Ver13 なぜRと離別しなくてはならなかったのか…悲恋の訳

自分は最終的にGT-Rを手放した。

事故で廃車にしたわけでもないし、借金のカタに持って行かれたわけでもない。自ら手放したいと思い、自らの意思で売り渡した

長年恋い焦がれたアイドルと晴れて付き合うことができた。そして、お互いの理解を深め理想のカップルになったかの様に思えた密月。時速300キロで走り続けた二人の間に何があったのか。なぜ二人は別れなくてはならなかったのか?

●恋い焦がれたアイドル=GT-R

●お互いが理解を深めたあの頃

●このまま付き合い続ければ、自分が崩壊してしまう…

ここでは、その悲恋を少しだけ綴る…。

初めてウチにRが来たとき、それは心躍る瞬間ではあったのだが、実物を見たときは「やはりアイドルはテレビで観ていた方がよかったのかな」と思ってしまった。280馬力のノーマルエンジンは恐らく衰えて250馬力程度にはなっていただろう。思ったほど速くない。ハンドルやシフトノブは擦れて色が落ちていた。ほかの男の手垢…を感じてしまう。Rへの憧れが強かった分、現実とのギャップは大きく、初対面でやや失望してしまったというのは、正直な気持ち。テレビでは、あんなに美人だったし、愛想がよかったのに、会ってみるとそうでもないな…という、そのまんまだった。

とはいえ自分は手に入れたRを全てリニューアルし、新車同様、いや新車以上に仕上げてやろうと思っていたから、やるぞ!っていう気持ちは強くあった。ただ、現状のRを大切にしてやろうとは思えなかった。

オールペイント(全塗装)を済ませ、エンジンを換装し、速く美しくなっていくR。自分の中の恋心も再び熱を帯びてくる。

速く、そして美しくなったRに再び恋の炎は燃え上がり火傷するような時期もあった。しかし、そう長くは続かなかった。


そう、彼女は金遣いが荒かった。そして飛び切りのワガママだったから。


まず普段の食事代が高い! …それは織り込み済みだったから、ガソリン代、タイヤ代、さらにはオイル一揃いだけで10万円などは目をつぶりましょう。車検も保険も駐車場代もRだから掛かるわけじゃない。

わかっていた。わかってはいたのだが、その浪費癖とワガママっぷりは想像を遙かに超えるものだった。あれが欲しいこれが欲しい。エアフロセンサーが壊れたと言っては数万をせびり、O2センサーが壊れたと言っては数万をせびる。

次はエアコンのコンプレッサーですか10万円ですね。そして燃料ポンプ故障でレッカーまで要求する。毎月10万円程度のトラブル出費があるので、常に用意しておかなきゃならない。単純計算で年間120万。数万のときもあれば、数十万のときも。ほんとに年間に平すとそれくらい掛かるのよ。完全に赤字。趣味で使う金額じゃない。消耗品と維持費はぎりぎりサラリーマンの稼ぎでもどうにかなる。ほかの遊びをしなければ足りる。でもさらに10万上乗せとなると、ぎりぎり…いや完全アウト!笑 自分の生活の部分も切り詰めないとやっていけない。

そんな出費とて、一流女優と付き合ってるんだ!という満足感があれば我慢もできるというもの。しかし、その我慢もいずれ限界が来る。

問題は浪費癖だけではない。トラブルメーカーでもあった。2時間も3時間も高速で走った先でトラブルを起こし、自走では帰れないと駄々をこねる。レッカーを呼び、近所の修理屋まで運び、修理代を払い、その後クルマのない生活を強いられる。今日は、無事帰られるのか?そんな不安が常につきまとう。 

湾岸線を200キロオーバーで走る。その最中も「何かが壊れるんじゃないか?」という疑念がよぎる。タイヤがバーストでもすれば瞬殺される領域。オイルポンプが死んだらエンジンもブロー、死ななかったとしても結果、数百万コース。そんなトラブルがいつ起こるかわからない。そんな相手といつまでも付き合って居られる訳がない。

もう信じられなくなっていた…。300キロ出せるはずだが、何かが壊れるんじゃないかという恐怖からアクセルが開けられない

100%信じられなかったら、もう踏めない。

これだけ愛情を注ぎ込んできた、気苦労もしてきた、それでいて信じられない、踏めない、飛ばせないでは割に合わない。そう思い始めたら、冷めるのは一瞬だった。愛情は薄れ憎悪すら生まれかねない状態に。

これ以上付き合い続けたら、自分は崩壊してしまう。経済的にも精神的にも。金も、時間も、気持ちも全部注ぎ込んだ。もう抜け殻みたいになってしまっていた。嫌いになりかけている自分がイヤだった。GT-Rを嫌いになりたくない。「解放されたい」ただその一心だった。

ヒロシ、俺のR買わないか?


その翌週、俺はRオーナーではなくなった。




かつて自分の血を沸騰させたスポーツカーと界隈の人間。その思い出を共有していただきたい、知らない方に伝えたいと、頑張って書いております。ご支援いただければ幸いです。