【超短小説】年雄の境界線
年雄は幼馴染のマーボーとランチをするために出かけた。
マーボーと会ってすぐ「年雄が帽子かぶるの珍しいな」と言われた。
年雄は30歳を過ぎたあたりから、帽子を被らなくなった。
理由は、ハゲると耳にしたからだ。
そんな年雄が久しぶりに帽子をかぶって出かけた。
理由はハゲてきたからだ。
出かける前、鏡で自分を見た時に、あれ?って感覚があった。
薄い。頭頂部が薄い。
年雄は、今日から帽子をかぶると決めた。
帽子をかぶってきた理由を聞いたマーボーは少し不思議な顔をした。
そして「帽子とってよ」と年雄に言った。
年雄は帽子をとって「ほら、薄いだろ?」と聞いた。
でもマーボーは「五年くらい前からそれくらい薄かったけど、今更?」と言った。
「え?」年雄は驚いた。
「お前の薄いの境界線が今なの?俺は五年前から薄いと思ってたよ」
年雄は帽子を被り直す事はなく、ランチを楽しんだ。
浜本年雄40歳。
年雄の"薄い"の境界線はまだ先延ばしでいいのだろう。