特別な宿泊施設
研究者等短期宿泊施設
ワタシとアニが72日間の大半を過ごした宿泊施設について少し話したい。
この宿泊施設は元々、大学附属病院に研究や留学等でやってくる研究者、学生、とその家族のためのもので、一般の人は宿泊する事は出来ない。
ただし、大学附属病院の患者本人と、その患者家族も申請すれば泊まることが出来る。
アニとワタシの場合もこの枠で、治験コーディネーターからの紹介で入ることが出来た。
大学病院から目と鼻の先にあるにもかかわらず、大多数のタクシー運転手にすらあまり知られず、この宿泊施設はひっそりと存在していた。
ゲストハウスとウィークリーマンション、マンスリーマンションが混在しているようなこの宿泊施設の一階のロビーに管理室があり、管理室スタッフ2名が朝9時から夜9時まで駐在している。
最初の20日間と、最後の30日間、アニとワタシはこの宿泊施設にお世話になった。
地獄のお引越し『汚部屋』爆誕
アニとワタシ、それぞれが別の部屋に滞在していたのだが、知る人ぞ知るこの宿泊施設。いつも同じ部屋が空いているわけではないので、度々部屋を移動しなければならず、部屋移動に伴う『引越し作業』はワタシが、ほぼ寝たきり状態のアニの分までひとりで担っていた。
最初はまだ良かった。
しかし一日のほとんどをベッドで過ごす状態のアニは退屈しのぎか、衣類、日用品、缶飲料、果ては健康器具まで、毎日のようにネット通販で買物をし、荷物が日を追うごとにどんどんどんどん増え…、
ちょっとした『ゴミ屋敷』の様相を呈してきたのだ。
何度目かの引越しの時、荷物の運び出しに丸1日以上かかり、その日は徹夜。
夜通しの肉体労働に日常的肉体労働が重なり、とうとうワタシがねをあげてしまった。
夫&娘引越しセンター
その次の引越しの時ワタシは、運び出し要員として『夫と娘』を召集したのだ。
それを聞いたアニは呆れたように叫んだ。
『は?わざわざ呼んだの!?これくらいの荷物、2人(アニとワタシ)でやりゃあ、ちゃちゃっとすぐ出来るよ!!』
どうも『自分が寝たきりの状態』で『引越し作業が出来ない』という事実は、アニの頭の中からスッパリと抜け落ちているらしかった。
それ以来、夫と娘は『引越し』の度、ワタシに泣きつかれ、飛行機とモノレールを乗り継ぎ、泊り込みで、駆けつけることになる。