第2話 アニが参加した治験
アニが参加した治験は、
『尿管癌』が対象の、
『アメリカ』の新薬を使ったものだった。
治験内容とスケジュール
病院内のオンコロジーセンターで、
500ミリリットルの新薬の薬液を、
2時間ほどかけて点滴投与する。
毎日ではない。
第一週目の、
火曜日が治験前検査で水曜日が治験点滴。
第二週目の、
火曜日が治験前検査で水曜日が治験点滴。
第三週目は
インターバルとして身体を休ませる。
そしてまた翌週、
第一週目の、
火曜日が治験前検査で水曜日が治験点滴。
第二週目の、
火曜日が治験前検査で水曜日が治験点滴。
第三週目は
インターバルとして身体を休ませる。
といった感じで、
『3週間で1クール』のサイクルだ。
これを繰り返していく。
治験とは
治験とは、
まだ国が認めていない新薬を使った『人体実験』だ。
治療と言えば治療なのだが、
製薬会社が『アナタの身体で実験させてね。』
という主旨なので薬代は無料。
それに付随する痛み止め等の薬代も無料に近い。
なので『処方箋』ではなく、『お薬引換券』なるものが発行される。
また毎回点滴を受ける度、
『交通費』(アニの場合¥1600だった)が出る。
治験の落とし穴
一見、
『タダで治療してもらえてその上、交通費まで出るなんて、超ラッキーじゃん!!』
と、思うかもしれないが、今回の治験と言うのは
『尿管癌』
に対して行われるものなので、
『これ以外の疾病』
についての治療は『医師との相談』だ。
下手をすると全額負担になる可能性もあり、要注意だ。
また、
『通院』が条件なうえに
『交通費』を受け取っているので
『入院』も出来ない。
アニのように、
発源は『尿管癌』だが、リンパ節をはじめ、
全身に癌が転移してしまっている場合、
言葉は悪いがその他の箇所の癌の進行は『黙殺』される。
というか、
そもそも治験は『初期癌の段階』で行われるものであって、アニのような標準治療が終わり、全身転移後の末期癌患者は本来、『緩和ケア』に入るべきであって、治験対象外なのだ。
俺様の割り込み乗車
では何故、
そんな状態のアニが、
今回の治験に参加出来る事になったか、と言うと、
『先生…、前回、オレが参加したいって言った時、癌が小さ過ぎてダメだって言いましたよね?今度こそ!参加させてもらいますからねっ!!』
と、
半ば強引に、参加させてもらったようなのである。
一度、担当医師と、本人の居ないところで、
この事を聞いてみたところ、医師は苦笑しながら、
『ええ、まあ、はい…。ま、こんな感じで来られたので、仕方なく…。』
と、右手で拳を握り、グリグリとねじ込むようなジェスチャーをしてみせた。
『ハラスメント妖怪』爆誕
そう。アニは、
良く言えば
『リーダーシップに優れた性格』で、
悪く言えば
『唯我独尊の俺様』なのだ。
その上、超がつく『せっかち』。
…ワタシはここから先、
この身体は重篤なのに口だけは達者な
『ハラスメント妖怪』に振り回される事になる。