
ご飯を食べたり、トイレに行ったりしただけでおりこうおりこうと褒めちぎり、あくびや伸びをすればほほえましく見守った。
仕事が終わると急いで帰りつゆを探す。ちょっと迷惑顔のつゆを撫でまわす。晩ごはんを食べながら妻から「今日のつゆちゃん」の話しを聞く。
そんな日課が僕の中からすーっとストレスを抜いてくれていた。楽しくてかわいくて仕方がなかったのである。
新しくできたことが増えれば喜び、自分の知らない間にかわいいしぐさを見せたと聞くと、残念またやってくれるかな、と考えた。まるで子供が小さかった時のようだった。
いろいろな人に、うちにどんなにかわいくてきれいな猫がいるのか話しまくった。家にもつゆを見にたくさんの人に来てもらった。
とにもかくにも、つゆにまつわるすべてのことが新鮮だった。
妻はもちろんのこと子供たちもつゆの事が大好きだ。子供たちにとってはつゆが初めてのペットだったので最初はおっかなびっくりだった。
しかしすぐに慣れ、膝の上に載せてみたり、自分の部屋につゆを抱っこして連れていったりするようになった。
うれしさが駄々洩れの次男はもちろんのこと、反抗期に入っていた中3の長男もつゆにはやさしいまなざしを向け、優しい手つきで頭を撫ぜていた。彼にとってもつゆは大きな癒しだったと思う。
あっ、という間につゆが我が家の生活の中心にいるようになったのだ。
つゆはと言うと野良時代の習慣か毎日外を散歩していた。ひとしきり庭をうろうろしてからウッドデッキの下や車の下でくつろぐ。1~2時間経ってつゆを呼ぶと自分からのそのそと帰ってきた。
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ごはんに関しては、体重をまずは増やすこと、と獣医の先生から言われたので1日分のフードを計量したうえで3回に分けて与えていた。
エサは出すとすぐ完食しておかわりを下さい、とすりすりしてくる食いしん坊な子だった。おかげで順調に体重は回復した。
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家の中ではベットの下に入ってごろごろしていることが多かった。涼しいので気に入っているのかと思ったが、それなりに警戒していたようである。
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夏が過ぎ秋も深まったころにはベットの下に入ることはほとんどなくなり、家の中のどこでもお腹を出して寝転がるようになった。
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本当の意味で我が家が「つゆの家」になったのはこのころだったと思う。
つゆと過ごす冬
つゆが我が家に来てから半年が過ぎ冬がやってきた。つゆの体重は5.8キロまで増え、獣医の先生からもこれくらいが適正でしょう、とお墨付きをもらえた。
つゆはますます落ち着いておっとりと、ごはんの時だけはそわそわとして暮らしていた。
寒くなっても毎日のように散歩はしていた。外に行きたくなると玄関の前で「みゃおーん、みゃおーん」と鳴く。「遠くに行っちゃだめだよ」と言い聞かせて玄関を開けてやる。
雪が降っても外に出て、不思議そうな顔をして雪を踏みしめていた。長毛なのでそんなに寒くないのだろうか?
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つゆの気ままな一日はこんなスケジュールだった。
朝は僕や妻を起こすところから始まる。もちろん朝食の要求だ。鳴いたり前脚で顔をちょんちょんとしてきた。それがかわいくてしばらく寝たふりをした。
そのうち、顔を噛んで起こすことを覚えた。痛かったがそれもまたかわいかった。
朝食を済ますと、9時ごろから外へ。お腹がすいてくると玄関の前に戻ってくる。
お昼は、11時くらいからご飯が待ち遠しくなる。エサがしまってあるキッチンと水飲み場と日向ぼっこしている窓辺をうろうろと何度も行き来する。
ようやくありつけたお昼ご飯をあっという間に平らげると、僕や妻のベットに上がってお昼寝。寝息を立てながらすやすや眠っていた。
晩ごはんの催促は4時半ごろから。キッチンで料理をしている妻の足もとで無言の催促。わざと邪魔な位置に寝転がりつつ時々前脚で妻の脚をちょんちょんと触る作戦だった。
つゆの晩ごはんは6時~6時半くらいだったから妻もつゆも約2時間の根競べ。当の妻は晩ごはんを作る間、つゆがそばにいてくれることがうれしかったようだ。
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寝床はその日の気分で家族のベットを転々としていた。次男はつゆが来るようにと自分の部屋のドアをわざわざ開けて寝ていた。それもまた微笑ましかった。
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ちょうどこのころ、長男の高校受験が近づき、家の中に緊張感が漂い始めたころだった。つゆは何かを察したのか2階の子供部屋に行く回数が増えた。ただ子供部屋で寝っ転がっているだけだったけど長男はずいぶん落ち着けたと思う。やさしくて賢い猫だった。
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そんなこんなでつゆがいる幸せを感じながら平成29年が暮れていった。
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