鍼通電療法 神経パルス
前回の記事では筋パルスについて説明しました。
今回の記事では表題の通り神経パルスについてお話していきますので鍼灸学生向けになるかと思います。
筋パルスの記事と同様に効果や適応などを論文ベースでお話ししていきたいと思います。
1.神経パルスとは
神経パルスとはその名の通りステンレス鍼を通じて神経に電気(パルス)を流すものです。
筋パルスの目的は筋ポンプ作用による筋内血流改善にありましたが、神経パルスでは運動枝と感覚枝で目的が異なります。
徳竹先生は神経パルスの目的を以下のようにしています。
運動枝:支配筋の収縮による筋ポンプによる血流改善 感覚枝:疼痛閾値の上昇 (徳竹 忠司.日本東洋医学系物理療法学会誌.第41巻2号)
現在の鍼通電では感覚枝と運動枝を打ち分けることはできませんが、同じ神経内には刺激は入るため運動枝・感覚枝ともに効果があるとされています。これは臨床経験に依存するところが大きいですが...。
つまり神経パルスを行うと筋と神経の両方を刺激できます。
ここまでの話を聞いて筋パルスと神経パルスを使い分けるとしたら皆さんならどうしますか?
私が普段臨床現場において行っている使い分けを説明させていただきます。
皆さんの意見と比べながら読んでみてください。
ざっくり説明すると
神経パルス→神経走行上の痛み、運動麻痺など 筋パルス→筋肉走行上の痛み、筋に限局した症状など
です。
坐骨神経痛などがあれば坐骨神経に鍼通電を行いますし、筋性の腰痛であれば筋肉に鍼通電を行います。
もちろんここまで単純に分けている訳ではありませんが、おおむねこれで治療方針を決定しています。
しかし肩甲背神経のように運動枝しか持っていない末梢神経もあります。
肩甲背神経は肩甲挙筋・大菱形筋・小菱形筋を支配する運動神経です。
私は臨床上この神経に鍼通電をすることが多くあります。
肩こりをお持ちの方は肩上部だけではなく肩甲間部にもつらさを感じている方が多いです。
このイラストの右側は僧帽筋や三角筋をはがしたイラストになっています。つまり大・小菱形筋と肩甲挙筋は僧帽筋よりも深層にある筋ということです。
鍼灸師であれば最も気を付けているであろう医療過誤は気胸であり、肩甲間部などはあまり刺入したくはないかと思います。
私は置鍼や単刺はしても菱形筋に筋パルスはしません。
そこで肩甲背神経パルスで筋を大きく動かしてあげることで肩こりの改善を狙います。
肩甲背神経は頚神経ですので頚部から狙うことができるため気胸のリスクは小さいです。
詳しい刺入点については別の記事を執筆中ですので興味のある方は覗いてみてください。
まとめ 神経パルス末しょう神経障害の緩和・筋を大きく複数動かしたい場合に用いられる。 筋性症状や神経の痛みなど適応が幅広いため、必要な刺激の仕方を見定める必要がある。
2.神経パルスを行う上での注意点
鍼治療にて気を付けるべき点は端的に言うと
(1)刺鍼時の刺激感
(2)ドーゼオーバー
(3)通電感の違い
であると私は考えています。
(1)刺鍼時の刺激
感からお話しします。
神経への通電は独特の感覚があります。
筋とは違って神経繊維や神経細胞に直接刺入しているわけではないため神経を傷つけることはありませんが、神経走行に伴う響き感があるため鍼灸を初めて受ける方には十分な説明が必要でしょう。
もしご自身で受けたことがない方は受けてみるとよいと思います。
経験のある方ならわかるかと思いますが、刺入時に神経近傍に触れた時の電気が走るような響き感は苦手な方が多いです。実際に私も苦手です。
対策としては
・ゆっくり刺入すること ・あらかじめの予告
が重要になってきます。神経通電を初診時に行い、電気が走るような響き感を感じた方は2度目の来院が遠のくこともあります。
必要な治療であれば十分な説明と同意を得てから行いましょう。
(2)ドーゼオーバー
これも普段の鍼治療で気を付けている方が多いかと思いますが、神経パルスではより一層気を付けましょう。
私が実際に治療した中で起きたインシデントで通電後に重だるさが残ったことがあります。
後から聴取した際には、「電気が強い方が効くと思って我慢した」とおっしゃっていました。
これは私の説明不足はもちろん、刺激量を見誤ったことで起きたインシデントです。
神経パルスでは支配筋が多い神経ほど多くの筋が動きます。そのため筋への通電よりも多く運動がおこります。
こういったインシデントを起こさないための対策としては
・刺激感=効果ではないことを説明する。 ・刺激量を十分に注意する。
ことだと思います。私は神経パルスを初めて受ける患者さんに関しては、筋の収縮が起こるもしくは神経走行に伴った感覚を知覚したところで止めています。
(3)通電感の違い
神経の生理学的特徴として全か無の法則があることは皆さんご存じかと思います。
全か無の法則 生体の反応は、刺激がある一定の値(閾値(いきち))以下のときは皆無で、閾値に達すると最大を示し、それ以上刺激を強めても変化はないという法則。 カエルの心臓についての実験で発見され、のち、心臓のほか神経繊維、骨格筋繊維などの単一細胞体に限ってこの法則があてはまることが明らかになった。 https://kotobank.jp/word/%E5%85%A8%E3%81%8B%E7%84%A1%E3%81%8B%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87-88057#:~:text=%E7%94%9F%E4%BD%93%E3%81%AE%E5%8F%8D%E5%BF%9C%E3%81%AF%E3%80%81%E5%88%BA%E6%BF%80,%E7%84%A1(%E3%81%97%E3%81%A4%E3%82%80)%E5%BE%8B%E3%80%82
筋への通電は徐々に収縮が起こり始めますが、神経への通電では突然収縮もしくは知覚が起こります。
全く動いていない状態でボリュームを上げていくとほんの少しの違いで筋の収縮が起こり、患者さんでも驚かれる方は多いです。
神経パルスに慣れている方でも感覚枝に当たっている場合はかなりの刺激感があるため、苦手という方もいらっしゃいます。
対策としては
・十分に説明をする。 ・通電のボリュームはゆっくり上げる。
シンプルではありますが、これらに気を付けるしかありません。
まとめ 神経パルスは通電感・刺激量の注意。 それぞれに対しての十分な説明。
今回の記事では神経パルスについてお話しました。
実際の刺鍼点や通電の動画はまた別の記事でお話しします。
最後まで読んでくれた方ありがとうございました。
興味があればまた別の記事も読んでみてください!