小説「淡紫色の季節」(上)
1
千里が、びくりと身体を震わせた。
彼女の息遣いは荒く、恐怖心を押さえ込む様にして、僕の手に汗ばんだ両腕を強く絡ませてくる。毅然とした印象が強い普段の横顔でさえ、不安げな顔色に染まっていた。
「センリ?」
今度は僕の声に驚いたのか、再び千里は声を上げて身体を硬直させる。予想外の行動に、僕まで驚いて懐中電灯を落としそうになったが、間一髪の所で堪え抜いた。その物体が生み出す、まさに機械的な光線が闇を照らしている。二人を包む冷たい風も、爽やかな虫の音も、夜空や懐中電灯の光