陰陽の基本概念・基本原理
この世界の全ての事物は陰と陽に分けることができ、また全ての事物には陰と陽が備わっているという考えが陰陽論です。古代中国人はこの陰陽論を用い、人の身体の不調を治療したり、風水をしたり、占いをしたとされています。
①東洋医学における陰陽論のポイント
❶陰陽は相対的な概念であり、常に両者が相互に関連し合っています。例えば、昼(陽)に対する夜(陰)、暑(陽)に対する寒(陰)のように、一方だけでは存在し得ない相補的な関係にあります。
❷生命活動において陰陽のバランスが最も重要とされ、このバランスが崩れることで病気が発生すると考えられています。例えば、体の冷えすぎ(陰の過剰)や熱の上昇(陽の過剰)は、それぞれ健康上の問題を引き起こす原因となります。
❸陰陽の性質は以下のような対比で表現されます。陽は活動的、外向的、上昇する、温かい、明るいなどの特徴を持ち、陰は静的、内向的、下降する、冷たい、暗いなどの特徴を持ちます。
❹人体において、臓器の機能(働き)は陽に属し、臓器の実質(形)は陰に属すると考えられています。また、体の表面は陽で内部は陰、背中側は陽で腹側は陰というように、身体の部位によっても陰陽の属性があります。
東洋医学の治療では、この陰陽のバランスを整えることを基本としています。例えば、陽が過剰な場合は陰を補い、陰が不足している場合は陽を抑えるなど、状況に応じた調整を行います。
②基本的な性質
陽の性質:熱を持つ、上昇する、外向きの動き、拡散する、活発で動的、明るい、機能的、軽い
陰の性質:冷たい、下降する、内向きの動き、凝縮する、静的で安定、暗い、物質的、重い
③相互関係
❶陰陽互根(内在性を強調)
陰陽互根とは、陰と陽が互いの中に存在し、根ざし合っているという考え方です。つまり、完全な陰や完全な陽は存在せず、陰の中に陽があり、陽の中に陰があるという原理を示しています。
例①:光(陽)があるからこそ影(陰)ができ、影(陰)があるからこそ光(陽)の存在が認識できます
例②:幸せ(陽)を知っているからこそ不幸(陰)を感じ、不幸(陰)を経験するからこそ幸せ(陽)を実感できます
例③:体を温める働き(陽)の強い心臓も実質(陰)があってこそ機能し、体を冷やす働き(陰)の強い腎臓も温める力(陽)があってこそ働きます
この原理を理解することで:
①極端な状態を避け、バランスを保つことの重要性がわかります
②治療において、単純に「陰を補う」「陽を補う」だけでなく、両者の関係性を考慮した対応が必要となります
③健康管理において、一方に偏りすぎない生活習慣の重要性が理解できます
❷陰陽制約(抑制関係を強調)
陰陽制約とは、陰と陽が互いに抑制し合い、制御し合う関係性のことを指します。これは自然界や人体における陰陽のバランスを保つ重要なメカニズムです。
例①:体温が上がりすぎる(陽と過剰)と発汗により冷却(陰の作用)され、体温が下がりすぎる(陰の過剰)と震えや代謝促進(陽の作用)により温められる
例②:長時間起きている(陽の過剰)と眠気が強くなり(陰の作用)休息を取らざるを得なくなり、十分な睡眠を取る(陰の過剰)と自然と目が覚める(陽の作用)
例③:交感神経(陽)と副交感神経(陰)が互いに制約し合うことで、適切な生理機能を維持します
治療への活用:
①過剰な陽を抑えるために陰を補う
②過剰な陰を抑えるために陽を補う
③バランスを取り戻すための適切な治療方法を選択する
❸陰陽消長(変化過程を強調)
陰陽消長とは、陰と陽が常に変化し、盛衰を繰り返す現象を指します。一方が増加(盛)すれば、他方が減少(衰)するという法則性があります。この変化は周期的で循環的な特徴を持ちます。陰陽制約は互いに抑制し合うバランス維持の仕組みであり、陰陽消長は時間的な盛衰の変化を示す原理です。制約が「制御の機能」を表すのに対し、消長は「変化のプロセス」を表現しています。
例①:夜明け(陽が増加し始める)→正午(陽が極まる)→夕暮れ(陰が増加し始める)→真夜中(陰が極まる)
例②:春(陽が増加)→夏(陽が極まる)→秋(陰が増加)→冬(陰が極まる)
例③:幼年期(陽が盛)→成年期(陰陽バランス)→老年期(陰が盛)
診断への応用:
①症状の時間的変化の把握
②病状の進行や回復の予測
③体調の周期的な変化の理解
❹陰陽転化(質的転換を強調)
陰陽転化とは、極端な状態に達した陰陽が、その極限において反対の性質に変化する現象を指します。「物極まれば必ず反転する」という原理です。陰陽制約が互いに抑制し合って均衡を保つ働きなのに対し、陰陽転化は極限状態での質的な変換(反対の性質への変化)を表す現象です。
例①:夜が最も暗い深夜を過ぎると(陰が極まる)徐々に夜明けへと向かい(陽への転化)、太陽が最も強い正午を過ぎると(陽が極まる)徐々に日は傾いていく(陰への転化)
例②:病気が最も重い状態を過ぎると(陰が極まる)回復に向かい始まり(陽への転化)、体力が最も充実した後に(陽が極まる)疲労が訪れ休息が必要になる(陰への転化)
治療への応用:
①転化を予防する予防的治療
②適切な転化のタイミングを見極めた治療
③過度な治療による逆効果の回避
❺陰陽可分(分析方法を強調)
陰陽可分とは、あらゆる事物や現象が陰と陽の二つの側面に分けて考察できるという原理です。これは東洋医学における物事の分析方法の基本となります。陰陽可分は物事を陰陽の二面で分けて考察する分析方法であり、陰陽互根は陰陽が互いの中に存在し根ざし合っているという相互関係を表す原理です。
例①:上部(陽)と下部(陰)、表面(陽)と内部(陰)、背側(陽)と腹側(陰)、機能(陽)と物質(陰)
例②:熱証(陽)と寒証(陰)、実証(陽)と虚証(陰)、興奮(陽)と抑制(陰)
治療への活用:
①陰証には温める治療
②陽証には冷やす治療
③的確な治療法の選択
❻陰陽対立(相反する性質の関係性を強調)
陰陽対立は、相反する性質を持ちながらも、互いに切り離せない統一的な関係性を強調する原理です。陰陽可分は分類・分析の方法論、陰陽互根は互いの中に存在する内在的関係、陰陽対立は相反しながらも不可分な統一的関係性を示す原理です。
例①:昼(陽)と夜(陰)、、暑(陽)と寒(陰)、動(陽)と静(陰)、上昇(陽)と下降(陰)
例②:交感神経(陽)と副交感神経(陰)、興奮(陽)と抑制(陰)、筋肉の収縮(陽)と弛緩(陰)、動脈(陽)と静脈(陰)
診断における意義:
①症状の性質を相対的に把握
②病態の本質を対立的視点で理解
③体調の偏りを両面から観察