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マイセン 陶器の鐘が鳴る街
Meißen マイセン
ドレスデン、ライプツィヒと共に、私が何としても訪れたかった街、それがマイセンだ。
陶器の街、マイセン。
マイセンをご存知の方は多いと思うが、この街を訪れた事がある人には、なかなか出会えなかった。
マイセンの陶器が有名過ぎてしまい、マイセンという言葉が街の名前である事を知らない人さえいるほど、その陶器は有名だ。
ドレスデンから電車で30分、エルベ川のほとりの小さな街。
私は2年前の誕生日を、この街で過ごした。
エルベ川沿いに建つアルブレヒト城。
全ての場所が徒歩で行ける距離にある、こじんまりとした街を、私は一目で気に入ってしまった。
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私達は最初に、聖母教会を訪れた。
この教会の鐘は、マイセンの陶器で出来ていると知ったからだ。
ドレスデンのツヴィンガー宮殿にも、仕掛け時計にマイセン陶器の鐘が使われているものがあるのだが、ここでもどうしてもその音色を聞いてみたかった。
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11時ちょうどに、私達はその音色を聞いた。
金属の音とは違い、優しく耳に沁み込むような音色。
その響きはとても美しかった。
聖母教会の塔にも登れることを知り、私達は塔へ登ることにした。
こんな鍵を渡され、私達は塔への扉を自分達で開け、塔に登った。
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アルブレヒト城と、城壁に囲まれた旧市街が見渡せる。
これは、アルブレヒト城からの眺めよりも綺麗だろうと思う。
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塔に登ると、その陶器の鐘を間近で見る事ができた。
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教会を後にして、アルブレヒト城まで歩いて登って行く。
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アルブレヒト城の隣にある大聖堂では結婚式が催される予定になっており、教会には入場ができなかった。
しかし、大聖堂前にはウェディングドレスを着た花嫁が嬉しそうに笑って、みんなと歓談していた。
私の誕生日と同じ日に結婚式を挙げる彼女に親近感が湧き、どうかいつまでも幸せでありますようにと、遠くから祈った。
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アルブレヒト城も、コロナの影響で入場ができなかった。
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しかし、私の目的地は別にある。
それが、国立マイセン陶磁器博物館だ。
ここでマイスター達の作業を見る事ができると知り、どうしてもそれを見たかったのだ。
マイセンの歴史は古い。
ザクセンの選帝侯アウグスト1世(Friedrich August I. 以下アウグスト強王)は、大変な陶磁器ファンだった。
当時は、アジアの陶磁器が爆発的な人気を誇っており、その白い陶磁器の色が、見る人の心をとらえたのだという。
ツヴィンガー宮殿には、陶磁器博物館があり、私は前日までにここも見学したのだが、中国や日本の陶器がコレクションされており、その量に驚いてしまった。
1705年に、アウグスト強王は錬金術師ベドガーに陶磁器の研究を命じる。
ベドガーは4年の歳月をかけて、その方法を発明したものの、その発明を外部に漏らしたくないアウグスト強王は、なんと彼をアルブレヒト城に幽閉してしまった。
同時期に、ザクセン近郊の鉱山から採れるカオリンという材料を使い、ようやく白い陶器の製造に成功したのだという。
1710年、王立ザクセン磁器工場が作られ、300年以上経った今もなお、その製造方法は一貫して厳密に取り決めがされているそうだ。
私達は、ろくろを使う造形の工程から、あの有名なブルーオニオンの絵付け、繊細な人形の置物を作る様子、また焼いた絵皿に上から絵付けをする方法など、1時間半に渡りその作業の様子を見学した。
もっと見ていたいと思うくらい、その繊細な作業の様子は神々しかった。
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陶器の人形を作る工程。
焼くと縮んでしまうため、その縮小率まで想定して作業が進められていくのだそうだ。
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このかたは、ブルーオニオンの絵付けをしている。
失敗が許されない、大変繊細な作業だ。
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こちらは、一度焼かれた陶器に、更に絵付けや金箔などの装飾を行う作業。
絵付けの後、再度陶器が焼かれ、完成となる。
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全ての作業は分業化されており、それぞれの作業で合格した物だけが次の工程に進むことができる。
そして、最後に二本の剣のマークを付けたものだけが、マイセンの商品として認められるのだ。
この剣は、アウグスト強王が命じて描かせたものだと言う。
誰が造形し、誰が絵付けをしたか、全ての商品にはその担当者のイニシャルや印が付けられており、それがマイセンの誇りなのだという。
この二本の剣のマークも、年代によって少しずつ違ってきているそうで、このマークと担当者の印で、いつ誰が作成したものかすぐに分かるそうだ。
マイスター達は、作業をするだけでなく、芸術作品を毎日生み出しているのだと思うと、感動すら覚える。
こちらが、マイセンの二本の剣マークの変遷。
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博物館兼、展示場になっている吹き抜けのホールには、ほぼ等身大の女性の磁器像がある。
ザクセン州からその名を取ったと分かる、ザクソニアと名付けられたその像は、欧州で最大の磁器だそうだ。
近くで見ると、スカートの部分にはマイセンでよく見られる小さな花が、所狭しと付けられていた。
ガイドの方に聞いたところ、その花の数は8000個ほどにもなるそうだ。
彼女は、私は実際に数えた事はないけどね、と笑って教えてくれた。
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他にも陶器のパイプオルガンや、芸術的な作品の数々が展示されている。
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博物館の一階には、カフェが併設されていた。
ガイドの女性が、マイセントルテを是非食べてみてくださいと勧めて下さったので、私達は早速カフェに足を運んだ。
マジパンで覆われたマイセントルテ。
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コーヒーもケーキも、マイセンの食器で運ばれて来た。
そしてケーキには、二本の剣、マイセンのマークが付いている。
マイセンの食器で出てくるカフェはいくらでもあるけれど、このケーキはここでしか食べられないね、と私達は笑った。
そしてこれが、私の誕生日ケーキとなった。
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エルベ川のほとりの街マイセンで、マイスター達の神々しい作業を見て、その歴史に触れ、美味しいトルテを食べ、とても満足な誕生日の一日を過ごす事ができた。
コロナの影響がなければ、私達は別の国で休暇を過ごす予定だった。
全ての予定をキャンセルし、私達はドレスデン近郊を旅行地に選び直した。
もしかしたら、私がこの街を訪れることは、ずっとずっと先だったかもしれない。
ドイツにも、まだ訪れた事のない素敵な街があると知った事。
それが自分への一番の誕生日プレゼントだった。